2011年9月30日
エピジェネティクス作用を包括したトキシコゲノミクスによる環境化学物質の影響評価法開発のための研究(特別研究)
平成19〜22年度
国立環境研究所特別研究報告 SR-94-2011
近年、重要な生体反応である遺伝子発現を制御する仕組みとして、「エピジェネティクス」が注目されています。エピジェネティクスは、遺伝子の働きがDNAの塩基配列に依存するのではなく、主としてDNA塩基へのメチル化修飾や、DNAが巻きついているヒストンタンパクへのメチル化、アセチル化修飾などの、いわゆる「エピジェネティック」な修飾によって調節されるという仕組みです。環境中に放出されたり存在する化学物質、すなわち環境化学物質の健康影響に関しても、エピジェネティクスによる遺伝子発現のかく乱が関与し、それらが各種疾患につながる可能性が報告されています。しかし化学物質のエピジェネティックな作用を理解するためには、適切な実験系の設定に始まり、作用の検出、生体反応との因果関係の解明等、今後明らかにされるべき多くの課題があります。
この特別研究では、現在世界各国で発がんなどの大きな健康被害をもたらしている無機ヒ素を主な対象化学物質としました。無機ヒ素による健康被害発現のメカニズムには、エピジェネティクスの関与が示唆されています。この研究の中で、メチル化DNA量の精密測定法を確立し、無機ヒ素長期曝露によるグローバルなメチル化DNA量の変動や各種関連因子との関係を明らかにしました。また無機ヒ素の胎児期曝露や長期曝露について、発がん等生体影響、遺伝子発現変化、エピジェネティック変化を各種手法を用いて解析し、それらの因果関係や性差、臓器特異性についての知見を得ました。さらに、ヒ素によるエピジェネティック変化の仕組みとして、DNA損傷との関連を見いだしました。
本研究の成果は、環境化学物質の作用の仕組みを解明し生体影響評価を進めていく上で重要な知見を提供するものと考えています。
(環境健康研究センター 野原 恵子)
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