ゼロ・ダーク・サーティ - YAMDAS現更新履歴

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ゼロ・ダーク・サーティ

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キャスリン・ビグローの映画を劇場で観るのは本作が初めてである。アカデミー作品賞、監督賞を受賞した前作は、町山智浩さんのおかげですっかり観る気をなくしてそのままになっていた。ワタシにとってキャスリン・ビグローは、ニュー・オーダーの傑作PVの一つである "Touched by the Hand of God" の監督なんですね。

皮肉にもオサマ・ビン・ラディン暗殺の後に、キャスリン・ビグローの新作がオサマ・ビン・ラディン追跡をテーマにしているとのことで本作のことを初めて知ったのだが、元々の脚本がどうなっていたか、その時点でどれくらい制作が進んでいたかは知らないが、現実がいきなり最終局面に達してしまった以上、その映画にも多大な影響が出るだろうし、プラン自体がすべておじゃんになっても不思議でない、とすら思っていた。

だから、かの暗殺から一年半も経ずに本作が公開されたことは本当に驚きなのだが、なんでそんなことが可能だったのかちょっと疑問に思うところもある。やはりどうしても本作のような映画を公開することの政治的意図を考えてしまうのだ。

本作にはブッシュ政権時に行われた容疑者への拷問を肯定しているという批判がある。ワタシはその批判にそのまま与しないが、どうしてもいろいろもやもやとしてしまうところがあるのは書いておく。

が、それをすべて踏まえた上で、本作がキャスリン・ビグローらしい筋肉質の良く出来た映画であることを認めざるをえない。2時間半をこえる上映時間分の価値のある重厚な映画である。

当然ながら本作は現実の事件が織り込まれており、よってどこが爆発ポイントかは分かって観るのだけど、それでも怖かった。

本作の主人公である CIA の情報分析官マヤをジェシカ・チャステインが潤いを失った骨と皮な質感で見事に演じているが、彼女自身命を狙われながら目的にひたすら突き進む冷徹さは、キャスリン・ビグローの政治的な偏りよりもむしろ禁欲的で職人的な映像作家としての印象に重なる。

しかし、その迷いのなさにどうしても疑問をワタシなど持ってしまうのだ。たとえば同じ題材を扱った英チャンネル4のドラマ「Complicit」において主人公が容疑者に問いかける「なぜ俺たち(非イスラム教徒)をそんなに憎むんだ?」という当然感じるはずの疑問すら本作には差し挟む余地がない。いや、最初はあったのかもしれないが、途中から彼女にはそれがなくなってしまう。

本作のラストシーンは、そうした疑問のなさのまま目的を達した空虚さの反映なのだろうか?

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