YAMDAS現更新履歴

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WirelessWire News連載更新(シリコンバレーのビジネスモデルと政治哲学の出口、そして地獄と折り合いをつけること)

WirelessWire Newsで「シリコンバレーのビジネスモデルと政治哲学の出口、そして地獄と折り合いをつけること」を公開。

この文章は書くのに時間がかかった。正確には、書きだすまでに時間がかかった。日々、気が滅入るニュースを目にしながらこの文章の準備をするのはツラかった。米国の話もそうだし、国内も兵庫県知事選挙の件とかね。

しかし、昨年からこの連載で力を尽くして文章を書いてきた話題なのだから、歯を食いしばって書いた。

エピグラフサルトルの引用は、ヘンリー・ファレルの論説文のタイトルにひっかけたギャグの意味しかない……つもりだったのだけど、最後にちゃんと今回の文章タイトルと符合することとなった。

ロス・アンダーソンの『Security Engineering(情報セキュリティ技術大全)』第3版が全文公開されている

Pluralistic で知ったのだが、セキュリティエンジニアリング研究の第一人者であるロス・アンダーソンの大著『Security Engineering: A Guide to Building Dependable Distributed Systems』の2020年に刊行された第3版がオンライン公開されている(第2版までは以前から公開されていたはず)。

これの第1版は『情報セキュリティ技術大全―信頼できる分散システム構築のために』(asin:4822281426)という邦訳があるが、第2版以降の邦訳はなかったと思う。

第3版を書籍として購入するとなると、1200ページ超の分量もあって、ハードカバーも Kindle 版もいずれも1万円超なのを考えると、とてもありがたいし、すごいねぇ、と思ってしまう。

実は今年の春、アンダーソンは亡くなっており、それを受けての全文オンライン公開かと思う。第二版まではそれ以前からやはり公開されており、いずれはそうなっただろうが、アンダーソンは今年まで普通に論文書いていたので、その死はまったく予想外のものだったのではないか。

ロバート・ケネディ・ジュニアが過去発言した陰謀論一覧

www.newsguardrealitycheck.com

本当に厚生長官の起用が発表されたロバート・ケネディ・ジュニアだが、彼は反ワクチンなどの陰謀論を発信してきたことで知られる。

NewsGuard が、彼が過去の主張に関して検証可能なものの一覧を公開しているので、単純に訳しておく。

  1. ワクチンは自閉症を引き起こす
  2. HIVエイズの原因ではない
  3. あらゆるワクチンは「シェディング」、つまりワクチンの接種者が他の人を感染させる可能性がある
  4. プラセボ対照臨床試験で検査されたワクチンは存在しない
  5. 飲料水に含まれるフッ化物は危険である
  6. 携帯電話を使用すると DNA を傷つけ、ガンの原因になる
  7. WiFi は健康に悪い
  8. COVID-19 ワクチンは流産につながる
  9. ワクチンは乳幼児突然死症候群を引き起こす
  10. 小児期の複数回の予防接種が ADHD の原因になりうる
  11. ワクチン副反応報告システム(VAERS)に、ワクチンによる重傷や死亡の決定的証拠がある
  12. ハンク・アーロンの死は COVID-19 ワクチンが関係していた
  13. ビル・ゲイツが COVID-19 ワクチンに起因する損傷によりオランダで起訴された
  14. ビル・ゲイツが支援したポリオワクチンがインドでポリオの流行を引き起こした
  15. ビル・ゲイツはインドで HPV ワクチンを違法に子供たちに接種した容疑で起訴されている
  16. ビル・ゲイツ髄膜炎ワクチンがチャドの子供50人の麻痺を引き起こした
  17. 2024年10月の研究で、COVID-19 ワクチンには55の未申告の有害な化学物質が含まれることが証明
  18. ファイザー社 COVID-19 ワクチンの「ホットロット」がワクチン傷害を高い割合で引き起こす
  19. ドイツの研究で、COVID-19 ワクチンが子供の免疫系を損傷することが判明
  20. ニュージーランドの「パンデミック計画」により、警察が強制的にワクチンを市民に接種できるようになる
  21. 2024年7月の研究で、COVID-19 ワクチンには何の恩恵もなく、過剰死亡を引き起こしたことが証明される
  22. 英医学誌の研究で、COVID-19 ワクチンが数百万人の過剰死亡を引き起こした可能性が示される
  23. COVID-19 ワクチンは英国での死亡者数を318%増加させた
  24. 鳥インフルエンザがヒトの間で感染するような自然な進化をすることはありえない
  25. COVID-19 ワクチンが死亡者数を14倍増加させたという研究結果
  26. COVID-19 ワクチンは乳幼児死亡率の上昇に関係している
  27. COVID-19 ワクチンを接種した子供は、ワクチン未接種の子供よりも感染力が強いことがUSCの研究で証明される。
  28. カナダの研究でCOVID-19ワクチンが1700万人を死亡させたことが証明された
  29. 2024年7月の研究で、COVID-19による過剰死亡がなかったことが証明された
  30. COVID-19ワクチンはハンセン病患者数の増加と関連している

……すいません。全部訳すつもりだったのだが、ワタシ個人がまったく同意しない言説をただ訳すのも結構苦痛なので、30個までとさせてください。全部で90個以上あるので、興味がある方は原文をどうぞ。

彼が公衆衛生を統括する役職に就くのは悪夢としか言いようがない。

ネタ元は INODS UNVEIL

「はてな故人リスト」の必要性?

はてな版「あの人は今」が定期的に話題になるが、インターネットのゴミだめとして知られるはてなも歴史を重ねた証といえる。なにしろ20年以上前からのユーザもいるわけで。

たいていの人は X なりを探せば消息はつかめるのだが、知られたユーザの中には既に鬼籍に入った人もいる。そうなると、「はてな故人リスト」みたいなものを集積する必要があるかもしれない、とふと思ったりした。

それを運営元に求めるのは現実的ではないが、例えばウィキメディアでは、Deceased Wikipedians というお亡くなりになったウィキペディアンの情報を集積するページがあったりする。

例えば2013年のページを見ると、アーロン・スワーツの名前にいきなり出くわすのである……ん? 今回見て知ったが、そのすぐ下には世界的に著名な映画評論家のロジャー・イーバートの名前があってのけぞった。彼もウィキペディアンだったのか!

閑話休題

かつてははてなダイアリーレペゼンなエントリの数々を書いたワタシだが、さすがに「はてな故人リスト」は他の人にお任せしたいところある。

ワタシが知る範囲で故人のはてなユーザとなると、鈴木芳樹さん(id:yskszk)、伊藤計劃さん(id:Projectitoh)、雨宮まみさんid:mamiamamiya)、Hagex さんid:hagex)、あと人ではないがしなもんさんが浮かぶくらい。

このエントリにオチはない。

竜王戦七番勝負第四局の大盤解説会に行ってきた

www.yomiuri.co.jp

将棋のタイトル戦などで行われる大盤解説会には参加したことがなかったのだが、藤井聡太竜王佐々木勇気八段による竜王戦七番勝負の第四局は、ワタシが6年あまり住んだ茨木市で開催され、しかも週末なので行こうと思えば行けるのも何かの縁かな、と出向いた。

前述の通り、大盤解説会に参加したのが初めてなので他は知らないのだが、1200人入る大ホールで開催(しかもチケットは売り切れたそう)というのはかなり珍しいらしい。キャパの大きさもあって、ワタシ同様大盤解説会が初めてという人が多く、また会場が子育て複合施設なのも影響してか、お子さん連れが目立った。

対局自体は佐々木勇気八段が秘策をぶつけて会心の勝利の勝利で、挑戦者がスコアをタイに戻したのは将棋ファンとして嬉しかったが、ひたすら佐々木八段が攻めを押し通す将棋のため、藤井聡太竜王が悪い将棋を容易に諦めずに一手でも間違えたら殺す、というプレッシャーをかけるスリリングさを堪能することができなかったのは残念だった。

大盤解説会の解説者は、山ちゃんこと山崎隆之八段と佐々木海法女流初段で、佐々木初段は茨木市出身なのだが、この日は村田智弘七段など茨木市在住の棋士が何人も壇上に登場して、旧茨木市民としてなんだか嬉しくなった。

山崎隆之八段は今年15年ぶりのタイトル戦出場を果たし、彼のファンであるワタシも喝采したのだが、大盤解説ではお得意の自虐ネタで会場の笑いを誘っていた。しかし、例の件で殺人予告が届き、SP がついた話は知らなかった……。

藤井竜王の投了後、明確な詰みの筋を解説しようとして、しかし、なかなかそれを見つけられず、山崎八段が「対局者がボクだったら、藤井さんは投了しなかったかもしれませんね」とつぶやくのに笑いながらも、山ちゃん、もう一花頼むよ! と祈るような気持ちになった。

あと、毛布をかぶった記録係が話題になっていた。

ともあれ、佐々木勇気八段が勝ち、2勝2敗のタイに持ち込んだことで俄然面白くなった。佐々木八段は、藤井竜王がデビュー以来29連勝を達成時の終局後に対局室に殺到したカメラの後ろで殺し屋の眼で藤井四段(当時)を見る写真を見て以来(実際、彼はその次に藤井四段と対戦し、連勝記録を止めた)、この人は強くなると見込んでいた人なので、竜王戦の残りも存分に力を発揮してほしい。

渋谷陽一「僕は売れるポップ・ミュージックが大好きだ」再読

本当ならこの週末は WirelessWire News 連載原稿を書いてなければいけないのだが、書き上げるどころか書き出すところまですら行けなかった。しかし、次の週末も土曜日は丸一日予定が入っており、果たしていつ原稿を書けるか目途が立たない……。

というわけで、断続的にやっている渋谷陽一の著書からの引用でお茶を濁させてもらう。今回取り上げるのは、「僕は売れるポップ・ミュージックが大好きだ」(rockin'on 1985年4月号掲載。『ロックはどうして時代から逃れられないのか』収録)である。

そのものズバリといった感じのタイトルだが、書き出しはこうである。

 昔から売れているものに興味があった。売れているものというより、売れているという事実に興味があったと言った方がいいかもしれない。
 どんな評価よりも、多くの人が金を払ってそれを買ったという事実の方が信用できた。『ロッキング・オン』の創刊動機については100回ぐらい書いたような気がするが、今にしてみるとエンド・ユーザーを対象とする商品を作ってみたかったというのが一番正確な言い方かもしれないという気になっている。

渋谷陽一の「売れるものは正しい」論だが、これを明確に書きだしたのはこの頃だったと思われる。

 よく自分の作品が売れなかったりすると、客は馬鹿だ、時代が悪いと怒ったりする奴がいるが、僕の場合は性格がいいせいか、反省は自分の作品の方に向かってしまう。というより、客が悪いとか言ったところでどうなるものでもないし、そんなに自己肯定的になったところでしょうがないだろうと思うのだ。問題は自分が何を書きたいかではなく、人が何を求めているかなのだから。

そして渋谷陽一は、自分の文章も一番気にするのはどう読まれるかであり、自分が書きたいことは飽くまで二次的な問題、と断じる。

 今まで自分がやってきたメディア活動もそうである。何をやりたいかではなく、何が求められているが一番重要なのだ。ちょっと下品な表現をすれば、そこにマーケットが存在するかどうかが大切なのである。よく人からお前は商売人だからな、といった言われ方をするが、そうしたレベルでは間違いなく僕は商売人と言ってよいだろう。

渋谷陽一、商売人宣言である。その彼が、音楽の物理メディアが売れない時代になるやフェスの運営に乗り出したのは、商売人として自然な流れだったのかもしれない。

 それだけに、自分の好みは別として売れているものに対しては常に謙虚である。例えば『少年ジャンプ』などは、昔からちゃんとした読者であったことなど一度もなく、むしろあの過剰な少年性に対しては嫌悪感しか抱けないが、400万部と聞くと思わず尊敬してしまう。

まぁ、ここまでくると、お前は産業ロックを随分貶めていたが、同じ謙虚さ、尊敬を持ってたのか? とツッコミが入りそうであるが。

そして、彼の「売れるものは正しい」論はポップミュージックにも向けられる。

 ポップ・ミュージックはまさに聴かれるための音楽、どれだけ多くの人に聴かれるかが勝負の音楽である。ポップ・ミュージックにかかわる人間にとって、客が悪いという表現は許されない。それは敗北主義以外の何ものでもない。

このあたり山下達郎などいろいろ言いたくなるんじゃないかと思ったりするが、この文章は以下のところがキモだろう。

 人は他者の視線によって初めて相対化される。相対化され、ひとつの関係性の中に置かれた時、コミュニケーションは可能なのである。ポップ・ミュージックというのは今日の情報大衆化社会の中にあって、そうした相対化された自我が最も優れた形で作品化されたものだ。現在は村的な表現が非常に困難な時代である。どんな表現も巨大な情報システムによって試され、そこで洗われなければならない。そうした状況にネガティブであれば、結局は時代や状況から逃げたことになってしまう。(中略)そうした中にあってどれだけ他者の視点を獲得し、自らの表現エゴを相対化し、売れるものを作り得るか、僕にはこれが一番興味深い。(後略)

この文章の最後は、「ロッキング・オン」がいつになってもナンバーツー雑誌であることが頭痛のタネであること、それはまだそれにふさわしい言葉をスタイルを獲得していないからと認め、その上で「勝利の日は近い、のかな」と締めている。

実際に「ロッキング・オン」が「ミュージック・ライフ」を抜いて(だよね?)洋楽誌のナンバーワンになったのはこの後だが、果たして現在の洋楽誌売り上げナンバーワンは何であり、売り上げは最盛期の何分の一くらいなのだろうか。

アメリカで投票をするとウェブサイトに個人情報を晒されるというすごく怖い話

www.404media.co

アメリカで投票した? このサイトがあなたの情報を晒す」というすごいタイトルの記事だが、どういうことかというと、アメリカにおいて選挙人名簿は厳密には公文書だが、現実には入手に手間がかかる選挙人名簿から得た情報をネットに晒す右派サイト VoteRef があるというのだ(リンクはしません)。

そこで晒される情報は、ほとんどの州に住む人の氏名、住所、年齢、所属政党……って、思い切り個人を特定できる情報やないか! それを無料で簡単に検索できるわけだ。

上記の通り、選挙人名簿は厳密には公文書なので、それを公開すること自体は違法ではない。しかし、ジョゼフ・コックスが書くように、この右派サイトは「単なる投票という民主的なプロセスの重要な部分をセキュリティとプライバシーの脅威に変えてしまう」。

問題は、このサイトの運営元はトランプ陣営の元幹部で、有権者数と投票数の不正を見つけることが目的だったようで、2020年の大統領選挙後の不正選挙キャンペーンで陰謀論を広めた疑いがあること。このサイトの背景にある政治的意図がきなくさい。

少し前にカタパルトスープレックスに書評が載っていた『Data Cartels』の著者のサラ・ラムダンが以下のように語る通りである。

VoteRef のようなサービスは、こうしたサービスがいかに侵略的かを証明しています。VoteRef の検索バーに名前を入力して、人口統計情報とともにその人のすべての投票履歴が表示されるのは、本質的に不気味な感じがします。ほとんどの人は、この種の個人情報が公開されているのをおそらく知らないでしょうし、それを知ったらこのサービスをオプトアウトしたいと思うでしょう。今日、プライバシーとは、情報が存在するかどうかよりも、自身のデータをコントロールできるかのほうが重要なのです。

伝説的音楽プロデューサーのジョー・ボイドが世界の音楽を旅する大著を出していた

www.davidbyrne.com

毎月聴いているデヴィッド・バーン・ラジオ、最新回はコンゴ音楽特集だが、それよりデヴィッド・バーンの前口上の冒頭で、友人のジョー・ボイドが書いた900ページ超の音楽専門書をほぼ読み終えたという記述から始まるのに驚いた。

ジョー・ボイドといえば、かのニック・ドレイクやフェアポート・コンヴェンションなどの仕事で知られるプロデューサーだが、そうした仕事は半世紀以上前の話であり、もちろんその後もプロデューサーを続けていたのは知っているが、恥ずかしながら既に鬼籍に入っているものと思い込んでいた。

調べてみると今年で82歳で、その御年で大著 And the Roots of Rhythm Remain を発表していた。すごいね。

この書名は、ポール・サイモンの名作『Graceland』に収録された "Under African Skies" の歌詞から採られたものだが、この本は世界中の音楽を網羅しており、特にアフリカの音楽について多くの紙幅が割かれているとのこと。恥ずかしながら、ジョー・ボイドがいわゆるワールドミュージック関係でも重要人物なのは知らなかった。

デヴィッド・バーンによると、この本はもちろん音楽の進化についても書かれているが、重要なのは、進化して繁栄した音楽と衰退した音楽を分ける政治的、経済的、世界的な力学について書かれていること。

そのバーン自身はもちろん、ブライアン・イーノロバート・プラントライ・クーダーT・ボーン・バーネットといった錚々たる面々が本書に推薦の言葉を寄せている。

邦訳を期待したいところだが、900ページ超の分量となるとさすがに難しいかしら。

いかにしてザ・キュアーのロバート・スミスはロック界でもっとも粘り強い活動家になったか

www.nytimes.com

16年ぶりのニューアルバム『Songs Of A Lost World』が、32年ぶり(!)にアルバムチャートで全英1位を獲得した The Cureロバート・スミスNew York Times が取材した記事で、もちろん新譜の話も多いのだが、ロバート・スミスが世界最大級のライブエンターテイメント企業であるライブ・ネーション(チケットマスター)と戦った話の分量も多く、記事タイトルもそれを指している。

近年、ダイナミック・プライシングによってライブのチケット価格が制御不能になっており、再結成オアシスのチケット価格暴騰が問題になったのも記憶に新しいが、ロバート・スミスがいちはやくライブ・ネーション(チケットマスター)に対して改革を粘り強く求めていたのは知らなかった。

「私は口紅を塗ってるし、65歳だ。世界の何が間違っているかを言うために立ち上がる種類の人間ではない」とロバスミは言うが、彼はチケットマスターに対して一歩も引かず戦った。

キュアーのライブのチケット価格は20ドルか25ドルで、トップ100アクトのチケットの平均価格が131ドルなのを考えると、これは破格の安さと言える。ロバスミは、これを若いファンを考えてのことと語る。

周りからはそれじゃ大損をするだけと説得されたそうだが、前作を出した後に音楽業界ビジネスについて研究する時間があったロバスミは、チケット価格をもっと安くできるはずとライブ・ネーションと戦った。

しかし、キュアーが例外的な存在であり、彼らに加勢するアーティストが他にいなかったのにロバスミは失望したという。「人々はライブ・ネーションとチケットマスターを怒らせるのを恐れている。アーティストの力こそ究極の力なのを考えれば、これは実に奇妙だ」とロバスミは苦々しく語る。

チケットマスターに反旗を翻したバンドは、当たり前だがキュアーが最初ではなく、90年代にはパール・ジャムが同じようにチケット価格の問題でチケットマスターと戦ったが、法廷闘争でひどく疲弊させられ、バンドが望むような結果にはならなかったはず。ライブ・ネーション(チケットマスター)を恐れて声をあげる人が皆無なのは故なきことではない。

さて、バトルを経たキュアーのツアーは、大損どころか3750万ドルものチケットを売り上げ、バンド史上最高の成功を収めた。しかも、バンドTシャツを(相場の半額である)25ドルで売り、2倍の売り上げとなったという。

ロバスミは、このインタビューでも後悔はしていないときっぱり語る。かっこいいじゃん。

さて、キュアーの新譜は大変評価が高く、ワタシが初めて聴いた彼らのアルバムにして、ワタシの人生航路にも影響を与えた『Disintegration』以来の最高傑作という声もあるが、不本意ながらギターが弱いという田中宗一郎の指摘に同意する。ポール・トンプソンの偉大さを今になって思う。

しかし、新譜発売にあわせて公開されたライブ配信は素晴らしいぞ。

てっきり新譜から何曲かのライブ演奏の配信かと思ったら、3時間の表示にマジ? と思ったらマジだった。

いきなり新譜を全曲演奏し、その後はワタシが大好きな『Disintegration』~『Wish』期の楽曲を中心にやって本編終了。その後2回のアンコールだが、これだけ歴史があり、しかもずっと質が高い作品を作ってきたバンドは、いくらでもやる曲がある強みがある。

彼らをずっと愛してきて本当によかった。

Songs Of A Lost World

Songs Of A Lost World

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ダニー・マッカスキルがアディダス本社でバイクトライアルをやる動画がすごい

kottke.org

トライアルサイクリストとして知られるダニー・マッカスキルが、アディダスの本社を走り回る動画がすごいので、まぁ、見てくださいな。

恥ずかしい話、ワタシはアディダスの本社がドイツのヘルツォーゲンアウラハにあるのも知らなかった(なんとなく、アメリカにあるものと思い込んでいた)。このアディダスの本社自体がなんともフューチャリスティックな作りになっていて、バイクトライアルに適しているのだけど、これがアディダス自体の宣伝にもなるのだろう。

動画のサムネイルになっているジャンプがクライマックスですね。

ダニー・マッカスキルに興味を持った人は、彼の YouTube チャンネルもどうぞ。

週末のお出かけの記録(BOOK MEETS FUKUOKA、手塚治虫 ブラック・ジャック展)

出不精がデブの衣をまとった男ことワタシだが、先週末は珍しくイベントに足を運んだので、その時の写真を載せておこうと思った次第。

BOOK MEETS FUKUOKA ~本のもりのなかへ~

葉々社の投稿をみて、ああ、やっていたのかと行ってみた。全国の出版社・書店が出店し、様々な本が集合する期間限定イベントとのことだが、葉々社の投稿にもあるように福岡の独立系書店が多いのがポイントですね。

「福岡を本の街に」を謳う BOOKUOKA が先月末から行われており、これもその一環なのである。BOOKUOKA、来年20周年なんだな。

実はここの場では本をいろいろと眺めるばかりで買わなかったのだが、折角街に出たのだからと BOOKUOKA 自体を立ち上げたブックスキューブリックけやき通り店に足を運び、歩き回るうちに現代思想安部公房総特集(asin:4791714725)と半藤一利安吾さんの太平洋戦争』(asin:4480439307)を購入した際に BOOK MEETS FUKUOKA のチラシと付箋をいただいた。

思えば、ワタシは2012年に「キンドルを伏せて、街へ出よう」という本屋で本を買っただけのヘンな文章を寄稿しているのだが(なぜか唐沢俊一の名前も出てくる)、ここに書いた博多における本屋についての話は完全に古びてしまっており、時の流れを感じてしまう。

手塚治虫 ブラック・ジャック展

帰省時に長崎県美術館に観に行った。

「500点以上の生原稿から手塚治虫の情熱と執念を大解剖!」とのことだが、これがどうしようもなく生原稿に見入ってしまう。没入しながら一つ一つ見ているうちにさすがに疲れてきて、最後は明らかに少し流し気味になってしまったが、それでも2時間かかった。本気で見ていったら、3時間はゆうにかかったはずだ。

観覧料の価値は十分ありました。

撮影できるのはここまで。今更気づいたのだが、『ブラック・ジャック』の連載が始まったのは、ワタシの生年と同じなんだね。

帰省と開催時期が重なって本当にありがたかった。

『AIの倫理学』と対になるマーク・クーケルバーク『ロボット倫理学』邦訳が出ていた

yamdas.hatenablog.com

昨年はじめに書いたエントリで、ウィーン大学の哲学科の教授であるマーク・クーケルバークの多作ぶりを取り上げているが、そこで紹介した『ロボット倫理学』の邦訳が先月出たのを知る。

「邦訳の刊行が期待される洋書を紹介しまくることにする(2023年版)」『AIの倫理学』と対になるこの本の邦訳も出てくれんかと書いたが、正直難しいと思っていた。

「コンパニオンロボットから軍事用ドローンまで、様々なロボット技術とその応用を考察し、それらの使用がもたらす倫理的問題点を明らかにし、その解決法を提示する」とのことなので、本書がカバーする範囲は大きい。

AI にロボットの身体を与える Google の取り組みなんか知ると、これは求められている本に思える。

しかし、これでマーク・クーケルバークが2022年に出した4冊のうち、AI やロボットの倫理や政治哲学といった面白い題材を扱った3冊の邦訳が出たことになるんだな。

『ザ・ブラックオニキス』の作者にして、テトリスを世界的ビジネスにしたヘンク・ロジャースの回顧録が来年出る

ヘンク・ロジャースが Talks at Google に登場している。

www.youtube.com

テトリスの40年を祝う」というタイトルがついているが、そうか、テトリス1984年に完成してから今年で40年になるんだな。

ヘンク・ロジャースというと、ワタシ的には断然『ザ・ブラックオニキス』の作者になるのだけど、やはりテトリスをビジネスにした人というのが欧米一般の認知になるだろうか。

昨年、タロン・エガートンヘンク・ロジャースを演じる『テトリス』が映画化されたしね(Apple TV+ 配信なのでまだ観れてないが)。

なんで彼が Talks at Google に出演したのかと思ったら、The Perfect Game Tetris という回顧録が来年4月に出る予定なんだね。「ロシアより愛をこめて」という副題もニヤリとさせられる。

そういえば、ワタシは昨年に書いた文章の中で、彼の名前を引き合いに出している。

例えば、本書における(ファミコンに続く第2の勢力だった)ホビーパソコンの話題は、かつてPC-6001mkIISRのユーザだったワタシなど、『ザ・ブラックオニキス』の名前が出てくるに至って大いに盛り上がるわけですが、その作者にして、後に『テトリス』にも大きく関わることとなるヘンク・ブラウアー・ロジャースと著者が実は知り合いだという「おいしい」話を書かずに済ませる自制心に唸らされる一方で、本書に散見されるすっとぼけた書きぶりを見るにつけ、著者の底知れなさに恐ろしさを覚えます。

黒電話と『1973年に生まれて』とらくらくホン – WirelessWire News

いつかまた速水健朗さんに会えたら、彼の話を伺いたいところ。

オアシス:ライヴ・アット・ネブワース 1996.8.10

オアシスが1996年にネブワースで行ったライブについては、実はこれまでちゃんとライブ全編の映像を観たことがなかったこと、そして、地方在住のワタシはおそらく彼らの来年の来日公演には行けないだろうというのがあり、今回観ることにした。

この英国史上最大のライブの時代背景については、『LIVE FOREVER』などを観るのが良いのかもしれないが、ただ彼らの全盛期をとらえた映像として接してもよい。リアム・ギャラガーの突き刺すようなヴォーカルが圧倒的としか言いようがない。映画館で大音量で体験できて本当に良かったと素直に思う。

個人的な話になるが、1996年はワタシが就職した年であり、それから1997年までほぼ2年近くもワタシは躁状態だった。というか、それ以降、ある程度の期間躁状態になったことはなく、ある意味、ワタシの人生である意味もっとも楽しかった時期かもしれない。当然ながら、当時オアシスのアルバムはよく聴いていた。そんな楽しかった、しかし、実りは少なかった時期のことを思い出したりもした。

しかしなぁ、こういうライブ映画、なんで普通の映画よりも値段が高いのかねぇ。

2度目のはなればなれ

英国を代表する名優にして、昨年俳優業からの引退を表明したマイケル・ケインの最後の主演作ということで、彼を見届けるべく観に行った。

本作の主人公はDデイの70周年記念の行事に参加するためノルマンディを目指して老人ホームを抜け出た老人であり、マイケル・ケインにぴったりな作品なのは間違いない。

実話を基にした映画ということで、地元の警官が SNS で拡散した「The Great Escaper」というフレーズが人々の好奇心を惹いたわけだが、言っちゃなんだが、大してドラマチックな話になりようがない。特筆すべき作品と言うつもりはない。しかし、それは問題ではないのだ。

主人公と久方ぶりの共演となる妻役のグレンダ・ジャクソンをはじめ、介護施設のケアワーカーなど脇を固める人たちがよいのだけど、やはり長年の夫婦でも長年お互い触れることのできない領域があるという普遍性のある主題を表現している。

なんといっても主人公がその死を目の前で見ることになってしまった戦友の墓の前で嘆く痛切な言葉、そして帰国した主人公が妻に吐き捨てるように「感動ストーリー」な騒ぎを切り捨てる言葉、それがすべてだと思う。それを聞けただけでよかった。

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