2024年 05月 24日
襦袢の色 |
未だに空調設備が直ってないまま、寝しなに窓を開けてやすむと朝には寒いほどで喉が痛い。
冷気はわたしの喉にまでやってくる。
そとは濃い霧で、ベランダのタイルが濡れているから、雲のなかにいるようだ。
きのうは一日家の中ではセーターを羽織るほど涼しくて、散歩に出ても陽が強いのに寒いほどであった。
白、紅、ボルドー、黄色、珊瑚色、のなかから選んだこの色が、天国に行って間もない母に似あうと思った。
でもそのときから、この色の薔薇の枯れていく様子はいちばん哀しいのかもしれないという予感はあった。
忍ぶような色のまま、開ききれないで枯れていく。
母は生きたいように生きたのだろうか。
”マディソン郡の橋”で、息を引き取る夫が妻に、おまえの夢もすべてはかなわなかったろう、と謝るような慰めるようなことを言い、妻はただ微笑んでいた。
母は遠く離れて暮らすわたしに、自分ができなかったことをさせてやりたい、自分よりも幸せになって欲しいと願っていた。
趣味の多かった母自身も、自分の人生はまあまあおもしろかったと安らかに逝ったと思いたい。
勝手というのではなく、いかにすればより楽しい人生になるかということに貪欲な母であった。
花が触れ合えばかさこそと乾いて、色褪せていく。
花弁のふちがちりちりと反り返る。
この色合いが何かに似ていると思った。
母の絹の長襦袢の色。
活け花があるのは和むが、花瓶の水が濁っていく様子、花が首を垂れて枯れていくのを見送るのは、生きるものの定めであっても哀しいものがある。
だからといって、造花がうっすら埃を被っているのは、なおさらおぞましい。
3シーズンで完結したブラジル製のテレビドラマは、主役級女優が整形手術を施してみな同じ顔をしていて、老女さえも皺をのばして唇を厚くしてつっぱった顔をしているけれど、全身が映る場面では老女以外の何者でもない。
そう年齢の行かない女優さえも、以前から知らない顔でも明らかに人工的な跡がわかるのは、いくら整った顔をしていても、どこかうそ寒く、白々しい。
フランケンシュタイン人口が増えていく。
関節炎のせいもあって、手指の節もごつごつしてきたし、染みもある。
歳をとったひとの皮膚をクレープ(細かく皺のある薄紙)のような、とか、蝋のような、という表現をするが、このことだ、言い得ていると身をもって納得するようになった。
いままでは自分よりも年上のひとを見て、他人事だったのに。
キャサリーン・ヘップバーンは潔かった。
あるがままであった。
整形なんてもちろん、歯が真っ白くなくても、外反母趾の足も、なにもかもが、正真正銘の彼女自身であった。
この薔薇、もっと花開くと思っていたのに。
いっそドライフラワーにしようかと思うけど、軸に近い部分はまだしっとりと弾力があるのに、水を絶つのは残酷なようでもある。
by ymomen
| 2024-05-24 00:58
| アメリカの季節
|
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Comments(3)
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hanamomo60 at 2024-05-24 06:54
おはようございます。でもそちらはまだ夜中ですね。
薔薇の花のいい香りを想像し、その落ち着いた色合いに魅せられました。
過去記事も読ませていただき、涙がにじみました。
どうすればより楽しい人生になるのかを常に考えていたお母様の生き方にとても共感を覚えました。
娘さんとして最高のお母さまですね!
私もそうなりたい!でも娘はそう思ってくれるかどうか?
生の花は朽ちてしまうからいいのだと思います。
家の中にたくさんの造花を飾っている人は多いですが、私は好みません。
北国で冬は暖房ですぐにだめになるので、思い切り観葉植物を置いて楽しみます。
お母様の襦袢の色に似た薔薇の色、可愛そうというより良く生きた人の様にも見えます。
うちの夫もお義母さんをお袋って呼んでいました。
私の母の事は『お母さん』です。
我が家に義母が来たときは何と呼んでいたのだっけ?と思いました。
『あなた』って呼んでいました。変ですね!
薔薇の花のいい香りを想像し、その落ち着いた色合いに魅せられました。
過去記事も読ませていただき、涙がにじみました。
どうすればより楽しい人生になるのかを常に考えていたお母様の生き方にとても共感を覚えました。
娘さんとして最高のお母さまですね!
私もそうなりたい!でも娘はそう思ってくれるかどうか?
生の花は朽ちてしまうからいいのだと思います。
家の中にたくさんの造花を飾っている人は多いですが、私は好みません。
北国で冬は暖房ですぐにだめになるので、思い切り観葉植物を置いて楽しみます。
お母様の襦袢の色に似た薔薇の色、可愛そうというより良く生きた人の様にも見えます。
うちの夫もお義母さんをお袋って呼んでいました。
私の母の事は『お母さん』です。
我が家に義母が来たときは何と呼んでいたのだっけ?と思いました。
『あなた』って呼んでいました。変ですね!
1
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ymomen at 2024-05-25 00:50
hanamomoさん
おはようございます。
日本の早朝は、こちらの午後後半に入るころなんですよ。
hanamomoさんはごく自然に普段から花を活けておられますね。
清々しい活け方でいいなあ、と拝読しています。
水をやる世話を惜しんで、年中外の鉢にも造花を飾る人もいますが、真冬にほとんど毒々しい鮮やかな花が雪を被っているのはそらぞらしいものです。
いつかご紹介くださった翡翠の玉がこんもり積もったような、あのサボテン種のことが忘れられません。
室内の植物は、観ても心やすまりますし、空気も洗浄してくれますものね。
一時期はうちにもたくさん観葉植物があったのに、ひとつふたつと枯れて、いまは数えるほどしかありません。また増やしたいです。
夏みかん、母の好物でした。
酸っぱければ酸っぱいほど母が好んでいて、わたしも酸味の強い果物が好きです。
母のことは、いつも意識のどこかにあります。
おかあさま、また来る寒い季節にあのカーディガンをお召しになりましょう。
日々寄り添うお姿を尊く拝読しています。
義母のこと、わたしは名前で呼んでいます。
メアリー、って。
こちらではふつうのことなんですけど、日本の間隔では妙でしょう。
おはようございます。
日本の早朝は、こちらの午後後半に入るころなんですよ。
hanamomoさんはごく自然に普段から花を活けておられますね。
清々しい活け方でいいなあ、と拝読しています。
水をやる世話を惜しんで、年中外の鉢にも造花を飾る人もいますが、真冬にほとんど毒々しい鮮やかな花が雪を被っているのはそらぞらしいものです。
いつかご紹介くださった翡翠の玉がこんもり積もったような、あのサボテン種のことが忘れられません。
室内の植物は、観ても心やすまりますし、空気も洗浄してくれますものね。
一時期はうちにもたくさん観葉植物があったのに、ひとつふたつと枯れて、いまは数えるほどしかありません。また増やしたいです。
夏みかん、母の好物でした。
酸っぱければ酸っぱいほど母が好んでいて、わたしも酸味の強い果物が好きです。
母のことは、いつも意識のどこかにあります。
おかあさま、また来る寒い季節にあのカーディガンをお召しになりましょう。
日々寄り添うお姿を尊く拝読しています。
義母のこと、わたしは名前で呼んでいます。
メアリー、って。
こちらではふつうのことなんですけど、日本の間隔では妙でしょう。
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ymomen at 2024-05-25 00:52