インタビュー 公開日:2023.02.28 インタビュー

地域で愛される薬局になるには?街の小さな書店に学ぶ愛される店づくり

地域で選ばれる薬局になるにはどうすれば良いのでしょうか?本記事では激動の書店業界で躍進する人気店の魅力に迫り、他業種の取り組みから、地域で愛される薬局づくりのヒントを探ります。
 
大型書店チェーンの台頭やEC販売の普及など、時代の潮流とともに街の書店は急激に衰退。20年ほど前は2万店を超えていた店舗数も、実店舗に限ると近年では1万店を下回るほどに。そんな中、今も街の人気店として書店経営をつづける隆祥館二代目店主二村知子さんに、その理由や背景を伺いました(2019年11月取材)。

 

本記事は株式会社ネクスウェイが提供する「医薬情報おまとめ便サービス」特集2020年2月号P1-2「特集・地域で選ばれる薬局の道 他業種に学ぶ」を再構成したものです。

お話を聞いたのは……
 

隆祥館書店 二代目店主
二村知子さん


店主・二村知子さんは、シンクロナイズドスイミングの井村雅代コーチ(当時)に師事し、現役時代はチーム競技で2年連続日本1位、日本代表としてパンパシフィック大会にも出場。現役引退後、隆祥館書店に入社。メディアでは知らされていない真実を追求する場としてイベントを開催するなど、地域に根ざした活動で注目されている。

 

景気後退や法律改正、取次の冷遇……店を継いだ当初は逆境の連続でした

両親が経営するこの店を継いだのは今から25年ほど前。ちょうど書籍のEC販売やコンビニチェーンでの取り扱いがはじまった頃でした。しかもその後、街の中小の店舗を守る大店法(大規模小売店舗法)が廃止され、私たちのような小さな書店は逆風にさらされることになりました。
 
世の中の景気後退の影響も重なり、取次業者(出版社と書店の間をつなぐ卸売問屋の役割)も個人店に少数ずつ配本するコストを抑え、大手チェーンへ優先的に、大量に配本を行うようになっていきました。
 
仕入れ時の精算もそれまでは全額負担をせずとも良かったものが、中小には便宜を図ってくれなくなる、といった理不尽も起こるように。



 

そうした変化の中で廃業に追い込まれる書店を多く見てきました。当店でも、過去に、新刊発売時から約3カ月間、東京の大手書店を抑えて日本一の販売数を売り上げた作品があったのですが、文庫化した際は一冊も配本されなかったことさえありました。

 

小さな書店だからできることを考えお客様の気持ちと向き合うことに

私がまだ父の下で仕事を学んでいた頃から、これから街の書店はどうあるべきかをずっと模索していました。そこでまず取り組んだのが、お客様ひとりひとりの趣味嗜好を頭に入れることでした。



 

名前を覚えられなかったとしても、その特徴で覚えておくことができますし、次回ご来店時にその方に合った本をおすすめすることもできると考えたからです。実際、おすすめした本を「本当に良かったよ」と言っていただけるたびに手応えを感じられるようになっていきました。
 
私たちのような街の小さな書店は、小さなお子さまや高齢者が1人でも気軽に来店できる安心感が魅力です。この頃から、そういう店でありつづけたいという思いが日に日に強くなっていったのを覚えています。

 

お客様の声がきっかけでスタートした読者と作家と地域をつなぐイベント

ある日、お客様から「この本を執筆された作家さんに直接お会いして話が聞きたい」と相談されたことがありました。今から8年くらい前のことです。なんとかコンタクトを取ろうと手紙やメールで必死に依頼をつづけ、ついに2カ月ほどして承諾にこぎつけました。それが、今もつづく「作家と読者の集い」のスタートです。
 
以来、本を通じて作家と読者がつながることの意味深さを痛感し、お客様の声から企画を立ててシリーズ化していくことに注力するようになりました。特に、人間の体の仕組みや健康についてなど、地域の人に読んでもらいたい本は優先的に仕入れていましたね。
 
元来、本が好きで、その価値を広く伝えたいと思っていた私ですが、「本には人の人生を変えるくらいの力がある」と日頃から語っていた父の思いを、知らず知らずに受け継いでいたことにも気づきました。



 

その他にも、臨床心理士による『ママと赤ちゃんのための集い場』というイベントも毎月第3木曜日に開催し、地域の人々が温かくつながりながら助け合えるようなコミュニティの場を提供しています。

 

「3カ月で黒字化」の約束を果たすためイベントを毎週開催し来店促進を強化

数年前に父と母が他界したのですが、その頃は赤字が続いていたこともあり、店の存続について兄妹で意見が分かれたことがありました。弟や妹は書店業界の行く末を案じ廃業を勧めてきたのです。協議の結果、「3カ月で黒字化ができなければ売却しよう」ということに。
 
両親が支えてきたこの店を、父とともに過ごした年月を、どうしても無駄にしたくない私は、これまで以上に経営にのめり込み、月に一度のイベントを週に一度のペースで開催するようになりました。



 

閉店後にさまざまな本を読み込み、企画を練り、作家さんへの依頼に奔走するうちに、気づけば黒字化の約束も達成していました。何より、イベントを通じて本の魅力を伝えられ、しかも売上げにまでつながったことで、私も経営者として自信を持つことができました。
 
理不尽な書籍流通の仕組みの中、諦めず、お客様と向き合いつづけてきて本当に良かった。今後も、ここで本を買いたいと思っていただけるような書店づくりをつづけていきたいと思っています。

 

地域の方々のかけがえのない場所として各種イベントも展開
 
■2019.11.21 Thu
「ママと赤ちゃんのための集い場」

2016年より子育てに悩む親御さんたちの心のケアやサポートのための活動を開始。赤ちゃんの月例ごとのお悩み相談をはじめ、さまざまなプログラムを企画・実施している。2019年からは臨床心理士である宝上真弓先生とともに、親子で楽しめる絵本の選書サービスを行うなど、地域の人々がつながって支え合える社会を目指し活動中。

■2019.11.10 Sun
「作家と読者の集い 週末通いたくなる森の見つけ方」開催

2011年にスタートした読者と作者の思いをつなぐトークイベント「作家と読者の集い」。シリーズで展開している本イベントは、延べ1万人以上の方が参加してきたという。今回のテーマは、森林浴。これまでにない森の活用法を提案した「あたらしい森林浴」の出版記念企画として、著者の小野なぎささんと林業に従事されてきた「SHARE WOODS」代表の山崎正夫さんによる対談を実施。
小野さんからは「予防医療」や「人材育成」の視点から森を使いこなすヒントを、山崎さんからは間伐採ワークショップや、森と暮らしをつなぐ会員型サロン「HASE65(ハーゼロコ)」についてトークを展開。森を身近にとらえることで、どのように豊かな暮らしが手に入るのかを議論した。

 
 

 

出典:株式会社ネクスウェイ「医薬情報おまとめ便サービス」特集2020年2月号