宿主巻き貝−吸虫類寄生虫系に注目した干潟生態系への気候変動影響の評価|研究紹介|国立環境研究所
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宿主巻き貝−吸虫類寄生虫系に注目した干潟生態系への気候変動影響の評価(令和 2年度)
Impact assesment of future climate changes on tidalflat ecosystems focusing on the host snail - trematoda parasite systems

予算区分
CD 文科-科研費
研究課題コード
2022CD016
開始/終了年度
2020~2022年
キーワード(日本語)
寄生虫,干潟,気候変動
キーワード(英語)
Parasite,tidalflat,climate change

研究概要

 寄生虫は宿主の行動、代謝や成長を変化させ、個体群動態をコントロールする。本研究では、干潟で優占する巻き貝ホソウミニナ(二生吸虫の第一中間宿主)に注目した。二生吸虫はホソウミニナの繁殖能力を奪い、ホストを巨大化させて自身のセルカリア幼生を生産し、毎日大量の幼生を水中へと遊出する。本研究ではまず、現地調査により二生吸虫の感染率と種組成の緯度間変動を明らかにし、次に室内実験によって感染がもたらす宿主の代謝変化と、セルカリア幼生遊出速度の温度依存性を調べる。以上に基づき、気候変動が宿主‐寄生虫間の相互作用にもたらす影響と、生態系機能の改変可能性について推定する。

研究の性格

  • 主たるもの:基礎科学研究
  • 従たるもの:モニタリング・研究基盤整備

全体計画

 本研究では、ウミニナ類と二生吸虫寄生虫に注目し、3年間の研究期間に?吸虫相の緯度間比較、?吸虫類感染による宿主の代謝変化、?セルカリア遊出の水温依存性を明らかにし、以上にもとづいて?気候変動が宿主‐寄生虫システムに及ぼす影響を定量的に推定する。

緯度間比較は、研究分担者である三浦と中井が主導しておこなう。北海道〜鹿児島湾までの全国8海域の干潟で、3年間の研究期間中に一度(春〜夏)ホソウミニナ300個体を採取し、実体顕微鏡下で二生吸虫感染の有無と種組成を同定する。ホソウミニナの個体群構造も枠取り法で計測し、形態での種判別が困難な宿主個体は、PCR-RFLP法による遺伝子同定を行う。私たちは、仙台湾で2000年代からウミニナ類の個体群サイズ、吸虫類の感染率と種組成を調べてきた(のベ10年間:2005〜2006年、2012〜2019年)。吸虫相の長期経年変動を追跡するため、仙台湾の6干潟では毎年一回の調査を継続する予定であり、これらを活用することで、二生吸虫群集の長期的な安定性についても評価する。

 以下の2課題は室内実験で検証する。宿主の代謝変化は、分担者の伊藤が主導して1年目に実施する。国立環境研究所の恒温室(20℃)に低温恒温槽を設置し、ろ過海水で希釈した培養濃縮珪藻を用い、感染-非感染個体間でろ過摂食速度を比較する。セルカリア遊出の水温依存性は、研究代表者の金谷が主導して2年目に実施する。ろ過海水中で感染個体を一定時間インキュベートし、遊出したセルカリア幼生を計数し、ガラス濾紙上に一定数(〜1000個体)を集めて元素分析器でCN量を測定する。この際、宿主と寄生虫、同所的に生息する底生動物のCN安定同位体比も測定することで、彼らを干潟食物網の中に位置づける。なお、遊出は時間帯や明暗条件に影響を受ける場合もあるため、これらを考慮した実験デザインとする。室内実験については、水温変動への応答も合わせた実験デザインを採用する。

 以上の研究結果を総合し、日本の干潟で広域的にみられる宿主‐寄生虫システムが、気候変動に伴う沿岸域の温度環境変化にどのように応答・変化し、その結果として干潟の生態系機能がどのように変化するのかを推定する。

今年度の研究概要

本年度は,東北地方と関東地方,伊勢湾の干潟で、ウミニナ類500個体を採取し、実体顕微鏡下で二生吸虫感染の有無と種組成を同定し,感染率と寄生虫相の時空間変動解析に必要なデータを得る.

外部との連携

三浦収(高知大学),中井静子(日大)

課題代表者

金谷 弦

  • 地域環境保全領域
    海域環境研究室
  • 主幹研究員
  • 博士 (理学)
  • 生物学
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担当者

  • 伊藤 萌