村井 基彦 先生編(専門:海洋工学分野/研究テーマ群: 国際ガバナンス) - 教員紹介 - 先進実践学環 - 大学院 - 横浜国立大学

横浜国立大学大学院 先進実践学環

村井 基彦 先生編(専門:海洋工学分野/研究テーマ群: 国際ガバナンス)

今回のインタビューは海洋工学がご専門の村井 基彦先生にお伺いします。

Q. 村井先生のご専門はどのような分野でしょうか。

村井  専門は「海洋工学」。海を有効に使うこと、そしてそのための技術について考える学問です。もともとは謎が多かった海をよりよく知るために発展してきた分野ですが、近年は石油やレアメタルなどの資源開拓のために活用されることが多いですね。ただし日本の場合は、すぐに掘れる場所に資源がないため、海外のように石油工学と密接な結びついたかたちでの発展はしていません。

そこで私は主に海洋エネルギーを活用するための「浮体」、つまり海に浮かぶものを使い、海をどう利用するかについて研究しています。例えば浮体式洋上風力発電や浮体式海上空港、浮体式の波浪発電システムなどですね。

日本を取り囲む海の特徴は、何と言っても“深い”ということです。例えば英国やオランダあたりの海というのは、東京湾の一番深いところよりも浅かったりします。だから日本の海で着底式の建設物を造るのは、技術的にもコスト的にも割に合わないことが多い。ならば、物体を海底に敷設するのではなく、洋上に浮体として浮かべて海の表面にあるエネルギーを使おう、ということです。

海洋の表面にあるエネルギーといえば、やっぱり風と波。これらを使った浮体による風力発電や波浪発電は、私の研究の大きな部分を占めています。前者は洋上に並べた風車による発電。後者の波浪発電とは、押しては寄せる海の波の力を利用して電気を作ろう、というもの。

波浪発電については各国が研究を進めていますが、まだほとんど実用化はされていません。一方通行の風との大きな違いは、波は往復しているということ。この波の運動をどうエネルギーに変換するか。さまざまなアプローチ方法があるので、工学的な課題としては非常に面白いところです。

最近、AIに波の運動を理解させることで効率的にエネルギーを採取できないか、というようなことを学生たちと一緒に考えていますね。

Q. 研究テーマの魅力、エキサイティングな点を教えていただけますか。

村井  「日本は陸地が狭く、保有する海は広い」。一般的にそういうイメージがあるかと思いますが、実際にどうなのかを深く考えたことがある人はそう多くないのではないでしょうか。

日本はEEZ(排他的経済水域)を含めると、国土の10倍以上の海の広さを持っています。日本の人口を海の面積で割ると、200m×200mが一人の海という計算です。これは野球場でいえば4面ほどを一人で占有しているのと同等。そう考えると、ものすごく広いと思いませんか? しかも、凸凹のある陸と違って、海の表面は基本的にフラットで使いやすいのも魅力です。

そんな日本国民が一人あたり持っている野球場4面分の海の土地をどう利用するかを考える。その集積が、“日本の海を使う”ということにつながるわけです。例えばこの4面分は養殖に使おうとか、ここは発電に使おう、こっちは何面か合わせて空港にするのがいいんじゃないか、といった具合ですね。

その時、海洋工学の知識や技術が大きく役に立つと思います。このように、日本を含めた世界の海のことを広く自由に考え、効率的に利用することで人々の生活を豊かにしていける、というのは、この分野の大きな魅力ではないかと思います。

Q. 研究テーマとの出会いを教えていただけますか。

村井  幼い頃から釣りが好きだったので、常に海は身近にありました。自分で釣った魚は調理して家族に出していましたし、高校生の頃の作文にも、「将来は海に関わる仕事がしたい」と書いていたほど。その一方で、理学とか生物学にはさほど興味が向かず、大学を選ぶ際には経済学か工学を勉強しようと思って、最終的に東京大学の船舶海洋工学科に進みました。

おそらく自分は、若い頃から今に至るまで、モノや動物よりも、人が好きなんだと思います。釣りが好きでも、魚そのものより、それを料理して、誰かに食べてもらうのが楽しい。だから生物学よりも、具体的に人の役に立つのが肌身で感じられそうな、経済学や工学のほうに興味が湧いたんだと思います。

学部時代は「ライザー」という海底鉱物の掘削に使う管の挙動についての論文を書き、修士から博士では、関西空港をメガフロート(超大型浮体)にした場合の動き方について研究して論文にしました。一貫して “海を大規模に利用する”ということに興味がありますね。

Q. 最後に志望する学生にメッセージをお願いします。

村井  先進実践学環の掲げる“文理融合”の理念。これは本当に正しくて、社会に出て人と関わるようになると、“文”だの“理”だのと言っていられないことが多々あります。海を利用することについても同じで、いくら良い技術があったとしても、大勢の関係者の理解を得ないと使うことはできません。

社会に出ると、知識はもちろん大切ですが、それ以上に“世間のことに気づいているかどうか”が重要になってきます。自分が関わるその世界にいるさまざまな人たちが何を一番大切にしており、どこが譲れない部分なのかを見極める能力が重要です。そのうえで対話を重ね、理解を得て初めて自分のやりたいことが可能になります。

そういう意味では、先進実践学環には、異分野のさまざまな人と交流し、自分の専門分野以外のものに触れられる機会がたくさんあります。自分の研究に取り組みつつ、複眼的な目線や思考力も身につけたい。そう思う人は、ウェルカムです!