夜中に、Aさんは空腹で目を覚ましました。
朝までとても我慢できそうにないほどの空腹です。
しかし、外はまだ真っ暗です。
寝床から抜け出して、Aさんは台所へと向かいました。
冷蔵庫を開けましたが、あいにく中にあったのは玉ねぎが半分としなびたしめじ、賞味期限の切れた納豆と、あとは調味料くらいのものでした。
食器棚や戸棚、そこらじゅうの戸を開けてみましたが、めぼしい食料はありません。
砂糖をなめて飢えをしのごうかとも思いましたが、それはあまりにもわびしい。
何かないかと、一縷の望みをかけて、流しの下の戸を開けました。
すると、そこは花畑でした。
空腹も忘れて、Aさんは目の前に景色に見入ってしまいました。
そして、おそるおそる花畑に足を踏み入れました。
いろとりどりの花。
かぐわしい香り。
まさしく春がそこにはありました。
Aさんは、この景色をどこかで見たような気がしました。
なんだか懐かしいような…。
うっとりとした気分で、Aさんはしばらく花畑の中で過ごしました。
すると、どこからか地鳴りのような音がしてきます。
ごうごう、ぐるぐる、ごうごう、ぐるぐる。
Aさんは目を覚ましました。
ごうごう、ぐるぐる、ごうごう、ぐるぐる。
あまりにも空腹で、大きな音でお腹が鳴っていたのです。
外はうっすら明るくなっていました。
Aさんは、すぐさま近くのコンビニエンスストアに駆け込み、たっぷりと食品を買い込みました。
家に帰ってさあ食事の支度をしようとしたそのとき、流しの下の戸が少し開いていることに気がつきました。
そして、あの花畑を見つけたのです。
あの花畑は、昔に買ってすっかりその存在を忘れていたペーパーナプキンの柄にそっくりでした。
どうやら昨晩はペーパーナプキンの中に迷い込んでいたようです。
おしまい。