知れば知るほど奥が深い漢方の世界。患者さんへのアドバイスに、将来の転職に、漢方の知識やスキルは役立つはず。薬剤師として今後生き残っていくためにも、漢方の学びは強みに。中医学の基本から身近な漢方の話まで、薬剤師・国際中医師の中垣亜希子先生が解説。
第107回 「紅花(コウカ・ベニバナ)」の効能 血液サラサラ・血流改善に
漢方薬の原料は、植物から動物、鉱物までさまざまなものがありますが、中でもお花系の中薬(生薬)は「花類薬(かるいやく)」などと呼ばれます。ベニバナの名前でおなじみの中薬(生薬)は、薬膳でたびたび登場するキク科のお花で、中医学では「紅花(コウカ)」と呼びます。今回は、中医学的な「紅花(コウカ・ベニバナ)」の効能や使われ方を紹介しましょう。
1.紅花(コウカ・ベニバナ)とは
紅花は薬として用いられるほか、服や絨毯の染料、化粧品の材料、さらにはミイラつくりにも使われてきました。スーパーなどで売られている「紅花油(ベニバナ油・サフラワーオイル)」は、紅花の種子を使っています。一方、漢方薬として用いるのは花の部分で、「紅花(コウカ)」と呼びます。
ちなみに、サフランライスに用いるサフランは「番紅花(バンコウカ・サフラン)」と言って、乾燥したその見た目は紅花(コウカ)に少し似ていますが、全く違う植物です。しかも、1つの花から3本しか取れないめしべのみを使用するため、紅花よりもずっと高価です。
個人的に大きな違いとして感じるのは、生薬の紅花はとても臭いが強いです。調剤室で紅花を扱うと、薬局中がややクサくなります。
また、インド料理などで供される黄色いライスは「サフランライス」か「ターメリックライス」のどちらかですが、上述のようにサフランは高コストなので、よほどよいレストランでなければターメリックのほうでしょう。
ターメリックは、日本では一般的に「ウコン」と呼ばれますが、中薬名は「姜黄(きょうおう)」です。ちなみに、中薬名で「欝金(ウコン)(灰色)」と呼ばれる中薬は、日本では、「川玉金(せんぎょくきん)」という名前で流通しています。
わかりにくいですが、要するに中薬の「欝金」は日本では「川玉金」の名で呼ばれることが多く、日本で「ウコン」といえば中薬の「姜黄」のことです。
このように紅花、番紅花、姜黄は、それぞれ違う植物からとれるものですが、どれも黄色い染料(食用・食用外)として用いられることに加え、血流改善作用のある活血薬という共通点があります。
中薬・食物(薬食)には、四性(四気)と呼ばれる「寒・熱・温・涼」の4つの性質があり、さらに、温めもせず冷やしもしない、寒熱の偏りがないものは「平(へい)」と言います。紅花(コウカ)は「温性」です。
■生薬や食べ物の「四気(四性)」
紅花(コウカ)の四気五味(四性五味)は「温性、辛味」なので、次のような作用があることがわかります。
● 辛味=通(つう:通す)、散(さん:散らす)のイメージ。
紅花は、その辛味と温かみにより、体内を駆け巡って血流を改善する薬物ということがわかります。
また、紅花(コウカ)は「心・肝のグループ」に作用し、これを中医学では「心経・肝経に作用する(帰経する)」と表現します。
2.紅花(コウカ)はどんな時に用いられるのか(使用例)
紅花(コウカ)は血行を促進し、血液の滞りを解消する効果が非常に高い中薬です。中薬学の書籍では理血薬(りけつやく)のなかの、「活血化瘀薬(かっけつ・かお・やく)」に分類されます。「理血薬」とは、「血分(けつぶん)」と言って「血のエリア」の病変を調理・調整する薬物のことを指します。
血分の病変は、以下の4つに大別できます。紅花は「活血化瘀薬」として、血瘀・瘀血が関係する、全身のさまざまな症状・疾患に活用されます。
病変 | 意味 | 治法 |
---|---|---|
血虚(けっきょ) | 血の不足(虚) | 血を補う「補血」 |
血熱(けつねつ) | 血に熱がこもる | 血の熱を冷ます「涼血」 |
血瘀(けつお) | 血の滞り | 血流を改善する「行血(ぎょうけつ)」「活血化瘀(かっけつかお)」 |
血溢(けついつ) | 出血する | 出血を止める「止血」 |
紅花はこのうち、「血瘀(血流が悪くて滞っている状態)」に対する「活血化瘀薬(かっけつ・かお・やく)」に分類されます。活血化瘀薬は活血祛瘀薬とも言います。どちらも同じ意味です。
“活血化瘀”は聞きなれない言葉ですね。中国語なので、「動詞」→「目的語」の順に漢字が並びます。
「血」→「血(けつ)」
「化」→「変化させる」
「瘀」→「滞り」
「祛」→「取り除く・払いのける(去りなさいと指し示すイメージ)」
といったイメージです。
数多くの活血化瘀薬のなかでも、特に紅花(コウカ)は活血作用の効果が高い中薬です。紅花を使用する目安は、「血瘀証」が間違いなくあり、かつ、基本的には「虚証」が顕著でない時です。紅花を使用する際の重大な注意点については後述します。
近年では、臨床の各科において、多種の瘀血阻滞の疾患、あるいは血流不良などの症状に幅広く使用されています。どのような血瘀に用いるのか、例を挙げてみました。
(2) 難産・死産の娩出
(3) 打撲による内出血の腫脹・疼痛
(4) 熱毒のこもり・気血の滞りによる皮膚化膿症の腫脹・疼痛
(5) 血瘀による狭心症・心筋梗塞(冠状動脈性心疾患)の予防と治療
(5)の冠状動脈性心疾患(狭心症・心筋梗塞)の予防と治療には、丹参(たんじん)、川芎(せんきゅう)、赤芍(せきしゃく)などと配合されて用いられます。毛沢東が心筋梗塞で倒れた際に作り上げた処方として有名な「冠心Ⅱ号方(かんしんにごうほう)」にも含まれています。
ちなみに日本では、「冠心Ⅱ号方」の加減方(※)のエキス顆粒剤が販売されています。私のお師匠であり大先輩である先生の「日本人もこの処方が必要だ!」との思いから開発がはじまり、その効果効能を証明し日本で製品化されました。今ではさまざまな漢方メーカーからの変方(変更を加えたもの)が販売されています。すべて一般用漢方薬です。
※加減方…症状に応じて生薬を足したり引いたり、分量を増減すること
3.紅花(コウカ)の効能を、中医営養学の書籍をもとに解説
ここでは中薬学の書籍で紹介されている紅花の効能を見ていきましょう。効能の欄には、四字熟語のような文字が並んでいます。一瞬ギョッとするかもしれませんが、漢字の意味から効能のイメージを掴むのに役立ちます。
紅花(コウカ)
【分類】
活血化瘀薬
【処方用名】
紅花・杜紅花・南紅花・草紅花・紅藍花・コウカ。
【基原】
キク科 CompositaeのベニバナCarthamus tinctorius L.の管状花。
【性味】
辛、温。
【帰経】
心・肝。
【効能】
活血祛瘀(かっけつ きょお)、通経(つうけい)
【応用】
1.痛経(生理痛)、血液の停滞による無月経、血液の停滞による産後の腹痛、しこりの蓄積、打ち身、関節痛に用いる。
紅花は、心・肝の血分に入り、辛味と体を温める性質を利用し、血液循環を活性化し、血液のうっ滞を取り除き、経脈を通して調整する。上述の瘀血証(≒血液循環のうっ滞)の治療に用いられ、桃仁、当帰、川芎、赤芍などの活血祛瘀薬と配合する。
2.熱鬱血滞による斑疹色暗に用いる。その活血祛瘀(≒血液循環を改善する等)の作用により血の停滞を解消する。
処方例)当帰紅花飲(とうきこうかいん)のように、当帰、紫草、大青葉などの活血涼血(かっけつ りょうけつ:血流を改善しつつ血にこもった熱を冷ます)・泄熱解毒(せつねつ げどく:熱を排出して解毒する)の中薬を配合する。
紅花は、活血祛瘀(血行を促進し、血液の滞りを解消)する効果が非常に高く、近年では、臨床において各科で、多種の瘀血阻滞の疾患(血液の詰まり、血流不良などの疾患)あるいは血流不良などの症状に幅広く使用されている。
冠状動脈性心疾患(狭心症・心筋梗塞)の治療には、丹参、川芎、赤芍などが配合される。
閉塞性血栓血管炎の治療においては、患者の足が暗赤あるいは青紫色を呈している気滞血瘀型のケースでは、当帰、桃仁、赤芍、乳香、没薬などを併用する。
【用量】
3~9g、大量で9~15g、和血養血(わけつ ようけつ)で1~2g。煎服。
【使用上の注意】
妊婦には禁忌。
※【分類】【処方用名】【基原】【用量】は『中医臨床のための中医学』(医歯薬出版株式会社)より部分的に引用/【性味】【帰経】【効能】【応用】【使用上の注意】は『中薬学』(上海科学技術出版社)より部分的に抜粋し筆者が和訳・加筆したもの
4.「瘀血」「血瘀」とは?
血(けつ)の流れが悪く停滞していることを「瘀血(おけつ)」とか「血瘀(けつお)」などと言いますが、この2つの用語には一応使い分けがあります。
「瘀血」は血が滞っているそのモノを指し、「血瘀」は血が滞っている状態を指します。
しかし、どちらも意味合いとしては血液の滞りをあらわす用語であるため、実際のところ臨床家たちもごちゃ混ぜになることが多いです。本当のところを知っていればそれで構わないように個人的には思います。まるわかり中医学でも、読みやすさを優先して用語を選択する(本来の用語の使い分けと異なる)こともあれば、上記の意味ごとに使い分けてみることもあります。
瘀血を改善するには
瘀血は全身にあらわれる症状としても、舌診(中医学の舌の診断法)でも、見つけやすいものですが、大事なのは「なぜ、瘀血が生まれたのか?」という原因をつかむことです。根本から改善しなくては、瘀血は生まれ続けます。
中医学には「治病求本(ちびょう きゅうほん)」と言って、「病を治療する際は、根本原因を追究して根本原因から治していく」という教えがあります。
瘀血の原因には、「虚・実・寒・熱(きょ・じつ・かん・ねつ)」のすべての可能性が考えられます。「虚」とは不足・弱り、「実」とは滞り・余分なもの、「寒」とは冷え、「熱」とは熱のこもり、のことです。
【瘀血の形成パターン(瘀血の原因)の例】
・気虚(ききょ)
気の不足→血を推し動かすチカラが足りない→血行遅滞→臓腑・経脈に血液停滞=瘀血
あるいは、
気の不足→血が漏れ出ないようにする気の「摂血作用」が失調→出血→局所に血液停滞=瘀血
・気滞(きたい)
気の滞り→気の正しい流れが乱れる→血行遅滞→臓腑・経脈に血液停滞=瘀血
・血寒(けつかん)
冷えによる経脈の収縮→血行遅滞→臓腑・経脈に血液停滞=瘀血
・血熱(けつねつ)
熱邪が血に入り結びつく→血行遅滞→臓腑・経脈に血液停滞=瘀血
あるいは、
熱邪が血脈を灼傷(熱邪が盛んで血脈を焼き焦がして傷つけるイメージ。例えば出血性の感染症など)→出血→局所に血液停滞=瘀血
・外傷、手術
経絡を損傷→出血→局所に血液停滞=瘀血
瘀血の三大症状
瘀血の三大症状は、【痛む】【しこる】【黒ずむ】です。以下に、血瘀証の特徴的な症状の例を挙げます。
・疼痛
教科書的には針で刺されるような痛み(刺痛:しつう)と表現される(が、必ずしもそうとも限らない)。手でおさえられる・さすられるのを嫌がる(拒按)。痛みの部位が固定的。月経痛、頭痛、肩こり、足腰痛、神経痛などの痛みが出る。
・出血
瘀血が血脈を塞ぐため、血液が脈管外にあふれ出る。したがって、出血は慢性的に反復する。血色は紫暗色でひどければタール様。血塊をともなう。
・チアノーゼ
唇や爪の色が青紫色。舌は紫暗色あるいは瘀斑や瘀点を生じる。
・腫瘤(しこり)
腹腔内にできた腫瘤のほか、外傷性の腫瘤。疼痛を伴う。例えば、子宮筋腫、チョコレート嚢胞、イボ痔、下肢静脈瘤など、血の滞りが詰まっている何かしらのコブ・できもの。
・その他
顔色が紫暗色になる、眼のまわりのクマが目立つ、皮膚が乾燥して魚鱗のようになる、紫斑、脈渋など。
5.紅花(コウカ)の注意点
日本において、紅花(コウカ)は医薬品(生薬)としても食品としても出回っています。
華やかな赤い見た目や、色の出のよさから、薬膳料理や薬膳茶にもよく登場します。
しかし、その効能のシャープさゆえ体質を選び、個人的には注意して使用すべき生薬のひとつのように思います。
瘀血はある程度の年齢を重ねると誰にでもあるもので、しかも、舌の状態や全身症状からとても見つけやすく、だからこそ本人自身が気になるものです。しかし、「虚(不足)」の程度が強い場合は、その「虚」が血虚・気虚・陰虚・陽虚どれであっても、いちど立ち止まる注意深さが必要です。
『中医臨床のための中薬学(医歯薬出版株式会社)』の紅花の【使用上の注意】に、
(2)出血傾向にあり、瘀滞がみられない場合には用いない。
(3)「過用すれば血行止まずして斃れ(たおれ)しむ(たおれて死ぬの意)」とあるように、過量を用いてはならない。
とあるように、妊娠中・出血傾向にあって瘀滞がない場合は用いません。
おなじく、『中医臨床のための中薬学(医歯薬出版株式会社)』の紅花の【臨床使用の要点】に、
とあるように、紅花は量によって、作用の仕方が異なります。
「破血」とは、「血を破る」という語感のとおり、活血よりも強い血流促進のイメージ、凝集して固まったような血(例えば、血栓など)を溶かす作用も、より強いイメージです。
多く用いると、紅花の辛味と温性により体内を走り回って駆け巡って、体内の色々なものを散らして巡らせ、「破血」して経絡を通します。
少なく用いれば、ほどよく血流改善されて、滞っていたせいで血液が巡らず栄養が足りていなかった部位にも血が行きわたり、血が養われたかのような効果をもたらします。
※紅花には補血薬のように血を補う作用はありません。
多用・少用とはどのくらいなのかここで言及することは控えますが、紅花に限らず中薬学の教科書の量は、基本的に日本人向けの量ではありません。日本人にはあまりに多すぎる量ですので、うのみにしないようにご注意ください。
瘀血がありそうだなと思う方は、中医学の専門家に一度ご相談ください。
参考文献:
・小金井信宏(著)『中医学ってなんだろう(1)人間のしくみ』東洋学術出版社 2009年
・内山恵子(著)『中医診断学ノート』東洋学術出版社 2002年
・丁光迪(著)、小金井 信宏(翻訳)『中薬の配合』東洋学術出版社 2005年
・凌一揆(主編)『中薬学』上海科学技術出版社 2008年
・中山医学院(編)、神戸中医学研究会(訳・編)『漢薬の臨床応用』医歯薬出版株式会社 1994年
・神戸中医学研究会(編著)『中医臨床のための中薬学』医歯薬出版株式会社 2004年
・翁 維健(編集)『中医飲食営養学』上海科学技術出版社 2014年6月
・日本中医食養学会(編著)、日本中医学院(監修)『薬膳食典 食物性味表』燎原書店 2019年
・許 済群(編集)、王 錦之(編集)『方剤学』上海科学技術出版 2014年
・神戸中医学研究会(編著)『中医臨床のための方剤学』医歯薬出版株式会社 2004年
・伊藤良・山本巖(監修)、神戸中医学研究会(編著)『中医処方解説』医歯薬出版株式会社 1996年
・李時珍(著)、陳貴廷等(点校)『本草綱目 金陵版点校本』中医古籍出版社 1994年