第76回エミー賞は現地時間の15日、ロサンゼルスで主要な賞の発表が行われ、俳優の真田広之さんがプロデュースと主演を務め、アメリカの有料テレビチャンネルFXが制作した「SHOGUN 将軍」がドラマ部門の作品賞を受賞しました。
このほか真田さん自身が主演男優賞、アンナ・サワイさんが主演女優賞、フレッド・トーイ監督が監督賞をそれぞれ受賞しました。
「SHOGUN 将軍」は9月8日に撮影賞や編集賞なども受賞していて、15日に発表された主要な賞とあわせてひとつのシーズンの作品として18の賞を受賞し、エミー賞で最多の受賞記録を打ちたてました。
米エミー賞 真田広之さん主演男優賞「SHOGUN 将軍」作品賞受賞
アメリカの優れたテレビ番組などに贈られるエミー賞の授賞式で、俳優の真田広之さんがプロデュースと主演を務めたドラマシリーズ「SHOGUN 将軍」がドラマ部門の作品賞を受賞しました。
さらに、真田さん自身が主演男優賞を受賞するなどひとつのシーズンの作品としてあわせて18の賞を受賞し、エミー賞で最多の受賞記録を打ちたてました。
「SHOGUN 将軍」エミー賞で最多の受賞記録
真田広之さん 「東洋が西洋と出会う夢のプロジェクト」
ドラマ部門の作品賞の受賞スピーチで真田広之さんは「時代劇を継承して支えてきてくださったすべての方々、監督や諸先生方に心より御礼申し上げます。あなた方から受け継いだ情熱と夢は海を渡り国境を越えました」と述べました。
また、ドラマ部門の主演男優賞を受賞したスピーチで、真田さんは英語で、一緒に作品を作った人たちに感謝の気持ちを伝えたうえで、「この作品は東洋が西洋と出会う夢のプロジェクトで、敬意が込められています。人々が一緒に取り組むことで奇跡を起こせることを教えてくれました。私たちはよりよい未来を一緒につくることができます。本当にありがとうございました」と述べました。
アンナ・サワイさん「ヒロ」は“扉を開いてくれました”
ドラマ部門の主演女優賞を受賞したアンナ・サワイさんは英語でスピーチし、「名前が呼ばれる前から泣いていました。きょうは混乱しています。私を信じ、このような大役を任せてくれてありがとうございました」と述べました。
そしてこの作品をプロデュースした真田広之さんを「ヒロ」と呼び、「ヒロに率いられたキャストとクルー、全員に感謝を申し上げます。彼は私のような人たちに扉を開いてくれました」と述べました。
真田さん「次世代の俳優や制作陣に大きな意味をもたらす」
受賞後の記者会見で真田広之さんは、「名前が呼ばれたときは信じられない思いでした。壇上に上がったときに皆さんが立ち上がってくださって、本当に夢かと思ったんですが、ことの重大さに改めて気づかされました」と賞が発表された時の気持ちを率直に明かしました。
そのうえで「このことが次世代の俳優や制作陣に大きな意味をもたらしてくれると信じています。時代劇が継承され、日本発でも世界に通用するものを作っていくというひとつの布石になればという気持ちです」と話し、日本の作品が後に続くことに期待を示しました。
また主演女優賞を受賞したアンナ・サワイさんは「ステージの上も含めきょう12回くらい泣いてしまいました。不安や、みんなに賞をとってほしいなどいろいろな気持ちで混乱していました。いまでも何が起きたのか気持ちの整理がつかない感じです。受賞は信じられないことで、あすの朝起きたらすべて夢だったと思うでしょう」と受賞の喜びを話しました。
主演男優賞の真田広之さん
俳優の真田広之さんは、東京出身の63歳。
ジャパンアクションクラブの出身で、1970年代から80年代は「戦国自衛隊」や「里見八犬伝」などの作品に出演し、アクションもできる二枚目俳優として人気を集めました。
その後、1990年代にかけては映画「麻雀放浪記」や「病院へ行こう」、テレビドラマ「高校教師」など、コメディーから恋愛ドラマまで幅広い役柄をこなし、演技力も高く評価されました。
2003年に公開され、トム・クルーズさんや渡辺謙さんと共演したハリウッド映画「ラストサムライ」への出演以降は活動拠点をロサンゼルスに。
その後も「47RONIN」や「ブレット・トレイン」などハリウッドのアクション映画に武士やヤクザなど日本人の役で次々と出演、日本を代表する国際派俳優として活躍しています。
「SHOGUN 将軍」は、ハリウッド作品では真田さんが初めて主演とプロデュースを務めるドラマで、日本から見てもおかしくない、「本物の日本」を描きたいという思いから演技の所作や小道具、衣装などを監修、リアリティーのある時代劇とアクションシーンが高く評価されています。
「SHOGUN 将軍」とは
「SHOGUN 将軍」は、1975年に発表され世界的にヒットした、戦国時代の日本が舞台の小説が原作の作品です。
真田広之さん演じる徳川家康をモデルとした架空の武将が、日本に漂着してきたイギリス人航海士と関わることで、戦乱の窮地をくぐり抜け、天下統一を目指す物語を10回のドラマシリーズで描いていてせりふの大半が日本語というアメリカでは異色の作品です。。
真田さんは主役を演じるだけでなくプロデュースも務めていて、衣装やたてなど各分野に通じた専門家を起用。
これまでのハリウッド映画などでは日本から見ると違和感があった描写をあらため、「本物の日本文化」を発信することが強く意識されています。
リアリティーのある演出や迫力あるアクションが随所に盛り込まれ、激動の戦国時代の物語を壮大なスケールで描いています。
米メディア “外国語のシリーズ番組にとって大きな飛躍を意味”
「SHOGUN 将軍」はあわせて18の賞を受賞し、76回を数えるエミー賞でひとつのシリーズの番組としては最多の受賞を記録しました。
また、アメリカの複数のメディアによりますと主に英語ではない言語が使われたドラマが作品賞を受賞したのは初めてのほか、真田広之さんの主演男優賞の受賞は日本人では初めて、アジア系では2人目となり、アンナ・サワイさんはアジア系で初めて主演女優賞の受賞者となりました。
アメリカの有力紙「ニューヨーク・タイムズ」は「この受賞は、外国語のシリーズ番組にとって大きな飛躍を意味する。アメリカのネットワークによって制作され、アメリカ国内のストリーミングサービスで配信されたにもかかわらず、このドラマのせりふのおよそ70%は日本語だった。韓国の『イカゲーム』のような外国語のシリーズはこれまで何度かエミー賞を受賞してきたが、ドラマ部門の作品賞のようなトップの賞を脅かすようなことはなかった」と指摘しています。
またエンターテインメントの専門メディア、「ザ・ハリウッド・リポーター」は「今回のエミー賞は、韓国の『パラサイト 半地下の家族』が英語以外の映画で初めて作品賞を受賞した2020年のアカデミー賞のように、歴史的な転換点として記憶されるだろう」としたうえで、アメリカの国外で制作されたテレビ番組を対象にする「国際エミー賞」について「数年のうちに、『国際エミー賞』を別に開くという考えは時代遅れと見なされるだろう」と論評しています。
専門家 “エミー賞の歴史を塗り替える出来事”
映画や配信ドラマなど国内外のエンタメ業界に詳しい徳力基彦さんは「これまでのエミー賞では英語での演技が前提となっていた中、日本語で演技をした真田広之さんが主演男優賞を受賞し、作品全体でも18の賞を取ったことは数年前までは考えられず、エミー賞の歴史を塗り替える出来事です」と偉業をたたえました。
そして、受賞に至った背景について「この数年で動画の配信サービスが普及し、アメリカ人が『イカゲーム』や『ゴジラ-1.0』など海外作品を見ることが増え、多様な人種が出演する作品を受け入れる土壌ができていたことも追い風になった。そこに、真田さんが真の時代劇を再現することへのこだわりが伝わり、受賞につながったのだと思う」と分析していました。
その上で、今後の日本のコンテンツ制作について「これまで日本のドラマ作品は海外に見てもらおうという意識が薄かったと思うが、現在は配信で海外で流行しているものも増えつつある。日本語で日本人が演技している作品であっても、感情や感動が伝わることを『SHOGUN 将軍』現象が証明してくれたと思うので、世界を意識して作ればすべての作品にチャンスがある。今回の受賞が日本の映像業界にとっていい流れとなってほしい」と期待を寄せていました。