薬剤師・薬局の仕事は、一般の利用者の立場からは分かりにくい部分も多いかもしれません。薬剤師・薬局に関する素朴な疑問について、薬剤師さんに詳しく解説してもらいました!
「マイナ保険証」って薬局側にメリットはあるの?
患者さんの薬剤情報を把握して、良質な医療を提供できることが最大のメリットです
いまだに賛否両論が続くマイナ保険証ですが、2024年12月に現行の保険証発行が終了し、いよいよ本格稼働する予定です。皆さんはもうマイナ保険証を使っていますか?
医療費が安くなる(初診料が-20円、再診料が-10円 ※ただし受診頻度よる制限あり)ので、抵抗なくマイナ保険証を使っている方がいる一方、「本当に私の個人情報は大丈夫なのだろうか……」と不安に駆られ、従来の保険証のままという方も多いのではないでしょうか。
参照:令和6年度診療報酬改定の概要【医療DXの推進】|厚生労働省
薬局側にとって、マイナ保険証を活用する最大のメリットは、複数の医療機関にまたがる薬剤情報を一元的に把握できることだといえます(これは患者さんにとってのメリットでもありますが)。
2018年に岐阜県内の薬局で実施された調査(1,105症例)では、疑義照会(薬剤師が処方箋の内容について医師などに問い合わせること)の原因として、次のような結果が報告されています。
● 同種同効薬重複(同じ効果の薬が処方されている)6.9%
● 併用禁忌(一緒に服用できない薬が処方されている)1.4%
参照:重複投薬・相互作用等防止加算関連業務の分析と経済効果―Pharmaceutical Intervention Record(薬学的介入報告)の分析―(医療薬学 2018年44巻12号)|J-STAGE
同じ薬や同じ作用の薬、一緒に飲んではならない薬が処方されるケースは上記のように意外と多く、受診する医療機関が多くなるほど増えるリスクがあります。
しかし、マイナ保険証を使っている患者さんの同意を得て薬剤情報を閲覧すれば、これらの問題がないかチェックして、安全かつ効果的な薬物治療につなげることができます。また、より正確な情報に基づく服薬指導も可能になります。
「でも、お薬手帳があるでしょ?」と思う方もいるでしょう。お薬手帳も1人が1冊だけ持ってうまく運用できていればいいのですが、複数冊持っていて記録が分散している方も少なくありません。そのため、患者さんの薬剤情報の把握に役立つマイナ保険証は、薬剤師の業務にとって「神」なのです。
また、薬局の窓口で、直ちに資格確認(患者さんの保険資格を確認すること)ができるので、資格過誤によるレセプト返戻が減り、事務コストが削減されることもメリットです。
レセプト返戻があると保険者から診療報酬が支払われず、その分は一時的に薬局収入が減ります。翌月以降に資格確認をして再請求しますが、それが遅くなればなるほど診療報酬の支払いも遅くなってしまいます。
参照:オンライン資格確認の導入で事務コストの削減とより良い医療の提供を~データヘルスの基盤として~【医療機関・薬局の方々へ】|厚生労働省
厚生労働省はマイナ保険証への移行を一気に進めようとしており、薬局を訪れた際に「マイナンバーカードをご利用ください」と声をかけられた方もいるでしょう。こうした声かけを負担と感じる現場の薬剤師もいますが、薬局としてはマイナ保険証の利用率実績が診療報酬上で評価される(=薬局の収入が増える)ことになっています。
参照:オンライン資格確認の導入について(医療機関・薬局、システムベンダ向け)|厚生労働省
マイナ保険証導入の薬局側にとってのメリットは、患者さんに良質な医療を提供できることに尽きます。現時点では、患者さん側のマイナ保険証への切り替えが進んでいなかったり、マイナ保険証への対応準備が間に合っていない医療機関があったりするようですが、果たして2024年12月までには何とかなっているでしょうか?
東北大学薬学部卒業後、ドラッグストアや精神科病院、一般病院に勤務。現在はライターとして医療系編集プロダクション・ナレッジリングのメンバー。専門知識を一般の方に分かりやすく伝える、薬剤師をはじめ働く人を支えることを念頭に、医療関連のコラムや解説記事、取材記事の制作に携わっている。
ウェブサイト:https://www.knowledge-ring.jp/