東京の図書館から、78回シリーズで取り上げております、府中市立図書館のライブラリである、テルデックレーベルから出版された、古楽演奏によるバッハのカンタータ全集、今回は第19集を取り上げます。なおこの全集はCDでは第10集の1となっていますが、図書館の付番の方が分かりやすため通番にしています。収録曲は第35番と第36番の2つです。
この全集では指揮者は2名体制で、ニコラウス・アーノンクールとグスタフ・レオンハルトの2人が担当しています。この第19集ではニコラウス・アーノンクールが指揮を担当しています。そのため、オーケストラもウィーン・コンツェントゥス・ムジクスとなっています。合唱団はウィーン少年合唱団とウィーン合唱隊が務め、女声をウィーン少年合唱団、男声をウィーン合唱隊が務めています。そのため、ソプラノソロはウィーン少年合唱団のボーイソプラノが務めています。
①カンタータ第35番「霊と心は驚き惑う」BWV35
カンタータ第35番は、1726年9月6日に初演された、三位一体節後第12日曜日用のカンタータです。
ソロはアルトだけなので、この演奏ではカウンターテナーのポール・エスウッドが務めています。プロの歌唱をじっくりと味わうという、形ですが、果たして初演時はそれなりのレベルの高い人が務めたのでしょうか・・・そのあたりは何とも言えません。バッハのカンタータにはソロカンタータもそれなりにあるため、ライプツィヒにはうまい歌手がそろっていたものと想像されます。そもそもバロック時代においても演奏家が決して下手なわけではないので・・・演奏家が多くなかったというだけですから。
とはいえ、このカンタータは2部制を採用しており、それぞれの冒頭がシンフォニアになっているのも特徴です。聖書の朗読はマルコによる福音書のその日の指定朗読である、耳が聞こえず口がきけない男の治癒の物語(7章31~37節)ですが、それを二つに分けて朗読したはずです。それぞれを彩るためにシンフォニアを添えたということは、半ばオペラティックにしたということでもあります。確かに二つのシンフォニアは印象的で、場面転換の役割すら果たしているようにも聴こえます。その中で響くアルトの歌唱は、聖書の奇跡を目の当たりにした女性の喜びの声のようにも聴こえるから不思議です。ソリストは男声なんですが・・・この辺り、アーノンクールの意図を感じます。果たして男性女性って関係ありますか?と。
②カンタータ第36番「喜び勇みて羽ばたき昇れ」BWV36
カンタータ第36番は、待降節第1日曜日用のカンタータです。元々は世俗カンタータBWV36cを原曲とするもので、1725~1730年に成立したのち、現在の形に改稿されたのが1731年、その改訂稿による演奏が1731年12月2日で、用途はその日付を基準としています。
リリンクの演奏ではかなり派手でしたが、この演奏では明るさという点の方が強調されています。特に冒頭合唱の素晴らしいこと!それでいて生命力も感じます。
さらに注目なのが、ソプラノであるボーイソプラノ。ソリストとしては2度出てきます。1度目は2曲目のコラールでのデュエット。そして2度目はソロでの第7曲。第2曲ではボーイソプラノらしさが出ていますが、第7曲ではまるで女声?と見まごうばかり。おそらくですが、違う人だと思います。そのため、恐らくアーノンクールが指揮する場合には、ソプラノは「ウィーン少年合唱団員」となっているのだろうと思います。適宜曲に応じてソリストが変わるということなのだと思います。これはこれで興味深いやり方だと思います。少なくとも初演された時はソリストは合唱団員から出ていたはずですから、それなら固定しなくてもいいという考え方もアリだからです。この辺り、さすが古楽演奏のオーソリティであるアーノンクールです。勿論その是非はあると思いますし、批判的に実行に移したのがバッハ・コレギウム・ジャパンだったということになります。その意味では、アーノンクール無くしてバッハ・コレギウム・ジャパンなしとも言えるでしょう。
どんな編成であるにせよ、わたし達の心を道感動させ、動かすかが重要でしょう。ただ個人的にはバロックの作品はできるだけ古楽演奏でやってほしいところではあります。その一方でモダンも古楽演奏を意識する形で行われるとなおいいと思います。そのうえで、感動する演奏が欲しいというのは多少わがままだと自分でも思いますが、是非ともそういう方向で行われると嬉しいなあと思いますし、その参考にこの全集が今後も寄与してくれるといいなと思っています。その想いを特に感じたのがこの第19集でありました。
聴いている音源
ヨハン・セバスティアン・バッハ作曲
カンタータ第35番「霊と心は驚き惑う」BWV35
カンタータ第36番「喜び勇みて羽ばたき昇れ」BWV36
ウィーン少年合唱団員(ソプラノ)
ポール・エスウッド(アルト)
クルト・エクヴィールツ(テノール)
リュート・ヴァン・デル・メール(バス)
ウィーン少年合唱団、ウィーン合唱隊(合唱指揮:ハンス・ギレスベルガー)
ニコラウス・アーノンクール指揮
ウィーン・コンツェントゥス・ムジクス
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