CO2以外の温室効果ガス排出削減が温暖化を減速させていることを検出
~1998年から2012年の温暖化減速期についての分析~
(文部科学記者会、科学記者会、環境記者クラブ、環境記者会、筑波研究学園都市記者会、神奈川県政記者クラブ、横須賀市政記者クラブ、青森県政記者会、むつ市政記者会、高知県政記者クラブ、沖縄県政記者クラブ、名護市駐在3社)
1. 発表のポイント
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1998年から2012年には地球温暖化が減速したことが知られているが(図1)、この減速はラニーニャ※1現象や太陽活動の低下などの自然変動に起因するとされていた。
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本研究では、簡易気候モデル※2と重回帰モデルを組み合わせ、この期間の地球温暖化の減速に対する人為的および自然的な要因の寄与について、世界で初めて人為起源の要因を詳細に分けた形で包括的に調べた。
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その結果、減速の約50%がラニーニャの冷却効果、約26%が太陽活動の低下によるものであること、そしてメタンおよびオゾン層破壊物質※3の削減の影響が、減速全体の約24%を占めることを明らかにした。これは、地球の気温上昇に対して、CO2以外のガスも重要な役割を果たすことを示している。
2.概要
国立研究開発法人海洋研究開発機構(理事長 大和 裕幸)環境変動予測研究センターの蘇 宣銘 特任研究員、立入 郁 グループリーダー、羽島 知洋 グループリーダー代理、河宮 未知生 センター長は、国立研究開発法人国立環境研究所の研究者らとともに、簡易気候モデルと重回帰モデルを組み合わせ、1998年から2012年にかけての温暖化減速に対するさまざまな要因の寄与を分析しました。
この期間は、世界の平均地表気温の上昇速度が遅くなっていることが知られています(図1)(この傾向は、観測データが更新される以前はさらに顕著に表れていたため「地球温暖化の停滞」や「ハイエイタス(hiatus)」と表現されていました)。
分析の結果、1998年から2012年の温暖化減速期間を1951年から2012年と比較すると、CO2、エアロゾル、火山活動の影響が世界平均気温の上昇を加速させていましたが、ラニーニャ現象による冷却効果と太陽活動の低下はこれを減速させていました。このうち、これまで特に指摘されていたラニーニャの冷却効果による減速は50%程度であり、約26%が太陽活動の低下によるものであることが示されました。さらに本研究では、新たにCO2以外の温室効果ガス、特にメタンやオゾン層破壊物質(ODS)の役割も調べ、これらのガスの排出抑制による効果が全体の減速の約24%を占めていることを明らかにしました。
メタンは強力な温室効果ガスですが、この期間における大気中濃度は安定していました。これには特にヨーロッパ、ロシア、中東における農業およびエネルギー部門からの排出量の削減が貢献しています。同様に、モントリオール議定書※4に基づくオゾン層破壊物質(ODS)の段階的廃止も、地球温暖化の減速に寄与しました。気候変動を論じる上でCO2が最も重要な温室効果ガスであることは変わりませんが、この結果は、これらのガスが1998年から2012年の期間中に気候変動のペースを抑制する上で重要な役割を果たしていたことを示すとともに、我々人類が取り組む地球温暖化対策の有効性を裏付けるものとも言えます。
なお、本研究は、文部科学省 気候変動予測先端研究プログラム・領域課題2「カーボンバジェット評価に向けた気候予測シミュレーション技術の研究開発(物質循環モデル)」の成果であり、同時に国立研究開発法人国立環境研究所「脱炭素・持続社会研究プログラム」およびフランス国立研究機構(Agence nationale de la recherche)「Make Our Planet Great Again programme under the Programme d’Investissements d’Avenir」(ANR-19-MPGA-0008)の国際共同研究の成果としても位置づけられるものです。
本成果は、英国Nature Research社が発行する科学誌「Communications Earth & Environment」に11月1日付け(日本時間)で掲載される予定です。
タイトル:Reductions in atmospheric levels of non-CO2 greenhouse gases explain about a quarter of the 1998-2012 warming slowdown
著者:蘇 宣銘1,2、塩竈 秀夫2、田中 克政2,3、立入 郁1、羽島 知洋1、渡辺 路生1、河宮 未知生1、高橋 潔2、横畠 徳太2
1. 国立研究開発法人海洋研究開発機構、2. 国立研究開発法人国立環境研究所、3. フランスLSCE(Laboratoire des Sciences du Climat et de l'Environnement:気候環境科学研究所)
DOI: 10.1038/s43247-024-01723-x(外部サイトに接続します)
3. 背景
地球温暖化については、これまでの研究の蓄積により、「人間の影響が気候システムを温暖化させてきたのは疑う余地がない」(気候変動に関する政府間パネル (IPCC) 第 6 次評価報告書 (AR6))と結論づけられており、実際にも、特に1950年以降については顕著な気温上昇がみられますが、一方、観測データは1998年から2012年の間に地球温暖化が減速していることも示しています文献1。AR6では、気候システムの内部変動と太陽放射や火山活動などの環境強制力を主な原因として挙げ、この現象を一時的な出来事と表現し、その要因については定性的な表現にとどまり、それぞれの要因がどの程度寄与していたのかは明確に示されていませんでした文献1。地球温暖化の減速の理由を包括的に理解するためには、これらの構成要素の寄与を定量的に分析する必要がありました。
このような定量分析にはシミュレーションモデルを用いた研究が有効です。特に、簡易気候モデルを用いた温暖化要因の評価が近年盛んになってきており(文献2および2022年12月15日既報関連プレスリリース)、これを用いることにより、1998 年から 2012 年の地球温暖化減速に対する自然・人為起源の寄与の比率を評価できると考えました。
4. 成果
本研究では、簡易気候モデル (Simple Climate Model for Optimizationバージョン3.3, SCM4OPT v3.3)文献2を使用して、地球温暖化に対するさまざまな人為的および自然的要因の寄与を評価しました。まず、Coupled Model Intercomparison Project第6フェーズ(CMIP6)文献3における26の地球システムモデルおよび全球大気海洋結合大循環モデル(AOGCM)※5の出力を用い、各モデルのふるまいを再現するように簡易気候モデルのパラメータを調整しました。次に、各温室効果ガスの排出量をわずかに(0.1%)変化させた際に生じる気温の変化の違いを計算し、これをもとに各温室効果ガスの温度上昇への寄与を分析しました(normalized marginal method※6)。最後に、重回帰モデルを使用して、人為的および自然的要因、ならびに地球内部変動の温暖化への影響を評価しました。
その結果、1998年から2012年の温暖化減速期間を1951年から2012年と比較すると、CO2、エアロゾル、火山活動の影響が地球平均気温の上昇を加速させていたのに対し、ラニーニャ現象による冷却と太陽活動の低下はこれを減速させていました。本研究の主要な発見は、メタンとオゾン層破壊物質(ODS)の削減がこの期間の気温上昇の減速に無視できない貢献をしたことを明らかにした点です。メタンは、1980年代に排出量が急増した後、1990年代には農業分野での改善やエネルギーシステムからの漏出の削減により、その増加が抑制されたと言われています。この安定化は、以前の期間と比べて、メタンによる温暖化の傾向が緩やかになったことを示しています(図2、3)。
また、クロロフルオロカーボン(CFCs)などのオゾン層破壊物質(ODS)の多くは温室効果も有しますが、モントリオール議定書のもとで国際的に規制されることにより、その後の温暖化への影響が減少しました。本研究により、オゾン層破壊物質(ODS)による放射強制力(温暖化効果)は、この減速期間中に安定し、温度上昇の抑制に寄与したことが示されました(図3)。
さらに本研究では、エルニーニョ・南方振動(ENSO)※7や太陽活動の変動などの自然要因についても検討しました。ラニーニャはエルニーニョ・南方振動(ENSO)の冷たいフェーズであり、1990年代後半から2000年代初頭にかけて地球の冷却に大きな役割を果たしました。太陽活動の低下フェーズ、つまり地球に届く太陽放射が減少したことも減速に寄与しました。これらの自然的要因は、減速要因全体の約3/4を占めていると、本研究により説明できるようになりました(図3)。
本研究の結果は、1998年から2012年の地球温暖化の減速の原因について、世界で初めて人為的要因を詳細に分けて定量的に評価を行うことで、自然変動のみならずメタン、オゾン層破壊物質(ODS)も重要な役割を果たしたことを新たに示しました。このように過去に生じた気候変動を分析し解釈を加えることにより、今後に向けた新たな視点、すなわち、将来の気候危機を防ぐためには、CO2だけでなくすべての温室効果ガスの削減が重要である、ということを示唆しています。
本研究の計算は、海洋研究開発機構(JAMSTEC)の地球シミュレータ(ES4)および国立環境研究所(NIES)の大型計算機で行われました。
5. 今後の展望
本研究で使用された手法にはいくつかの特長があります。まず、人為的および自然的要因、ならびに内部変動の相対的重要性を定量的に評価できます。次に、より低い計算コストで大規模なアンサンブル実験ができます。これは、高い計算コストを要する複雑な気候モデルを用いた要因分析を補完しうるものです。
今後、このような手法を使用していくことにより、他の異常な気候変動の要因をより迅速に分析できるような研究が可能になります。
この研究は、今後の温暖化の緩和において、メタンとオゾン層破壊物質(ODS)の排出削減も有効であることを示唆するとともに、我々が取り組む地球温暖化対策の有効性を示す科学的な証を示すものでもあります。
また、この研究は、政策立案者や気候科学者にとって、地球の温度変化傾向に影響を与える複雑な要因を理解する上で貴重な知見を提供しています。CO₂以外の温室効果ガスと自然変動の寄与を知ることは、温暖化の要因をより深く理解し、より効果的な気候緩和政策を策定するための基礎となります。
参考文献
文献1: Eyring, V., N. P. Gillett, K. M. Achuta Rao, R. Barimalala, M. Barreiro Parrillo, N. Bellouin, C. Cassou, et al. 2021. “Human influence on the climate system.” Book Section. In Climate Change 2021: The Physical Science Basis. Contribution of Working Group I to the Sixth Assessment Report of the Intergovernmental Panel on Climate Change. Cambridge, United Kingdom; New York, NY, USA: Cambridge University Press.
文献2: Su, Xuanming, Kaoru Tachiiri, Katsumasa Tanaka, Michio Watanabe, and Michio Kawamiya. 2022. “Identifying crucial emission sources under low forcing scenarios by a comprehensive attribution analysis.” One Earth 5 (12): 1–13. https://doi.org/10.1016/j.oneear.2022.10.009.(外部サイトに接続します)
文献3: Gillett, N. P., H. Shiogama, B. Funke, G. Hegerl, R. Knutti, K. Matthes, B. D. Santer, D. Stone, and C. Tebaldi. 2016. “The Detection and Attribution Model Intercomparison Project (DAMIP v1.0) contribution to CMIP6.” Geoscientific Model Development 9 (10): 3685–97. https://doi.org/10.5194/gmd-9-3685-2016.(外部サイトに接続します)
関連プレスリリース
「パリ協定の目標を達成する際に重要となる温室効果ガス排出源(地域・セクターなど)を特定」(2022年12月15日付), https://www.nies.go.jp/whatsnew/20221215/20221215.html
6. 問合せ先
(本研究について)
国立研究開発法人海洋研究開発機構
地球環境部門 環境変動予測研究センター 蘇 宣銘 特任研究員
同 立入 郁 グループリーダー
(報道担当)
国立研究開発法人海洋研究開発機構
海洋科学技術戦略部 報道室 E-mail:press(末尾に” @jamstec.go.jp”をつけてください)
国立研究開発法人国立環境研究所
国立環境研究所企画部 広報室 E-mail:kouhou0(末尾に”@nies.go.jp”をつけてください)