「環境創生型まちづくり」に向けた総合的な分析と計画の支援(2018年度 37巻2号)|国環研ニュース 37巻|国立環境研究所
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2018年6月29日

「環境創生型まちづくり」に向けた総合的な分析と計画の支援

特集 福島で進めている社会協働型研究
【研究プログラムの紹介:「災害環境研究プログラム」から】

五味 馨

 東日本大震災から7年が経過し、被災地域では復旧・復興が進みつつあります。しかしまだまだ多くの課題があることから、国立環境研究所では環境・経済・社会の持続性に配慮した低炭素・資源循環型の復興まちづくりを「環境創生型まちづくり」と呼んで提唱しています。その中で、福島県新地町と連携して各種の計画支援に関する総合的な研究を進めてきました。

新地町の震災復興と環境配慮型のまちづくり構想

 新地町は福島県浜通り地域の北端に位置する人口約八千人の自治体です。東日本大震災の津波で町域の約20%が浸水する甚大な被害を受けました。それ以降、様々な取り組みが行われ、常磐自動車道の開通、JR常磐線の運行再開など、着実に復興への歩みを進めています。また、相馬港には新しく液化天然ガス(LNG)基地が建設され、こうした新たな産業と共生した復興も課題です。そのような中、新地町は情報通信技術を活用し、エネルギー消費モニタリングシステムを町民の住宅や、公共施設、商業施設などに設置して環境配慮型社会の実現を目指し、これにより2011年に内閣府の「環境未来都市」に選定されています。この動きを支援するため、国立環境研究所では新地町と協定を結び、様々な研究をしてきました。そのうちいくつかを紹介しましょう。

地域に根ざしたエネルギーのための地理情報活用

 東日本大震災以降、太陽光や風力、バイオマスなどの地域のエネルギー資源を活用したエネルギーシステムを導入する取り組みが活発化しています。その実現には地域内での供給と需要のバランスをとることが必要です。そこで福島県浜通り地域で地域の様々な情報のデータベースを作成し、地域のエネルギー資源の供給ポテンシャルを検討しました。人口や土地利用、産業の分布など複数の異なる地図データを重ね合わせて分析すると、その地域のエネルギー需給の特徴が分かります。例えば、新地町のような沿岸部の自治体は産業からの未利用熱のエネルギー活用が効果的なことが分かりました。

地域エネルギーのシミュレーションモデルによる拠点事業の計画支援

 津波で大きな被害を受けたJR新地駅周辺地区の整備計画への協力では、地域に適した分散型エネルギーシステム設計の研究を進めてきました。LNG基地から仙台方面へのガスパイプラインが駅の近隣を通過する予定であったため、このガスを使って電力と熱の両方を生産する「コジェネレーションシステム」を導入し、周辺地域に供給することで、高効率でCO2排出量が少ないまちづくりが出来ます。しかし、このような地域エネルギー事業は需要の規模が大きく採算の見込める都市部に限定されています。そこで需要が比較的少ない地域でも可能なシステムの設計に取り組みました。まず、供給のポテンシャルと費用を整理し、次にエネルギーを使う家庭や施設の電力・冷熱(冷房や冷蔵庫など)・温熱(暖房や給湯など)の需要を詳細に計算しました。ここで上述のデータベースを活用しています。最後にCO2排出量削減などの条件を考慮して、最適なシステムを選定しその事業効果を計算しました(図1)。住宅中心の立地でコジェネレーションシステムを導入した場合は採算が厳しくなりますが、ホテル・温浴施設・植物工場等の熱を利用する施設を適切に誘致し、CO2削減効果を補助制度や炭素取引市場等を通じて経済価値に転換することで、収支が改善することが分かりました。このシミュレーションの成果は整備計画の詳細な調査に活用されて検討が進み、2018年2月には地域エネルギー会社「新地スマートエナジー株式会社」が設立され、新地町で地域エネルギーシステムが実現しつつあります。

新地駅前の図
図1 新地駅前の地域エネルギー事業と復興まちづくり

情報通信技術による復興コミュニティ支援

 被災地における地域コミュニティの絆を再生し、さらなる地域活性化を支援するため、情報通信技術(ICT)を活用することが出来ます。新地町では、家庭のエネルギー消費の効率化や省エネルギー行動支援、社会コミュニティ活動支援、地域防災やまちづくりに関する情報発信を目的とした地域ICTシステム「新地くらしアシストシステム」の研究開発と社会実証実験を進めてきました(図2)。このシステムは町内のご家庭へタブレット端末と電力計測機を設置し、それらをつなぐネットワークと支援アプリで構成されています。タブレット端末にインストールされた「新地くらしアシストアプリ」では自宅の消費電力情報のリアルタイム表示、自治体からユーザーへの情報提供、ユーザー間のコミュニケーションなど双方向的な情報のやりとりが出来ます。2014年に運用と研究を開始し、約70世帯が参加しています。特に家庭での電力消費については、消費電力を「見える化」するだけではなく、各世帯の電力使用状況を診断して専門的な知見に基づいた省エネルギーのアドバイスをしたり、省エネキャンペーンを開催したりといった社会実証実験を実施してきました。現在このシステムをさらに拡張して、専用タブレット端末以外のスマートフォンやパソコンからも利用でき、ご家庭の電力スマートメーター、ホームエネルギーマネジメントシステム(HEMS)とも接続可能とする研究に取り組んでいます。

新地での研究の図
図2 新地町の「くらしアシストシステム」を中心とした社会モニタリング研究

参加型まちづくりに向けたワークショップと総合計画策定支援

 復興まちづくりから長期的な地域の発展を考えると、将来を担う若い世代の意見が重要です。そこで新地町立尚英中学校の生徒とまちづくりワークショップを開催しました。このワークショップでは「2050年の新地町に残っていてほしいもの、新しくほしいもの」について生徒が意見を出し合い、豊かな自然や伝統文化の継承・発展とともに、商業施設などの都市的な要素を取り入れ、生活の利便性・安定性の向上も図りたいという希望が明確になりました。このワークショップの詳しい情報は国立環境研究所のWebサイトに公開されています(https://www.nies.go.jp/social/publications/dp.html)。この結果を整理分類して町の計画との対応を図り、さらにコンピューターモデルを利用した地域社会シミュレーションでも定量的な将来像を検討しました。これらの成果は新地町が策定した「第5次新地町総合計画(後期基本計画)」や「新地町まち・ひと・しごと創生人口ビジョン」に反映され、活用されています。

おわりに

 ここでは新地町で進めてきた復興まちづくり支援の研究を紹介してきました。これから成果をさらに確実なものとし、広げていく活動にも力を入れていきます。駅前まちづくりでは都市計画の専門家とも協力し、環境によいだけではなく、魅力的で人が集まるようなまちのデザインを地元の高校生のアイデアも取り入れて進めています。さらに、2011年の新潟・福島豪雨被害をも受けた福島県会津地域では、山間部の地域特性を活かした木質バイオマスの利活用方法の研究を進めています。このように地域の特徴を活かした地域デザインとその実現のための施策パッケージ、さらにその社会・経済・環境への影響評価に関する研究を展開していく予定です。

(ごみ けい、福島支部 地域環境創生研究室 主任研究員)

執筆者プロフィール

筆者の五味馨の写真

1981年北海道生まれ。大学院ではなぜか最も自分から遠いと思っていたシミュレーションの世界へ。アジア16の国・地域の人々と共同研究をした後、福島県三春町に新設の福島支部で環境と復興の両立に取り組む。趣味は尺八とチェロ。

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