日射量の増加による植物プランクトンの光合成速度への影響を明らかにしました|2022年度|国立環境研究所
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2022年7月19日

日射量の増加による植物プランクトンの光合成速度への影響を明らかにしました

(筑波研究学園都市記者会、環境省記者クラブ、環境記者会同時配付)

2022年7月19日(火)
国立研究開発法人国立環境研究所
地域環境保全領域 湖沼河川研究室
 主任研究員   篠原 隆一郎
 室長      高津 文人
 研究員     土屋 健司
生物多様性領域 生態系機能評価研究室
 室長      松崎 慎一郎
 高度技能専門員 中川 惠
 

   国立環境研究所 地域環境保全領域の篠原隆一郎主任研究員らの研究チームは、近年、春に観測されている日射量の長期的な増加がどのくらい植物プランクトンの光合成速度に影響を与えているかを、霞ヶ浦長期観測データを使って解析しました。作成した光—光合成曲線をもとにモデル解析した結果、1992年から2019年までの間、日射量増加及び水温上昇によって、約13%の光合成速度の増加が見込まれましたが、それ以上に水質が植物プランクトンの光合成速度により大きな影響を与えていることが明らかになりました。この結果により、春における植物プランクトンの増殖を予測できるようになることが期待されます。
   本研究の成果は、2022年7月19日付でオックスフォード大学出版から刊行される生物分野の国際誌『Journal of Plankton Research』に掲載されます。
 

1.研究の背景

近年、全世界的な傾向として、エアロゾルの減少等の影響で日射量が増加してきていることが知られています。我が国においても、1992年から2019年の間で解析したところ、5月に日射量が増加しており※1、この日射量の増加によって、湖沼の水温も上昇してきていることが報告されています※2。国立環境研究所が40年以上観測を続けている霞ヶ浦でも、日射量の増加に伴い、特に春の水温が上昇しています。霞ヶ浦では、春季に植物プランクトン量が多いこともこれまでの長期データから確認されており、日射量が大きくなるにつれて、植物プランクトンによる光合成の速度も影響を受けている可能性があります。これまでの先行研究では水温の上昇による影響を考慮した研究が中心で、日射量の増加による植物プランクトンの光合成速度への影響はさほど多く研究されてきませんでした。植物プランクトンの増加は、それを餌にする動物プランクトンや魚類にも影響を与えることが考えられ、春季における植物プランクトンの光合成速度が変わることが湖の生態系に影響を与えている可能性があります。

2.研究の目的

そこで本研究では、1992年から2019年まで観測された春の日射量の増加がどのくらい植物プランクトンによる光合成の速度に影響を与えているかを、栄養塩や、水中の濁りなど、水質の影響も踏まえた上で明らかにすることを目的としました。

3.研究手法

本研究ではまず、安定同位体を用いた13C法という手法を使い※3、植物プランクトンによる光合成の速度(一次生産速度)を測定しました。この測定は1992年から2019年まで毎月行われ、本研究は合計1,328回の測定結果をもとに、光合成速度(光—光合成曲線)のモデル化を行いました(図1)。それをもとに、実際に観測された日射量の上昇率と水温の上昇率から、28年間における日射量の増加による植物プランクトンの光合成速度の変化を、栄養塩や水中の濁りなど、水質の影響と比較し解析しました。

2010年5月12日の測定結果を元に作成した光—光合成曲線のグラフ
図1. 2010年5月12日の測定結果を元に作成した光—光合成曲線。プロットは観測地点である高浜入り(黒)及び湖心(赤)における結果。

4.研究結果と考察

光—光合成曲線を元にしたモデルの解析の結果、植物プランクトンの光合成速度は1992年から2019年にかけて増加した日射量により、0.093 gC m-2 h-1※4から0.105 gC m-2 h-1と約13%の増加が見込まれました(図2)。水質の悪化による光合成速度は、0.026 gC m-2 h-1から0.179 gC m-2 h-1と大きく変動すると試算され、その場における窒素栄養塩濃度の増加に伴う植物プランクトンの窒素割合の影響をより強く受けていることも明らかになりました。

 5月に観測された水温と光量子束密度、それに伴う光合成速度との関係のグラフ
図2. 5月に観測された水温と光量子束密度、それに伴う光合成速度との関係。プロットは、水温及び光量子束密度(日射量)との関係を示す。コンター図は光合成速度を示す。

5.今後の展望

本研究を始めたきっかけは、気候変動が湖沼に与える影響を明らかにしたいと考えたことです。今後も日射量の増加が続くとしたら、その影響は、これまでより強く出てくる可能性があります。今回の発表は、霞ヶ浦において40年以上にわたって地道な観測を続けてきた研究の成果です。霞ヶ浦は植物プランクトンの量が多い湖ですが、今後、霞ヶ浦も含めて、他の湖においても日射量の増加の影響に関する解析を実施していきます。

6.注釈

※1:気象庁によるつくば市の観測結果から解析
※2:詳細は、Shinohara R., Tanaka Y., Kanno A. and Matsushige K. (2021) Relative impacts of increases of solar radiation and air temperature on the temperature of surface water in a shallow, eutrophic lake. Hydrology Research. 52, 916-926. DOI: 10.2166/nh.2021.148
※3:NaH13CO3を用いて、様々な光条件下で取り込み速度を測定した実験結果。
詳細は、Takamura N., and Nakagawa M. (2016) Photosynthesis and primary production in Lake Kasumigaura (Japan) monitored monthly since 1981. Ecological Research, 31, 287, DOI 10.1007/s11284-016-1347-x
※4:1時間、1m2あたりに生産される炭素量。

7.研究助成

 本研究は、知的研究基盤整備費「GEMS/Water湖沼長期モニタリング事業」、科研費 基盤研究(C)ならびに(独)環境再生保全機構の環境研究総合推進費の支援を受けて実施されました。

8.発表論文

【タイトル】
Does increased springtime solar radiation also increase primary production?

【著者】
Ryuichiro Shinohara, Shin-Ichiro S. Matsuzaki, Megumi Nakagawa, Kenji Tsuchiya, Ayato Kohzu

【雑誌】
Journal of Plankton Research

【DOI】
https://doi.org/10.1093/plankt/fbac037

9.問い合わせ先

【研究に関する問い合わせ】
国立研究開発法人国立環境研究所 地域環境保全領域
湖沼河川研究室 主任研究員 篠原隆一郎
r-shino(末尾に@nies.go.jpをつけてください)
029-850-2785

【報道に関する問い合わせ】
国立研究開発法人国立環境研究所 企画部広報室
kouhou0(末尾に@nies.go.jpをつけてください)
029-850-2308

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