- 予算区分
- 安全確保領域
- 研究課題コード
- 2123BA003
- 開始/終了年度
- 2021~2023年
- キーワード(日本語)
- 光化学オキシダント,オゾン生成レジーム,HOx反応性,大気光化学チャンバー
- キーワード(英語)
- photochemical oxidant,ozone formation regeme,HOx reactivity,atmospheric phtochemical chamber
研究概要
オゾンを主成分とする光化学オキシダント(Ox)は人体を含む生物に対する毒性に加えて高い放射強制力(温室効果)を有することから大気濃度の低減が強く望まれてきた。その削減戦略では、基準年のVOC排出量の3割削減を実現すれば、Ox注意報発令レベル未超過が約90%まで上昇することが期待されたが、現状では4割の削減が進んだにもかかわらず、環境基準の達成率は低い水準を推移している。この予測と現状の不一致の原因として、予測モデルの持つ以下の不確実性が指摘されている。化学反応メカニズム・輸送過程・前駆物質排出量見積もりの不確実性である。これらを減らすべく研究が進められてきたが、未だ高い精度で化学物質の大気濃度を再現できるレベルではない。中でも化学反応メカニズムについての検証はほとんど進んでいなかった。それはOH、HO2およびRO2(HOx)ラジカルの動態に関する研究が技術的に困難であり遅れていることが原因と考えられる。近年の申請者らの観測からHOxラジカルとエアロゾルの相互作用の存在が指摘され、未知なる反応成分のオゾン生成への寄与が明らかとなってきた。これ等を組み込んだオゾン生成機構の再構築が必要となっている。
オゾン生成はその地域の前駆物質濃度に強く依存することから、我が国のすべての地域で同一の基準で削減を実行することは効率的ではない。オゾン生成量は前駆物質の排出量に対して非線型な応答をすることから、その地域に応じた対策が有効である。オゾン生成速度がVOC濃度に強く依存する地域(VOC律速領域)とNOx濃度に強く依存する地域(NOx律速領域)を正確に把握し、律速領域の議論(レジーム判定)を行う必要がある。すなわちオゾン生成速度の前駆体物質に対する感度∂P(O3)/∂[VOC]と∂P(O3)/∂[NOx] )の定量化が重要となるが、従来は不完全なモデルを基礎として導き出されていることから結果の信頼性は低い。重要となるいくつかの観測地点でレジーム判定を実測から求め、モデル結果との比較を通してモデルの信頼度を向上する必要がある。
以上のことから、スモッグチャンバーやHOx反応性計測といった先端技術を駆使し化学反応メカニズムの検証を行い、レジーム判定を含めた実大気計測を通しモデル精度の向上を図り、地域の特性に促した有効なOxの制御戦略の科学的な基礎を意思決定機関へ提案する必要がある。
研究の性格
- 主たるもの:行政支援調査・研究
- 従たるもの:基礎科学研究
全体計画
本研究の研究目的を達成するために以下の3つのサブテーマを設定して研究を進める。
? HOx サイクルの完全直接測定に基づくオゾン生成機構の解明
15-50%程度存在する未知なるOH 反応性物質がHOx サイクルの回転速度に与える影響を定量評価できるシステムを構築する。具体的にはOH からRO2を生成する収率ΦR、HO2を生成する収率ΦHを計測できる装置を作製する。過酸化ラジカル(HO2, RO2)のエアロゾル取り込み速度測定装置を完成し、大気計測を通して速度の定量化を行う。従来の化学モデルでは組み込まれていない、未知なるOH 反応性物質の寄与とエアロゾルによる過酸化ラジカルの消失過程をHOxサイクルに取り入れた化学反応メカニズムの確立を目指す。
? 合成模擬大気からのオゾン生成ポテンシャルにエアロゾルが及ぼす効果の解明
スモッグチャンバーを用いて合成模擬大気からの光化学反応生成物の精密測定を行う。FTIR, PTRMS,GCFIDなどの測定器を用いてHOx反応性やVOCなどの化学成分を計測するとともに、実験結果を整合的に再現するために、詳細化学反応モデルにラジカル成分とエアロゾルの相互作用過程を新たに導入す。2次生成物と前駆物質の合理的な時間変化を再現するべくサブテーマ?からの新規の情報を随時顧慮しながらモデルの最適化を図る。スモッグチャンバーを用いて、オゾン生成速度に対する感度(∂P(O3)/∂[VOC]と∂P(O3)/∂[NOx]、レジーム判定)を観測し数値モデルとの比較実験を行う。
? オゾン生成感度の実測と精緻化された領域モデルに基づくオゾン削減効率の推定
簡便なポータブルレジーム判定装置を開発する。サブテーマ?のスモッグチャンバーを用いたレジーム判定実測実験との比較校正を行い、装置の確度を検証する。サブテーマ?と共同で首都圏・近畿圏において大気集中観測を行い、領域モデルに提供する基礎データを得る。従来のADMER-PRO 数値モデルにエアロゾルによるラジカル取り込みやサブテーマ?で明らかとなった化学メカニズムを加えてアップグレードする。完成した領域化学モデルを用いオゾンレジームマップを作成・検証し、オゾン削減効率の地域特性を示す。人口分布や農作物収量で加重平均したオゾン濃度の削減効率マップを計算し、設定した前駆物質の削減シナリオに従いベネフィット計算をする。
今年度の研究概要
NIESでは、主に都市郊外を想定したVOC/NOx 条件の実験を中心に行う。合成模擬大気を用いた光化学チャンバー実験を行い、オゾン生成ポテンシャルに対するNOx, VOCの感度を調べる。反応ガスの化学組成を分析し、サブテーマ?の協力を得てHOx 反応性を、またサブテーマ?の協力を得てポータブルオゾンレジーム判定装置による測定を行う。既存の詳細反応モデルによってオゾン生成ポテンシャル・生成レジーム・HOx反応性の実験結果が整合的に再現されるか検証する。
外部との連携
梶井克純(京都大学、課題代表)、坂本陽介(京都大学)、定永靖宗(大阪府立大学)、井上和也(国立研究開発法人産業技術総合研究所)
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