![国環研のロゴ](/whatsnew/2024/pi5dm300001tpntv-img/20240314-logo.png)
古代湖琵琶湖から球形緑藻ボルボックスの新種
"ビワコエンシス"を発見
〜琵琶湖からボルボックス愛を込めて〜
(筑波研究学園都市記者会、環境省記者クラブ、環境記者会、滋賀県政記者クラブ同時配付)
本研究の成果は、2024年9月23日付で学術誌『PLOS ONE』に掲載されました。
![写真1](/whatsnew/2024/pi5dm300001tpntv-img/pi5dm300001tpobo.png)
1. 研究の背景と目的
100万年以上存在している湖は古代湖と呼ばれ、古代湖は地球の歴史の生き証人とも言える貴重な水域です。100万年以上ものあいだ、絶え間ない変化と進化の舞台となってきたこれらの湖は、生物多様性の宝庫として世界中の科学者を魅了し続けています。世界各地の古代湖からは多くの生物の固有種が報告され、生物学的にも重要な発見が相次いでいます。琵琶湖もその一つであり、ビワコオオナマズやホンモロコなど、多くの固有種が生息しています。しかし、球形緑藻ボルボックス(Volvox)※2(図1)に関しては世界的に見ても研究が立ち遅れており、これまで古代湖固有種の発見には至っていませんでした。
![図1の画像](/whatsnew/2024/pi5dm300001tpntv-img/pi5dm300001tpohw.png)
内部に次世代の娘球状体を持ち、通常は無性生殖で増殖する。環境が悪くなると、有性生殖を行い、乾燥に耐える接合子(受精卵)を作る。
2. 研究結果と考察
2022年10月、国立環境研究所琵琶湖分室の霜鳥孝一主任研究員らの研究チームは琵琶湖南湖柳崎において、水質調査を行い、その際に採水された湖水のサンプルからボルボックスの培養株を確立することに成功しました。そして、この培養株を用いて有性生殖を誘導し、その接合子(受精卵)の形態情報を明らかにするとともに、分子情報と照らし合わせて、これが世界で初めて発見された古代湖である琵琶湖固有のボルボックス種であることを明らかにしました(写真1)。
この新種の特徴は既知の種とは明確に異なります(写真2、写真3)。本種では、卵と精子を同時にもつ雌雄同体の有性生殖の群体が誘導され、受精後にこれまで記載されていたボルボックス種とは異なる形の接合子(受精卵)が形成されました。また、分子情報を用いた系統解析で本種がこれまで報告されていたボルボックスとは全く異なる新規系統であることが明らかになりました。これらの成果から、本種は近縁の種とは異なる独自の進化を経て出現した琵琶湖固有の未記載種であると結論付けられ、研究チームは本種をボルボックス・ビワコエンシス(Volvox biwakoensis)と命名しました。
一方で、野崎久義客員研究員らによる琵琶湖のボルボックスに関する現地調査研究は、2013年から2022年までほぼ毎年実施されていましたが、ビワコエンシスを発見することはできませんでした。この事実は、ビワコエンシスが琵琶湖の限られた水域で、特定の時期にだけ出現する種である可能性を示唆しています。今後更なる琵琶湖の現地調査により、ビワコエンシスとは異なる新しい種の発見も期待されます。
![写真2](/whatsnew/2024/pi5dm300001tpntv-img/pi5dm300001tpol0.png)
![写真3](/whatsnew/2024/pi5dm300001tpntv-img/pi5dm300001tpph1.png)
写真3B:「サガミボルボックス(Volvox sp. Sagami)」の接合子(受精卵)。ボルボックス・ビワコエンシスと近縁で有性球状体の形が類似しているが、接合子(受精卵)が短いトゲを持つことで異なる。
3. 今後の展望
琵琶湖の現地調査の継続は、本種の詳細な動態把握やビワコエンシスとは異なる新種の発見に繋がることが期待されます。また、本種の発見は、滋賀県が推進する「マザーレイクゴールズ(MLGs)」のうち、生態系の保全や再生、生物多様性の保全、水質管理、環境学習の推進といったMLGsの目標達成にも貢献するものと考えています。前述のように、ビワコエンシスは10年間の調査でも見つからなかったほど、非常に希少な種であるといえます。その利用促進のため、ビワコエンシスの培養株を国立環境研究所微生物系統保存施設にて保存し、世界中の研究者がいつでも研究できるようにしています。今後は地方自治体や地域との連携をより一層強化し、琵琶湖の生態系理解と保全に向けた取り組みをさらに推進するとともに、琵琶湖の生態系保全の重要性と、そこに生息する生物たちへの「愛」を広く伝えていきたいと考えています。
4. 注釈
※1 マザーレイクゴールズ(MLGs):「琵琶湖」を切り口とした2030年の持続可能社会へ向けた目標(ゴール)であり、琵琶湖版のSDGsとして、2030年の環境と経済・社会活動をつなぐ健全な循環の構築に向け、独自に13のゴールが設定されています。
※2 ボルボックス(学名:Volvox):数百~数千細胞からなる球状の多細胞体を形成する遊泳性の緑藻。春から夏にかけて水田や湖沼によくみられる。体細胞と生殖細胞の分化がみられ、多細胞生物のモデルとして研究に用いられてきた。
5. 発表論文
【タイトル】 Two species of the green algae Volvox sect. Volvox from the Japanese ancient lake, Lake Biwa 【著者】 Hisayoshi Nozaki, Ryo Matsuzaki, Koichi Shimotori, Noriko Ueki, Wirawan Heman, Wuttipong Mahakham, Haruyo Yamaguchi, Yuuhiko Tanabe, Masanobu Kawachi 【掲載誌】 PLOS ONE 【URL】 https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0310549(外部サイトに接続します) 【DOI】 https://doi.org/10.1371/journal.pone.0310549(外部サイトに接続します)
6. 発表者
本報道発表の発表者は以下のとおりです。
国立環境研究所
琵琶湖分室
主任研究員 霜鳥孝一
主任研究員 山口晴代
生物多様性領域 生物多様性資源保存研究推進室
客員研究員 野崎久義
主幹研究員 田辺雄彦
特命研究員 河地正伸
7. 問合せ先
【研究に関する問合せ】
国立研究開発法人国立環境研究所
琵琶湖分室 主任研究員 霜鳥孝一
主任研究員 山口晴代
【報道に関する問合せ】
国立研究開発法人国立環境研究所 企画部広報室
kouhou0(末尾に”@nies.go.jp”をつけてください)