「新商品頼みの組織体制では、中長期的に利益を生み出せるブランドはつくれない」。そんな経営哲学で、着実に会社を成長させてきたのが、健康食品や化粧品などの商品をECで販売する北の達人コーポレーションの木下勝寿社長だ。同社は「びっくりするほど良い商品ができたときにしか発売しない」という方針の下、高い便益と独自性を持つ商品にこだわって開発してきた。ブランドとは、商品が持つ便益と独自性の体験を積み重ねることで顧客の中にできあがる。木下社長に「強いブランドをつくる条件」をぶつけた。前後編に分けて公開していく。
――北の達人には、長年にわたって販売を続けているブランドが多数あります。木下社長は、短命で終わってしまうブランドと、長寿ブランドにはどのような違いがあると考えていますか。
木下勝寿氏(以下、木下) 長く続くブランドは、基本的に「プロダクト(商品やサービス)」から始まっています。一方、短命で終わってしまうブランドは、「イメージや話題」から始まっていることが多い印象です。
長く愛されているブランドのほとんどは、まず「素晴らしい商品」が存在します。それらをいわゆる「イノベーター」や「アーリーアダプター」と呼ばれる商品の良しあしが分かる“目の肥えた消費者”が、「この商品はいい」と言い始めます。彼らが商品を使っていくうちに、商品に対する信用がブランドへの信用へと広がっていく。そうして事業主が、顧客にきちんと商品を届けられるように、自社商品を識別しやすくするためのロゴなどを付けるようになった。これが本来のブランドの成り立ちです。
次に何が起きるかというと、目の肥えた人たちが使っているのを見た「マジョリティー」層が、そのロゴが付いている商品はいい商品だと思い始めます。物の良しあしが分かっている人が買っているから、良い商品に違いないと思い、一般の人にもどんどんブランドの認知が高まっていくわけです。
すると、「かっこいいロゴやビジュアルにすればブランドができて物が売れる」と思い始める競合が出てきます。こうした競合が商品そのものの価値ではなく、ロゴやビジュアルなどからブランドをつくり始めると、マジョリティー層の中からロゴやビジュアルに引かれて商品を買っていた人が移り始めます。商品の本質的な便益と独自性で買っていないため、移ろいやすいからです。彼らは次から次へと出てくるブランドにどんどん乗り換えていくので、こうした層が顧客の中心となっているブランドは短命で終わりがちです。
対して商品から入ったイノベーターやアーリーアダプターに支えられているブランドは、息が長い。無理に広告費をかけなくても、継続的に購入してくれる「固定ファン」を抱えているからです。そしてこの固定ファンに支えられている売り上げは大きい。ここに明確な違いがあります。
――長く続くブランドは、ブランドの核を守りながら、新規顧客開拓に向けた新たなニーズに応えられる新商品開発などの必要性は出てくるものでしょうか。
木下 新しさを売りにしているのであれば話は別ですが、私自身は、必ずしも新しさを売りにする必要はないと考えています。むしろ新しさを売りにしてしまうと安定性が悪いので、いい手とは言いきれません。
新商品を出すと、メディアなどに取り上げられることで一時的に露出が増え、確かに売り上げにはつながります。ですが、売れている理由が「新商品」なのだとしたら、逆に「新しさ」がなくなったときには、売れなくなる恐れもあります。個人的には、新商品を発売してもプレスリリースを積極的に出したいとは思っていません。それで売れて成功体験を積み重ねてしまうと、新商品じゃないと売れないような組織になってしまいがち。それをよしと思っていないからです。
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