世帯構成を考慮したライフスタイルの変化(2013年度 32巻6号)|国環研ニュース 32巻|国立環境研究所
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2014年2月28日

世帯構成を考慮したライフスタイルの変化

特集 持続可能な社会への転換方策
【研究ノート】

金森 有子

はじめに

 皆さんは2030年(今から16年後)にどのような生活をしているか想像できますか? 難しいようでしたら、逆に1998年(今から16年前)に今の生活を想像できていたでしょうか? 2030年と聞くとすごく先のような気がするのに、16年後と言われると意外と近い将来のような気がします。私たちの研究分野では、2030年や2050年といった将来に日本の社会や経済がどのようになっているのかをシナリオという形でまとめ、そのシナリオの下で将来の環境負荷発生量がどのように変化するのかを検討しています。研究結果はホームページや報告書、講演会などで皆さんにも知って頂ける機会がありますが、良く聞かれる質問があります。それは「結局、私たちの生活はどうなるのですか?」です。この点をわかりやすく伝えられないと、研究者は研究結果の重大性をうまく伝えられていない可能性がありますし、また皆さんも環境問題を自らの問題として捉えられず、環境配慮型行動の実践につながらない可能性があります。そこで私たちは、より具体的に将来のライフスタイルの変化を伝えられるような研究成果を示すためにプロジェクトを実施しています。

 さて、読者の皆さんがどれほど意識しているかわかりませんが、今の日本では環境配慮行動を全くしていない人の方が珍しいのではないでしょうか。例えば、ごみを出すときに分別するのも環境配慮型行動ですし、省エネ行動も環境配慮型行動です。中には植樹などの活動をしている人もいるかも知れません。このような人々の環境配慮型行動の中には確実に環境負荷の低減につながったものがあります。例えば、ごみに関しては、リサイクル率が年々向上し、家庭ごみの処理量も減っていることから、環境配慮型行動に切り替えたことへの一定の効果があると評価することが可能だと思います。一方で、地球温暖化の影響を緩和するために省エネ行動が必要であることは盛んに宣伝されていますし、人々の省エネ意識が高まっていることが報道されたりしますが、今のところ家庭部門からのCO2排出量が減少する気配はありません。

 家庭部門からのCO2排出量が減らないことにはいくつかの理由があると思います。その一つに「環境への関心がどんなに高まっても、生活において非常に重要な環境以外の問題に対しての関心が下がることはない」という点が挙げられると思います。例えば、健康を害している家族がいれば、夏に室温を28度より低く保つことが必要になるかもしれません。お風呂は連続して入浴すると環境に良いといっても、遅くまで働いている家族がいると実施することが難しいと思います。この例のような人たちは、環境配慮型行動をしたくないのではなく、家族の健康や家計の維持のために、やむを得ず環境配慮型行動実践の優先順位が下がったという可能性があります。2030年にはますます高齢者が増え、家計のやりくりは厳しくなるだろうという見方が多いなか、私たちが今後直面する様々な問題、それらを環境以外の問題も含めて俯瞰的に見据え、持続可能な社会の構築に向けて実効性のある行動変容を促すことが必要になります。

世帯構成を考慮した2030年における主要なライフスタイル変化の検討

 前置きが長くなりましたが、以上のような考えに基づき、現在実施している私たちの研究プロジェクトでは、2030年の主要なライフスタイル変化がどのようなものかを検討し、それを将来シナリオとして描写する作業を行っています。

 まず、環境のことは一度忘れてライフスタイルに影響を与える要因の抽出を試みました。様々な要因が考えられましたが、大きく5種類にまとめられるのではないかという結論に至りました。それが、経済力、健康、絆、ライフステージ変化への対応、価値観にもとづく自己実現になります。

 さて、ライフスタイルは個人属性(年齢や性別)や世帯属性(誰と一緒に住んでいるのか、収入レベル等)によって特徴づけることができることが知られています。そこで次に、2012年の松橋らの研究成果である2030年の世帯推計結果から、2030年の主要な世帯分類を選びました。主要な世帯分類を選ぶ際には、全世帯に占める割合といった「量」の観点と、増加傾向があるといった「変化」の観点を考慮しました。その結果市部に住む「若者単身世帯(6.5%)」「中年夫婦と子世帯(13.5 %)」「中年片親世帯(5.9%)」「高齢単身・夫婦のみ世帯(23.8%)」を2030年のライフスタイル変化を検討するための主要世帯であることとしました。括弧内の数字は全世帯に占める該当世帯分類の割合です。

 これらの主要な世帯が経済力、健康、絆、ライフステージ変化への対応という4つのライフスタイルの変化要因に対応できるのか、また、価値観に基づき自己実現できるのか、といった視点から強制発想法を用いて検討しました。具体的には、上にあげた世帯分類がライフスタイル変化要因に直面したら何が起こりうるのか、世帯分類に属する人が様々な価値感を持っている時にどのようなライフスタイルを送るのか、について「強制的」に発想していくものです。その結果を概ね15種類の主要なライフスタイルの変化としてまとめました。表1には下降するライフスタイルの変化から2つ、向上するライフスタイルの変化から2つ選びその内容の一部を示しています。これまでは多くの人が「普通」あるいは「平均的」なライフスタイルを志向し、その実現はあまり将来を深く考えなくても比較的容易にできました。しかしこれからは、上にあげたライフスタイル変化要因を人々が意識し、要因が発現しないような努力や工夫、環境作りをしていかないと、ライフスタイルを向上させることは難しくなります。また、その努力がうまく実らなかったり、そもそもライフスタイル変化要因を意識していなかったりすると、下降するライフスタイルに直面する可能性が高くなることが、将来シナリオの作成作業から見えてきました。

表1 2030年の主要なライフスタイルの変化(抜粋)
これまで これから
女性は結婚前提の人生設計が当然で結婚もしくは子育てで仕事を辞めたりキャリアをセーブするのが当たり前だった。 男女ともにキャリアの設計と家族は切り離して考えるようになり,それをサポートする体制が充実していくだろう。自分主体の人生設計で,結婚も子育ても一つの通過点というものが一般的になるだろう
「共働き・子有り世帯」では家事も育児も母への負担は大きいが,それは家族の内部の問題であり,自己責任で対応すべき問題とされてきた。 「イクメン」が増え,子育てを夫婦二人で行うことが当然となる。さらに地域社会・コミュニティがあらゆる面で子育てを分担して,共働きをしやすい社会になっているだろう。
「普通に就職(正規雇用)し結婚したい」けれど,普通になれないことは社会問題だった。 学歴に関係なく,普通に結婚や就職のできない若者や中年が今後ますます増え,それが当たり前の状況になっていくであろう。
これまでは,人生プランを考えずに結婚・就職をしてもそこそこの生活水準を維持できた。 何もしなければ生活水準が下がっていくことが普通と受け止める人が増え,現在の水準で人並みの生活ができなくとも特に対応行動はとらず,「安物買い」などでしのいでいこうとする人が増えるだろう。

おわりに

 将来シナリオは、ずばり将来を言いあてるために作られるものではありません。将来のどのような変化が起こりうるか、その「幅」を示すことで、持続可能な社会の形成につながる適切な対策の実施につなげていくことが重要です。ライフスタイルの変化から見えてきたのは、個人の努力だけでなく、様々な分野が協力し、持続可能な社会を作るための方策を考えていく必要があるということでした。今後はここで示したライフスタイルの変化に着目した日本全体の将来シナリオを作成し、そのシナリオを元にモデルを用いて将来の環境負荷発生量の推計を行う予定です。モデルを用いた推計では、これらのライフスタイル変化で、人々がどのような住宅を選択するのか、どのようにお金や時間を使うのかといった部分を定量化し、その結果エネルギーがどれほど消費され、CO2排出量にどのような影響を与えるのかを検討していく必要があります。環境負荷を低減しつつ、向上ライフスタイルが増えていく社会になるように、環境面からの研究を実施していきたいと思います。

(かなもり ゆうこ、社会環境システム研究センター総合評価モデリング研究室主任研究員)

執筆者プロフィール

金森 有子

なんとなく若い気分でいたのですが、気が付いたら30代半ば。毎冬、趣味のスポーツをするたびに、病院にお世話になるレベルの怪我をしている現実から導かれる答えは・・・、私は若くない。この冬は怪我をしないよう頑張ります。

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