廃棄物埋立処分における有害物質の挙動解明に関する研究(特別研究) 平成10〜12年度|国立環境研究所研究プロジェクト報告|国立環境研究所
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2001年9月28日

廃棄物埋立処分における有害物質の挙動解明に関する研究(特別研究)
平成10〜12年度

国立環境研究所特別研究報告 SR-40-2001

1.はじめに

表紙
SR-40-2001 [3.0MB]

 廃棄物は人間活動の増大・物質文明の発達に伴い、発生量が増大すると共にその性状や含まれている化学物質についても多様な広がりを見せており、国際的にも国内的にも、今後の人間活動の根幹に係る緊急かつ重大な解決すべき環境問題となっている。廃棄物の最終処分(埋立処分)においては、廃棄物に起因する有害化学物質による環境汚染や人の健康あるいは生態系への影響が危惧されている。本研究では、浸出水中から高濃度・高頻度で検出された化学物質を中心に、廃棄物に含まれる有害化学物質の総括的かつ迅速・簡便な検査法を開発し、埋立廃棄物中の有害物質と埋立地浸出水中に溶出してくる有害物質との因果関係を明らかにすると共に、埋立処分に起因する有害化学物質の排出挙動・生成機構を解明し、さらに排出された有害化学物質による生態影響を調べて、埋立処分に伴うリスク評価・リスク管理のための基礎的データを得ることを目的とした。

2.研究成果の概要

(1) 埋立廃棄物中の有害化学物質の簡易分析法の開発に関する研究

 廃棄物から水系あるいは大気系へ排出される化合物を迅速・簡便に分析する手法の開発を行った。揮発しやすい化学物質については、ヘッドスペースガス分析用容器に廃棄物試料を充填し、密栓して70℃で15分間加熱し、固相ミクロ抽出用ファイバーの表面に揮発してきた有機成分を吸着濃縮し、ガスクロマトグラフィー質量分析法で分析する手法を開発した。焼却灰を試料とし、サロゲート化合物を用いた内標準法による回収率は満足できる範囲におさまり、変動係数は最大でも17%と高い信頼性が示された。この方法でプラスチック製品12種類、焼却飛灰2種類、焼却残灰3種類を試料として、揮発性有機物を分析した結果は満足すべきものであり、プラスチック製品からは可塑剤などの添加物が広く検出されたほか、ポリスチレン製品からスチレン二量体、三量体が検出された。一方、焼却灰からは、アルカン類や芳香族炭化水素類以外にクロロベンゼン類やテトラクロロエチレン、1,4-ジオキサンが検出された。一方、揮発性が低い有機成分を迅速に抽出する方法として、マイクロ波加速抽出法(MAE法)の有効性を検討した。飛灰試料などに含まれるクロロベンゼン類、クロロフェノール類、多環芳香族炭化水素類の抽出を検討した結果、クロロベンゼン類についてはソックスレー抽出法よりも短時間に高効率で抽出を行うことができたが、その他の物質についてはソックスレー抽出法よりも低回収率であった。(図1)。

図1 マイクロ波抽出法(MAE)とソックスレー抽出法(SE)によるクロロベンゼン類とクロロフェノール類の添加回収率の差異

(2) 埋立廃棄物に存在する有害化学物質の溶出挙動に関する研究

1) ホウ素の溶出挙動に関する研究
 埋立処分場浸出水中から高頻度で検出されるホウ素の起源を解明するために研究を行った。産業廃棄物埋立処分場(48ヶ所)を対象にして、埋立廃棄物の種類と浸出水中ホウ素濃度との関連を統計学的な手法で調べ、ホウ素の起源となりうる廃棄物の絞り込みを行った結果、燃えがら、鉱滓、ばいじん、プラスチックが候補として挙げられた。各種廃棄物(155試料)のホウ素含有量と溶出濃度における相関を調べた結果、有意な相関は焼却灰、ガラス・陶磁器類、汚泥で観察された。pHの変化によるホウ素の溶出濃度の変化を調べた結果、焼却灰と飛灰で、溶出濃度が溶媒のpHに依存することが判明し、以下の重回帰式が得られた。
焼却灰: Log (ホウ素溶出濃度) = 1.005×Log(ホウ素含有量)-0.169×pH-0.870
飛灰:  Log (ホウ素溶出濃度) = 1.681×Log(ホウ素含有量)-0.252×pH-1.30
水溶液中でのホウ素の化学形態はpH > 11においてはB(OH)4-の形で粒子表面へ吸着し、pH < 7では主にB(OH)3になって粒子表面から脱着する(図2)。次に、廃棄物中のホウ素の存在形態が5種類あり、試料によって存在比率は様々に異なり、溶出濃度が大きく左右されることを実験的に証明した(図3)。イオン交換されやすい化学形態のホウ素含有量と溶出濃度との間には高い正の相関があった(図4)。

2) 廃棄物の模擬埋立実験における化学物質の溶出挙動に関する研究
 ガラス製円筒に一般廃棄物焼却灰とプラスチックの混合物を埋立、定期的に散水して得られた浸出水を分析した。測定項目は有機炭素(TOC)、化学的酸素要求量(COD)、pH、電気伝導度、塩化物イオン、無機元素(Al、B、Ca、Cuなど)、有機成分(有機リン酸エステル類とフェノール類)などであった。複数回の実験で類似の結果が得られた。pHに関しては、コントロール埋立(焼却灰とテフロンの混合埋立)では浸出水のpHは焼却灰の溶出液のpHと似た値(11.5付近)であったのに対し、廃プラ埋立(焼却灰と廃プラスチックの混合埋立)ではpHが9~10と低くなっていた。これは廃プラスチックから溶けだした有機物が焼却灰から溶けだしたアルカリ分と反応したためである(図5)。CODやTOCの測定結果も同様の傾向を示した。模擬埋立実験の浸出水中のアルミニウムとマグネシウムは対照的な挙動を示した。アルミニウムは廃プラ埋立よりもコントロール埋立の方から多量の溶出が起こっているのに対して、マグネシウムは廃プラ埋立の方から多量の溶出が起こっている。陰イオンは塩化物イオンが主なイオン種であり、廃プラ埋立、コントロール埋立ともに時間経過とともに減少していった。有機リン酸エステル類については、積算溶出量が直線的に近い形で増加しており、長期にわたって溶出する可能性を示唆している(図6)。内分泌かく乱化学物質としての疑いが持たれているビスフェノールAの溶出挙動では、埋立終了直後から急激に溶出濃度が増加した後、溶出速度は遅くなり、長期に微量の溶出が持続する傾向がみられた(図7)。

図2 1モル硝酸で溶出試験を行った後、液相をアルカリ性にしたときの、最終pHとホウ素溶出濃度との関係
(a焼却灰、b飛灰;図内曲線はpHを変化させながら溶出試験を行った時の最終pHとホウ素溶出濃度をプロットして近似曲線で表示したもの)
図3 各種廃棄物中のホウ素の化学形態の存在比
図4 廃棄物試料中のイオン交換態ホウ素含有量とホウ素溶出濃度との関係
図5 模擬埋立実験における浸出水のpHの経時変化
(廃プラ埋立:焼却灰と廃プラスチックの混合物、コントロール埋立:焼却灰とテフロンの混合物)
図6 模擬埋立実験におけるリン酸トリス(クロロプロピル)(上段)とリン酸トリス(2-ブトキシエチル)(下段)の溶出挙動
(廃プラ埋立:焼却灰と廃プラスチックの混合物、コントロール埋立:焼却灰とテフロンの混合物)
図7 模擬埋立実験におけるビスフェノールAの溶出挙動
(廃プラ埋立:焼却灰と廃プラスチックの混合物、コントロール埋立:焼却灰とテフロンの混合物)

(3) 埋立処分に起因する有害化学物質の生物影響の評価に関する研究

 埋立地からの浸出水及び処理水(放流水)が生物に与える影響を解明するために、30ヶ所の埋立処分場で浸出水及び放流水をサンプリングし、浸出水に溶存する物質を固相抽出で取り出し、遺伝毒性(改良発光細菌遺伝毒性試験)とエストロゲン活性について、微生物を用いたアッセイによる包括的毒性モニタリングを行った。
 今回対象とした処分場の中では、産業廃棄物処分場からの未処理の浸出水の遺伝毒性は一般廃棄物処分場浸出水に比べて検出率も遺伝毒性強度も高い傾向が認められた。また、遺伝子組み換え酵母を用いたエストロゲン活性の簡易検出系を独自に開発し、処分場の浸出水及び処理水に適用した。エストロゲン活性は、今回の研究では一般廃棄物処分場に比べて産業廃棄物処分場の浸出水が検出率、活性とも高い傾向を示した。特に、産業廃棄物処分場の浸出水で代謝化試験によるエストロゲン活性が高率(82%)に認められたことは、代謝化されてエストロゲン活性を示す脂溶性の高い化学物質が浸出水に溶出していることを示唆しており、プラスチックやその他工業廃材に含まれる化学物質が原因である可能性が高い。処理水においては、遺伝毒性およびエストロゲン活性ともに検出率、遺伝毒性強度あるいはエストロゲン活性が大きく低減することも判明した。

3. 今後の検討課題

 本研究により、廃棄物埋立処分におけるリン酸エステルなどのプラスチック添加物やホウ素の挙動を解明することができた。しかしながら、現在の分析技術では研究対象を揮発性物質に絞らざるをえず、廃棄物中の化学物質の大半を占める難揮発性あるいは不揮発性物質の分析や埋立処分における挙動解明に手を着けることはできなかった。今後の課題としては、液体クロマトグラフィー質量分析法(LC/MS)による難揮発性あるいは不揮発性物質の系統的分析法の開発ならびにより広範な化学物質を対象とした埋立地での分解などの挙動解明が必要である。廃棄物に含まれる化学物質を迅速・簡便に分析する手法開発は引き続き取り組まねばならない課題である。廃棄物埋立処分で発生する浸出水の安全性についてはバイオアッセイと化学分析をリンクした総合評価システムの開発が不可欠である。バイオアッセイおよび化学分析のより高度な研究開発が必要であるとともに、両研究グループの緊密な連携が求められる

〔担当者連絡先〕
独立行政法人国立環境研究所
循環型社会形成推進・廃棄物研究センター
循環資源・廃棄物試験評価研究室
安原昭夫
Tel:0298-50-2544,Fax:0298-50-2544

用語説明

  • 埋立地浸出水
     埋立地内に浸透し、埋立廃棄物と接触して汚れた雨水ならびに廃棄物中に含まれる水分で埋立地から染み出してくる汚水のこと。
  • ヘッドスペースガス
     密閉された空間の中の気相のことで、液相や固相が共存する場合は気相との分配率に応じて揮発性物質は分配される。
  • 固相ミクロ抽出用ファイバー
     細い線状の金属やセラミックの表面に活性炭や合成高分子などの固相を塗布したもので、気相や液相中に入れると有機成分などを選択的に吸着する。
  • ガスクロマトグラフィー質量分析法
     ガスクロマトグラフで分離された成分を質量分析計で検出・定量する分析法で、GC/MSと呼ばれる。分離能が高く、微量を検出できる方法として環境分析で広く利用されている。
  • サロゲート化合物
     化合物を構成する元素の一部を安定同位体で置換した化合物のこと。水素の代わりに重水素を、炭素の代わりに炭素13を置換したものがよく使われる。
  • 内標準法
     機器分析では測定結果を標準物質の測定結果と比較することによって、試料の定性・定量分析が可能になる。既知量の標準物質(サロゲート化合物がしばしば使われる)を試料に加えて機器測定を行い、同一条件下で得られた信号から定量分析する方法を内標準法といい、標準とする物質を内標準という。
  • 可塑剤
     プラスチックに添加される物質の1種で、プラスチックを柔軟にして、フィルム状や好みの形に成型することができる。
  • マイクロ波加速抽出法(MAE法)
     試料と溶媒を耐圧容器に密閉し、マイクロ波を照射して、高温・加圧状態で抽出する方法。少量の溶媒で、短時間(十数分)で抽出できる。
  • ソックスレー抽出法(SE法)
     円筒状のろ紙に試料を入れ、上部から溶媒を注ぎ、下から出てくる抽出液を加熱して、蒸留されてくる溶媒を抽出用溶媒に再利用する構造(専用のガラス器具を使用)の装置で行う抽出方法。JISなどの公定法で規定されている標準の抽出法のひとつである。
  • ばいじん
     法律で規定される特別管理一般廃棄物のひとつで、一般廃棄物焼却施設から発生するすすなどの粉じんを集じん施設で捕集されたもの。
  • 化学形態
     対象となる元素が実際に存在しているイオンあるいは分子での詳細な構造。例えば、ホウ素を例にとると、ホウ酸、有機ホウ素、ホウ珪酸イオン、ホウ珪酸縮合物(ガラス)などの化学形態がある。
  • 有機炭素(TOC)
     対象となる元素が実際に存在しているイオンあるいは分子での詳細な構造。例えば、ホウ素を例にとると、ホウ酸、有機ホウ素、ホウ珪酸イオン、ホウ珪酸縮合物(ガラス)などの化学形態がある。
  • 有機炭素(TOC)
     水中に溶在する有機物に含まれる炭素量の合計量のことで、有機物による水質汚濁を表す指標として広く使われている。
  • 化学的酸素要求量(COD)
     水中に溶存する有機物を過マンガン酸イオンなどで酸化して無機化する時に消費される酸素量のことで、有機物による水質汚濁を表す指標として広く使われているが、酸化されにくい有機物などが存在することに注意する必要がある。
  • 電気伝導度
     電場の働きで、水中に溶存しているイオンなどの荷電粒子が移動することによって電流が流れる時の度合い。イオンの移動しやすさは水溶液の粘度や温度に影響される。
  • 遺伝毒性
     培養細胞の染色体に異常を起こさせる毒性。変異原性試験の次に行う毒性試験と位置づけられており、DNAに影響を与えるかどうかを明らかにできる。
  • 改良発光細菌遺伝毒性試験
     海洋発光細菌の無発光変異株が毒性物質によって発光株に復帰変異する現象を利用した試験で、培地と検出系を工夫して、安価でかつ簡便な試験法に改良したもの。
  • エストロゲン活性
     生物(脊椎動物など)の体内でエストロゲン(女性ホルモン)として作用する物質のことをエストロゲン活性があるという。内分泌かく乱化学物質は多くの場合エストロゲン活性をもつ。
  • 代謝化試験
     細菌の培養時にS9mix(薬物代謝酵素系の誘導処理をした動物の肝臓ホモジネートを遠心分離して得られた上澄み液に補酵素類を混合したもの)を添加して、代謝活性化される状態での毒性試験。

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