AIは人よりやさしい? 20周年を迎えたYahoo!知恵袋が生成AIとタッグを組んだワケ|LINEヤフー株式会社

AIは人よりやさしい? 20周年を迎えたYahoo!知恵袋が生成AIとタッグを組んだワケ

インタビュー

Yahoo!知恵袋(以下、知恵袋)は、いろいろなことを質問・相談したり、自分の知識や知恵を生かして回答したりできるQ&Aサービスです。2004年にベータ版がリリースされて以来「すべての人々に知恵を共有するサービス」として幅広い年代の方にご利用いただき、今年4月で20周年を迎えました。
この20年で取り組んできたこと、2023年から試験的に導入した生成AIの回答機能を導入した理由と今後の展望、印象に残っている質問を、責任者とメンバーに聞きました。

知恵袋が20年で変化してきたこと 印象に残っている質問

――知恵袋に投稿される質問と利用者の特徴や傾向を教えてください。また、特に印象に残っている質問はありますか?

知恵袋の利用者数、質問・回答の投稿数は、20年間で着実に増えてきました。利用者層は現状30代、40代が多いです。特にアプリを使っている人々の中には20代の方々が多くいらっしゃいます。よく利用されているカテゴリは、「エンターテインメントと趣味」、「生き方と恋愛、人生相談」、「健康と美容、ファッション」など。

「若い世代が日々の悩みを投稿し、経験豊かな上の世代が回答する」という傾向がみられます。これはサービスが始まった当初から変わらず、今でも続いています。

共通テスト終わりました。誰にも言えないのでここに思いや疑問を書かせていただきます。はっきり言って勉強不足でした...

これは、共通テストを終え、良い結果を残せず自信を落とした質問者に、共感を呼ぶ回答が多く集まり、質問者も前向きになったというQ&Aです。回答者の温かさと質問者の気持ちの変化が印象に残っています。

1歳くらいまで立ったまま食事を与えていた方はいらっしゃいますか?...

特に「子育て」カテゴリでは、周りに相談できる人がいない親が質問を投稿し、子育て経験のあるユーザーがその質問に答えたり、励ましたりするというシーンがよく見られます。」
たとえば「1歳までたったまま食事を与えていた方はいらっしゃいますか?」という質問がありました。子育て経験のある方からのアドバイスがとてもやさしいので、ぜひ回答内容もあわせて見てほしいです。

――これまでの20年で時代や技術、ユーザーが大きく変化しましたが、知恵袋はそれらにどう対応してきたのでしょうか?

2013年ごろから、ユーザーのデバイス環境はパソコンからスマートフォン・アプリへと急速に移行しました。現在では投稿の半数以上がスマホのブラウザやアプリから行われており、スマートフォンが閲覧の中心となっています。そのため、アプリ機能の改善と向上が必須でした。

知恵袋は、サービス開始から現在に至るまで、Q&Aサービスとして多くの皆様にご利用いただき続けてきました。ですが、その間にジャンル特化型の検索や口コミ機能、SNS、動画サービスの進化や変化により周囲の環境は大きく変化してきました。

そのため、Q&Aサービスとして存在するだけでなく、多くの閲覧ユーザーの皆様にとっても価値のあるコンテンツを提供するUser Generated Content(UGC)メディアとして、時代の変化に合わせてサービスを進化させていく必要があると考えています。2023年から開始している生成AIによる回答もその取り組みの一環です。

回答の質を高めるための取り組み 生成AIの回答機能を導入した理由

――Yahoo!知恵袋にAI回答機能を取り入れた背景、理由を教えてください。

知恵袋を利用してくださっているユーザーが一番知りたいことは「質問の答え」です。多くの方がより質問をしやすくなること、それらの質問に対する回答を増やすことを目指して導入しました。

実は、いわゆる「キーワード検索」ってかなり難しいんですよ。

たとえば、テレビで自転車レースを見たとします。そこで選手たちが乗っている自転車の正式名称が分からないとき、検索して調べたいと思ったらどのようなキーワードを入力すればいいかわかりますか?

――たしかに、「自転車」以外のキーワードはパッと浮かびません...。

でしょう? 多くの人はきっと最初に「自転車」と入れると思います。実際「自転車」のキーワードで検索する人はかなり多いのですが、多くの方は検索したあと何もクリックしないでドロップ(離脱)してしまいます。

なぜかというと「自転車」で検索すると「自転車とは?」というWikipediaや、購買サイトが出てきて、「それ(知りたい情報)じゃない」となるからです。

でも、たとえば「テレビで自転車の競技を見ました。そこで選手が乗っている自転車の正式名称は何ですか?」というように自然文を使えたら質問しやすくなりますよね。
知恵袋ではこのように、何か知りたいことがあったら、誰かに相談するように質問を打ち込んでほしいと考えています。

――確かに、「相談するように」質問を入力するなら多くの方ができそうです。

ただ、知恵袋の弱点は、答えを知っている人がその質問にたどり着いて回答してもらえないと答えが得られないという点です。そのため、回答してもらえない質問を少しでも減らし、上手にキーワード化できない内容についてもユーザーがさらに質問しやすくなるためにAIの力を借りられたら、と考えました。

現在導入している生成AIは、昨日今日の最新のデータまで答えの要素に取り込めてはいません。ですが、たとえば「机をDIYしたい」という質問の場合、最新のデータがなくても過去のデータから作り方の一例を生成できるので、先んじてAIに答えの一例を示してもらえます。

時には人よりやさしい? AIは人間に対して「ドラえもん」のようにサポーティブ

――知恵袋は、先ほどもあったように、「若い世代の悩みに先輩たちがアドバイスをする」という、人間味のあるやりとりが大きな魅力だと思います。そこにあえて、ある意味「無機質」に感じられてしまいそうなAI回答機能を取り入れることへの迷いはありましたか?

はい、ありました。今でもそれは気にしながら進めています。ただ、先ほど話したような目的もあったので、まずはやってみないとわからないと思い、テストからスタートしました。
結果としては、やはりAIによる回答に対して否定的な方も一部いらっしゃいます。ただ、逆に、「知恵袋の中で、少し雑な回答をする人に比べたらAIの答えのほうがハートフルです」という興味深い反応もありました。

――つまり、AIの方がよりやさしくていねいな回答をしてくれるということですか?

はい。場合によっては、そのような声もありました。
たとえば、40代男性が「どうやったらモテるでしょうか」と相談しても、ユーザーからは「もう、モテません」「もうあきらめましょう」みたいな答えがくることもあるんですよね...。
でも、AIは「頑張りましょう!」と答えたり励ましたりしてくれるんです。

閲覧していただいているユーザーのみなさまの数も含めると、1日に1,300万人以上の方が知恵袋を使ってくださっていますが、AIによる回答を段階的に拡張していくことを多くのユーザーが自然に受け入れてくださりつつあると感じています。

海外では、悲観的な未来の象徴的に、人間の尊厳というものと相対してしまう世界観でAIを見る人も多いのですが、なぜか日本ではどちらかというと自然に受け入れてくださっているようにも感じています。

――それはなぜでしょうか?

これは個人的な考えですが、欧米の世界観におけるAI的なものは、常に人間と敵対するストーリーで描かれてきたような気がします。でも、日本だとそれは「ドラえもん」や「アトム」なんですよね。多くの日本人にとっては、AIに感じるイメージは人間に対してサポーティブな存在なのではないかなと。

知恵袋は基本的に「答えを知りたい」というユーザーのニーズに対応するプロダクトです。そのため、それがAIによるものであれ人間によるものであれ、回答が増えることは良いことだと考えています。
また、誰かが間違った回答をした場合、それを修正することはできないですが、AIの場合はその回答をチューニングして改善できることもメリットです。

――生成AIが回答するときに、得意とする分野はありますか?

初めてAIを導入した際は「1+1は何?」のような、明確な答えがある一問一答の質問がAIの得意領域だと考えていました。具体的には、歴史に関する質問などです。そして、恋愛相談などは、機械だろうと逆にユーザーであろうと明確な答えは持っていないのでAIは少し不得意だろうと思っていました。

結果としては、一問一答は得意なのですが、歴史の領域のような一問一答については、正確性向上の対策もしていますが、AIの出力は必ずしも正確な回答ではないケースも発生することがわかりました。むしろ恋愛相談のような、正解のない質問でもAIがしっかり答えてくれるという、期待していた結果とは別の結果が得られました。

これは、ユーザーのみなさまからの質問に対して、たとえば「このようなやさしさを加えたかたちで回答してほしい」という開発方針で、AIがどういう話法、文体で回答するかを日々チューニングし続けている結果でもあります。

――人間のやさしい部分を出して答えてくれているのがAIの回答、ということですね。

でも、AIのモデルによっては、たとえば、「アフリカに生息していて、鼻が長く、人間よりも大きい動物は何ですか?」という質問に対して、「それは象です。象は...」と詳細に答えてくれるAIもいれば、「象」と一言で答えるAIもいます。

生成AIのモデルによって特徴がそれぞれ異なるので、ある意味人に近いといえば人に近いと思います。私たちはこれを「(AIの)クセが強い」と表現しています。
答えは正しいのですが、そのようなモデルで生成された回答に対して、一部のユーザーからは「もう少し詳しく答えてほしい」という声もいただいていますので、そういった点についても取り組んでいます。

――生成AIにも個性があるということですね。

さらに、今年2月からは質問を生成AIで作ってユーザーのみなさんに答えていただくという取り組みも開始しました。
これは、多くの人が検索を通じて知りたいと思っていることをAIで質問に変換し、それに対する答えをユーザーから寄せていただくという取り組みです。

初めて鎌倉を訪れる友人と一緒に、一日で回れる鎌倉のおすすめ観光ルートを教えてください。(知恵袋の公式AIが質問)

――生成AIからの質問にユーザーが答えてくださっていますね。

ただ、この取り組みは特に迷いに迷いましたね。そもそも、生身の人が質問しているから、みんな答えてあげようという善意が生まれるのではないかと。人ではないAIが質問しても答えてもらえるのかな? という気持ちでした。

生成AIは大量の質問を生成できるので、たとえば日本中の駅ごとにこのような質問を生成して、お近くにお住まいのユーザーに答えていただけたら、日本全国の駅ごとに「この駅の周辺は、実は〇〇が楽しいよ」という地元自慢のような情報が集まるようになります。
それらはこれからその場所へ行く人にとって、とても有益な情報になるのではないかと考えています。

――知恵袋の公式AIからユーザーに質問をする、という使い方は面白いですね。これまでの知恵袋にこれから足したいと思っていることは、10点満点のうち、現時点ではどのくらい足せていますか?

1点です。

――あ、1点なんですね...(厳しい!)。

(笑)ですが、これはかなり重要な1点だと思っています。
これからの10点満点はまだまだ白紙で、これまでほとんど手がつけられていませんでした。でも、ここ1、2年で、特に生成AIを中心にこれからにつなげられる技術的な要素が次々と出てきたと思っています。

その中で、まず生成AIによる機能へ一歩を踏み出したことが最初の1点で、非常に重要なステップだと思っています。この一歩を思い切って踏み出してくれた開発メンバー一人ひとりに感謝していますし、なによりこの取り組みを受け入れてくださっているユーザーのみなさんに感謝をお伝えしたいです。

知恵袋が目指すのは、誰もが経験や得意なことを活かして答えられる世界

――では、理想の姿に対してどういうふうになっていると、さらに点を足せそうですか?

さらに多くの人が「自分でも答えられるんだ」と感じられる状態を目指したいですね。
たとえば、誰でも自分の得意なことを可視化して、それを活用してより気軽に、そして自信を持って答えられる環境をつくっていきたいと思っています。

――今はまだ、多くのユーザーにとっては回答をすることはハードルが高いと感じますか?

はい、まだ高いと思います。それは「答えたら何を言われるかわからない」という不安があるからではないでしょうか。その不安をゼロにはできなくても、「知恵袋でなら安心して答えられるかもしれない」と思っていただけるようなサービスにするための努力を続けていきたいですね。

具体的には、たとえば子育てに悩んでいる方からの質問であれば、子育て経験がある人たちにきちんとその質問が届くような仕組みをつくっていきたいと思っています。

そして、その質問が届いた人たちには、その質問に答えていただくことで、誰かの役に立てたことで少し幸せな気持ちになれたり、自信につながったりすることが増えていく。そのような世界がつくれたら、少しでも世の中のためになれるのではないか、と思っています。

Yahoo!知恵袋が一番大事にしているのは、答えを知っているユーザーのみなさん

――最後に、ユーザーのみなさんに向けてメッセージをお願いします。

AIを使った取り組みを進めていますが、今も昔もこれからも、知恵袋というサービスが一番大事にしているのは、答えを知っているユーザーのみなさんです。
私たちは、AIが人に取って代わるとは考えていないし、感じてもいません。
なぜなら、生成AIはウェブ上にある、これまで誰かがアウトプットした答えをベースに答えています。つまりAIは人間の知恵が公開されたものをベースにしているので、まだ公開されていない、まだ見ぬ答えはユーザーのみなさんの中にあると思っています。

これまで蓄積されたユーザーの知恵をもとにして最初の答えを出してくれる、という意味では、AIは頼りになります。AIをはじめとした新しい技術を使った知恵袋が、本当に困っているけど調べ方も分からない、相談する相手もいない、という人に、これまで以上にしっかり答えを届けられる場所になればと思います。これまでの知恵袋の良い部分を保ちつつ、これからさらに多くのユーザーにご利用頂き続けていくために、生成AIのような技術の力も取りいれていきたいですね。

自分の聞きたいこと、困っていることを、相談相手に100%理解してもらえる状態で伝えるのは、難しいこともあります。そのようなときにはぜひ、何度でも試すことができるAIを含めて、知恵袋に頼ってみてください。

担当者が印象に残っている質問&コメント

映画化もされた質問です。まだみていないのですがみたいと思いました!

Q:家に帰ると妻が必ず死んだふりをしています。 どういうことなのでしょうか?

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取材日:2024年3月28日
※本記事の内容は取材日時点のものです

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