【詳報】バイデン氏大統領選 撤退表明 後任候補ハリス氏支持
アメリカのバイデン大統領は、21日、秋の大統領選挙での再選を断念し、選挙戦から撤退する考えを表明しました。
今後、民主党の後継の候補者選びが行われますが、バイデン氏が支持するとしたハリス副大統領が有力視されています。
【最新】バイデン大統領撤退 ハリス副大統領 活動本格化へ
===バイデン大統領 21日午後 SNSで声明を発表===
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【声明全文】
バイデン大統領が旧ツイッターのXに投稿し、選挙戦を撤退する考えを表明した声明の全文です。
アメリカ国民の皆さんへ
この3年半、私たちは国家として大きな進歩を遂げた。こんにち、アメリカは世界で最も強い経済力を有している。私たちは歴史的な投資を行って、国の再建や高齢者向けの薬価の引き下げ、そして、記録的な数のアメリカ国民に手がとどきやすい医療を拡充してきた。有害物質にさらされた多くの退役軍人に、不可欠な医療を提供した。過去30年で初めて銃規制に関する法律を成立させた。最高裁判事に初めてアフリカ系アメリカ人の女性を任命した。世界の歴史上最も重要な気候変動対策に関する法律を成立させた。
アメリカがこんにちほど主導的な立場にいたことはない。どれもアメリカ国民なしには成しえなかったことだ。私たちは共に100年に一度のパンデミックと、大恐慌以来、最悪の経済危機を克服した。私たちは民主主義を守り、維持してきた。そして世界中の同盟関係を活性化し、強固にした。
みなさんの大統領を務めることは、私の人生で最大の名誉だ。再選を目指すつもりでいたが、私が選挙戦から退き、残りの任期は大統領としての職務を全うすることに専念することが、党にとっても国にとっても最善の利益になると考える。
私の決断の詳細については、今週、国民のみなさんに話す予定だ。
いまは、私の再選のために尽力してくれたすべての人たちに深く感謝したい。あらゆる仕事において素晴らしいパートナーとなってくれたカマラ・ハリス副大統領に感謝したい。そして、私に信頼を寄せてくれたアメリカ国民に心から感謝したい。
私はきょうもいつものように信じている。私たちが力を合わせればアメリカにできないことはない。私たちはアメリカ合衆国であることを忘れてはならない。
“選挙戦から退き 残りの任期のまっとうに集中”
アメリカのバイデン大統領は21日午後、SNSで声明を発表し「民主党や国にとっては私が選挙戦から退き、大統領としての残りの任期のまっとうに集中することが最良だと信じている」として、秋の大統領選挙での再選を断念し、選挙戦から撤退する考えを明らかにしました。
再選を目指す現職大統領が選挙戦の途中で撤退するのは、1968年のジョンソン大統領以来、56年ぶりの事態です。
また、バイデン氏は、カマラ・ハリス副大統領を民主党の後継の大統領候補として支持する考えを示し、有権者に対しハリス氏への支持を呼びかけました。
これに対し、ハリス氏は声明で「バイデン大統領の支持を得られたことを光栄に思う。この指名を勝ち取るつもりだ」と意欲を示しました。
このあとの民主党の候補者選びについて、民主党全国委員会の委員長は「透明かつ秩序ある手続きに着手する」としています。
これまでに上院議員や州知事が立候補を模索していると伝えられていますが、バイデン氏が撤退した場合の候補者として名前が取り沙汰されていた西部カリフォルニア州のニューサム知事はハリス氏を支持すると表明しました。
また、クリントン元大統領夫妻もハリス氏の支持を表明するなど、現時点ではハリス氏が有力視されています。
一方、野党・共和党のジョンソン下院議長はバイデン氏の撤退について、民主党の候補者選びでバイデン氏を選んだ有権者の意思を無視しているなどと非難していて、民主党が透明性のある候補者選びができるのかも注目されています。
“今こそ団結してトランプ氏を打ち負かす”
バイデン大統領は、SNSのXへの別の投稿で「私はことしの選挙に向けた党の候補者としてカマラを全面的に支援し、推薦したいと思う」と述べて、カマラ・ハリス副大統領を後任の大統領候補として支持する考えを示しました。
さらに「民主党員よ、今こそ団結してトランプ氏を打ち負かす時だ」と述べてハリス氏への支持を呼びかけました。バイデン氏は今週、国民に向けて撤退するという決断について詳しく説明するとしています。
“民主党候補者としてハリス氏を全面的に支持し推薦したい”
さらに、バイデン大統領はSNSのXで「私はことしの民主党の候補者としてカマラ・ハリス氏を全面的に支持し、推薦したいと思う。民主党員よ、今こそ団結してトランプ氏を打ち負かす時だ」と投稿しました。
現職大統領の選挙戦撤退は1968年のジョンソン大統領以来
アメリカのメディアは、再選を目指す現職の大統領が選挙戦から撤退するのは、1968年のジョンソン大統領以来の事態だと大々的に伝えています。
第36代大統領のジョンソン氏は、大統領選挙の投票日の7か月前、1968年3月31日、泥沼化していたベトナム戦争への対応についての演説の中で、大統領選挙に出ないことを表明しました。
アメリカの有力紙ニューヨーク・タイムズは、過去75年で、再選に向けての選挙戦から撤退した現職の大統領はいずれも民主党のトルーマン氏とジョンソン氏の2人で、それぞれ朝鮮戦争とベトナム戦争という国民に不人気な戦争をどう終わらせるか模索するなかで撤退したとしています。
いずれのケースもその後、民主党から指名された候補者は本選挙で共和党の候補者に敗れています。
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===ハリス副大統領が声明===
“指名を勝ち取るつもりだ”
バイデン大統領が選挙戦からの撤退を表明したことを受けてアメリカのハリス副大統領は21日声明を出しました。
この中で「わたしは、アメリカ国民を代表し、バイデン氏の大統領としての並外れた指導力と、数十年にわたるわれわれの国に対する貢献に感謝する。バイデン氏が成し遂げた偉大な功績はアメリカの現代史において比類のないもので、2期を務めた、ほかの多くの大統領の功績をしのぐものだ」として、バイデン氏をたたえました。
その上で、バイデン氏が民主党の大統領候補としてハリス氏を支持したことについて「バイデン大統領の支持を得られたことを光栄に思う。この指名を勝ち取るつもりだ」として、党の候補者の指名獲得に意欲を示しました。
そして、「わたしは全力を尽くして民主党を、そしてわれわれの国を結束させ、トランプ氏を打ち負かす」としています。
ハリス副大統領とは
カマラ・ハリス氏は西部カリフォルニア州出身の59歳。
父親はジャマイカ出身、母親はインド出身で移民の2世として生まれ育ちました。
カリフォルニア州の司法長官を務めたあと、2017年に上院議員となり、2020年の大統領選挙で議員1期目ながら民主党の候補者指名争いに挑戦しました。
支持が広がらず、党の候補者選びから撤退したあと、バイデン氏への支持を打ち出し、候補者選びを勝ち抜いたバイデン氏によって副大統領候補に選ばれました。
その後、ハリス氏は、女性として、また、黒人としてもアメリカ史上、初めての副大統領となり、多様性を重視するバイデン政権の象徴となりました。
ハリス氏は、連邦最高裁判所が2022年、人工妊娠中絶は憲法で認められた権利だとしたおよそ50年前の司法判断を覆したことをめぐり、全米各地で中絶の権利の擁護を訴えるなどして、バイデン氏の再戦を支援してきました。
また、若年層や、民主党が支持基盤としてきた黒人層の取り込みを後押しする役割も期待されてきました。
一方、バイデン政権で、移民対策を任されたにも関わらず、就任から5か月あまり、メキシコ国境の現場に足を運ばず、共和党から批判されるなど、目立った実績はないとの厳しい評価もあります。
政治情報サイト「リアル・クリア・ポリティクス」のまとめによりますと、7月20日までの各種世論調査の平均では、ハリス氏を支持するとした人は38.1%、支持しないとした人は52.3%となっています。
ハリス陣営 ハリス氏への支持が広がっていると強調
ハリス氏の陣営は「選挙で公職に就いている数百人が11月にトランプ氏を打ち負かす民主党の大統領候補としてハリス副大統領を支持すると表明した」との声明を出し、その一部として州知事と上下両院議員のあわせて100人以上のSNSへの投稿文などを掲載しました。
ハリス陣営としてはハリス氏への支持が広がっていることを強調し、候補者指名への流れを確かなものとする狙いがあるとみられます。
また有力紙、ワシントン・ポストは22日、民主党の州知事と上下両院の議員、あわせて286人のうち、これまでに178人がハリス氏への支持を表明したと伝えています。
このほか全米各州の民主党委員会の委員長や副委員長などでつくる全国組織は21日、各州の党指導部の代表で投票を行ったところ、大多数がハリス氏を支持し、反対票はなかったとして、ハリス氏のもと結束を呼びかけました。民主党内ではハリス氏を支持する動きが広がっています。
7時間ほどで日本円にして74億円近くの献金集まる
アメリカの民主党系の政治団体は21日、バイデン大統領の選挙戦からの撤退表明を受けて、インターネットのサイトでハリス副大統領を前面に出して献金を募ったところ、7時間ほどでおよそ4700万ドル、日本円にして74億円近くが集まったと明らかにしました。
この団体によりますとことしの大統領選挙に向けた献金の、1日あたりの合計額としては最大となったということです。
ハリス氏 世論調査でトランプ氏との差を縮める
政治情報サイト「リアル・クリア・ポリティクス」のまとめによりますと、秋のアメリカ大統領選挙をめぐって7月18日までの各種世論調査の平均では、バイデン大統領を支持するとした人は44.7%、トランプ前大統領を支持するとした人は47.7%とトランプ氏が3ポイント上回っていたということです。
一方で、ハリス副大統領とトランプ氏の場合、7月18日までの各種世論調査の平均では、ハリス氏を支持するとした人は46.3%、トランプ氏を支持するとした人は48%とその差は1.7ポイントに縮まっているということです。
===トランプ氏「アメリカを再び偉大にする」===
アメリカのCNNテレビは、バイデン大統領が選挙戦から撤退を表明した数分後にトランプ前大統領本人が電話取材に応じたと報じました。
この中で、トランプ氏はバイデン大統領について「わが国史上最悪の大統領として語り継がれるだろう」と述べたということです。
そのうえでバイデン大統領が後任の大統領候補として支持することを表明しているハリス副大統領について、トランプ氏は「ハリス氏のほうがバイデン氏よりも倒しやすい」と述べたと伝えています。
また、トランプ氏は日本時間の22日午前3時半ごろ自身のSNSで「いかさまバイデンは、大統領としても大統領候補としてもふさわしくなかった。彼はうそやフェイクニュースなどで大統領の座についただけだ。彼の周りにいるすべての人々が、彼には大統領になる能力がないことを知っていた」と投稿し、改めてバイデン大統領を非難しました。
そのうえで「彼が大統領であることによって私たちは非常に苦しむが、彼が与えたダメージからすぐに回復することができるだろう。アメリカを再び偉大にするのだ」と投稿しました。
共和党 副大統領候補 バンス氏 改めて対決姿勢を鮮明に
共和党の副大統領候補に指名されたJ・D・バンス上院議員は日本時間の22日午前5時20分ごろ、SNSに「ジョー・バイデン氏は私が生きてきた中で最悪な大統領であり、カマラ・ハリス氏も彼と常に歩みを共にしてきた」と投稿し、バイデン大統領と後任の大統領候補として支持されているハリス副大統領の両氏を非難しました。
そのうえで「トランプ氏と私は、民主党の候補が誰であろうとアメリカを救う準備はできている。かかってこい」と投稿し、改めて対決姿勢を鮮明にしました。
共和党 下院議長「いますぐ大統領を辞任すべき」
共和党のジョンソン下院議長はSNSに声明を発表し「民主党は選挙のわずか100日余り前に候補者を投票用紙からはずした。民主党の候補者選びでジョー・バイデン氏を選んだ1400万のアメリカ人の票を無効にした。民主主義の党を自称する政党として正反対であることを証明した」として、民主党を批判しました。
その上で「バイデン氏が大統領候補にふさわしくないのであれば大統領としてもふさわしくない。いますぐ大統領を辞任すべきだ」と主張しています。
また、議会上院の共和党のトップ、マコネル院内総務はSNSに声明を発表し「残念なことに民主党はこの数週間、全米で行われた予備選挙で示された国民の意思をひっくり返そうと躍起になっている」として民主党を批判しました。
共和党 ハリス氏批判の動画を早速SNSに投稿
共和党全国委員会は、バイデン大統領が後任の党の大統領候補としてハリス副大統領を支持したことを受けて、SNSに、早速、ハリス氏を批判する動画を投稿しました。
動画では、ハリス氏がバイデン大統領から移民対策を任されていたことに触れた上で「ハリス氏が担当についたあと、記録的な数の不法移民が国境に押し寄せた。ハリス氏の出だしは国境問題を無視するという手荒なものだった」と指摘しました。
そして、メディアのインタビューで、国境を訪れる予定があるのか、またこれまで国境を訪れたことがあるのかを問われたのに対し、ハリス氏があいまいに答える動画を示し、十分に対応してこなかったと批判しています。
大統領選挙に向けて共和党は、法的な手続きを経ずにメキシコとの国境を越えて入国を試みる人がバイデン政権下で急増しているとして、その対応を強く批判しています。
===【撤退表明までの経緯】米 主要メディア===
アメリカの主要メディアはバイデン大統領がこの週末、選挙戦からの撤退を決断し、表明に至るまでの経緯について報じています。
このうち有力紙、ニューヨーク・タイムズは、バイデン氏は撤退表明の前日の20日午後、東部デラウェア州の別荘に大統領の顧問を務めるスティーブ・リケッティ氏と選挙キャンペーンのチーフ・ストラテジスト、マイク・ドニロン氏の2人を招きその日の夜にかけて、撤退表明の声明を書き上げたと伝えました。
バイデン氏の家族にこのことが知らされたのは、声明が作成されているさなかの20日だったということです。
バイデン氏が最終的に撤退を決断したのは21日午前中で、その後、ハリス副大統領、ザイエンツ大統領首席補佐官、それに選挙キャンペーンの責任者、ディロン氏の3人にそれぞれ電話で伝えたということです。
ただ、ほとんどのスタッフには、21日にSNSで撤退を表明する直前まで、明かさなかったということです。
バイデン氏の考えをよく知る政権幹部は、撤退決断の理由のひとつとしてバイデン氏は、ここ数週間、討論会での精彩に欠いたパフォーマンスに集まった関心をなんとかトランプ氏の問題の方に向けさせようと努めたもののうまくいかなかったことをあげたということです。
一方、政治専門サイト「ポリティコ」は、選挙戦を継続する意志を示してきたバイデン大統領は20日の夕方、ごく少数の側近にこれまでの方針と異なる結末を受け入れる考えを示したということです。
その話し合いには、ニューヨーク・タイムズが伝えたリケッティ氏とドニロン氏に加えホワイトハウスの高官と妻のジル氏の上級顧問も同席していたということで、翌日の21日に慌ただしい動きが始まったと伝えています。
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新たな候補者選び「代議員」投票に委ねられる可能性
アメリカメディアはバイデン大統領の撤退を受けて、民主党の新たな候補者選びは来月行われる全国党大会で「代議員」による投票に委ねられる可能性があると伝えています。
代議員は各州などから選出され、党大会の会場で投票によって党の大統領候補を正式に指名する役割を担う人たちです。
通常は党大会までに行われる各州などでの予備選挙や党員集会の結果にもとづき、あらかじめ決まった候補者に投票します。
アメリカメディアによりますと今回の民主党の候補者選びではバイデン大統領が予備選挙などを通じて代議員のほとんどを固めていたということです。
ただ予備選挙などはすでに実施されたあとのため、バイデン大統領の撤退によって代議員たちは自分たちの判断で誰に投票するかを決めることになるということです。
アメリカメディアは「代議員が自由に投票して決める手続きとなるのを避けるため、民主党は党大会までに候補者の一本化を目指すだろう」と伝えています。
民主党の全国党大会は8月19日からイリノイ州シカゴで開かれる予定ですが、民主党全国委員会はこれまで、バイデン大統領を指名する手続きを、党大会より前にオンラインで実施する計画を発表していました。
バイデン大統領の撤退表明を受けて現時点で、どのような手続きがとられるのかは分かっていません。
今後、バイデン大統領にかわる党の新たな大統領候補の選出に向けた動きが活発化するとみられます。
===専門家===
米 専門家「民主党 団結できれば勝てるチャンスも」
大統領選挙の結果をこれまで多く的中させてきたことで知られる歴史学者で、アメリカン大学のアラン・リクトマン教授に聞きました。
リクトマン教授は「再選を目指す現職の大統領が党大会を間近に控えたこの時期に撤退するのは極めて重大な事態だ。最も似た前例は1968年のジョンソン大統領の撤退だが、党大会の数か月前だった」と述べました。
今後の選挙戦の行方については「民主党がバイデン大統領のアドバイスに従ってハリス氏のもとで団結できれば、まだ勝てるチャンスがあるだろう。逆に団結できなければ極めて愚かなことだ。トランプ前大統領が勝利した2016年のときと同じ状況を作り出すことになるだろう」と述べ、8月の党大会までに民主党が結束できるかが焦点になるという見方を示しました。
一方で、バイデン大統領の決断が共和党の戦略に与える影響については「共和党はバイデン氏が大統領の職責を果たすには年をとりすぎていて衰えていると批判してきたがハリス氏は若く精力的で上院議員、副大統領として十分な資格を持っている。仮にハリス氏が黒人であることや女性であることを共和党が取り上げれば危険な選択となり、中絶の権利の擁護が選挙戦の重要な争点となる中で批判を浴びることになるだろう」と述べました。
米 保守系 研究員「ハリス氏 いくつもの課題に直面」
保守系のシンクタンク、AEI=アメリカン・エンタープライズ研究所の研究員でアメリカの選挙に詳しいジョン・フォーティエー氏はNHKのインタビューに対し、民主党の候補者を選ぶプロセスについて「今後、数日間の注目点はハリス副大統領以外の人物が候補者選びに参入するかだ。もし参入した場合は、来月の民主党大会は開かれた指名争いの場となり、複数の日にちにまたがって投票が行われることになるだろう」と予測しました。
また、バイデン大統領が後継として支持するとしたハリス氏についてフォーティエー氏は「いくつもの課題に直面するだろう。彼女は副大統領といっても、トランプ氏やバイデン氏ほどの知名度はない。民主党は新鮮なスタートが切れると感じているかもしれないが、ハリス氏はほかの誰よりもバイデン氏に近い存在だ。このため共和党はバイデン・ハリス政権が経済やインフレ、特に国境管理などで問題を抱えていると主張するだろう」と述べました。
そのうえでフォーティエー氏は「共和党はここ数年でもっとも結束しており、現在、優位な立場にある。ハリス氏は短期間のうちに自分はいったいどんな人間で、バイデン政権を継承するのか、それとも新しい政治家像を打ち出すのかはっきりさせなければならず、相当、厳しい状況に直面するだろう」と予想しました。
日本の専門家「党内の結束を取り戻せるかが選挙戦のカギ」
アメリカ政治に詳しい慶應義塾大学の渡辺靖教授は「バイデン氏の健康不安という民主党にとっての1番の課題が消え、党内ではある種の安心感が生まれた」と述べました。
そのうえで、バイデン大統領が大統領候補として支持すると表明したハリス副大統領について渡辺教授は「仮にハリス氏が大統領候補になれば女性で黒人でアジア系という、多様性の象徴として彼女を前面に出すことになる。そしてアメリカの前向きな未来を提示し、党内の結束を取り戻すことができるかどうかが選挙戦のカギを握るだろう」と分析しました。
またハリス副大統領以外に民主党の候補者指名を目指す人が出てくるかどうかについては「ほかの人が立候補を表明することは党内の対立や分裂を印象づけ、批判されかねないリスクがあるので、今週中にほかに有力な候補が名乗りを上げなければ事実上、ハリス氏に一本化されていくだろう」との見方を示しました。
そして59歳のハリス副大統領が正式に民主党の大統領候補となれば、これまでバイデン氏は高齢で能力がないと批判してきたトランプ氏の78歳という年齢が、逆に目立つ可能性があると指摘し「共和党にとって有利とも言えない状況になる」と指摘しました。
これに対する共和党の戦略として渡辺教授は「バイデン政権のもと、移民対策を担当していたハリス副大統領のせいで悲惨な状況になったと批判しやすい側面はある。またハリス氏が象徴する多様性というのが行き過ぎではないかと訴えていくことになるだろう」と述べ、実績をあげられなかった副大統領と批判していくことになると分析しました。
===アメリカ国内反応===
オバマ元大統領「この決断はバイデン氏が国を愛する証し」
オバマ元大統領は日本時間の22日午前4時40分ごろ声明を発表しました。
声明では「バイデン氏はアメリカで最も重要な大統領の1人であり、私にとって親愛なる友人である。そしてきょう、彼が最高の愛国者であることを改めて認識させられた」としてこれまでの功績に謝意と敬意を表しました。
そして「バイデン氏は決して戦いから引き下がらないことを私は知っている。彼が政治情勢を見て新しい候補者にバトンを渡すべきだと決断したことは、人生において最も困難なことの1つに違いない。この決断は、バイデン氏が国を愛する気持ちの証しであり自分の利益よりもアメリカの利益を優先させた歴史的な例だ。後世の指導者たちも見習うだろう」とコメントしました。
一方、バイデン大統領が後任の民主党の大統領候補として、支持する考えを示しているハリス副大統領については、言及しませんでした。
ペロシ元下院議長「アメリカ史上最も影響力のある大統領の1人」
民主党の重鎮で、バイデン大統領の盟友とされるペロシ元下院議長は日本時間の22日午前4時10分ごろ、SNSのXに「バイデン大統領は、常にアメリカのことを第一に考える愛国心の強い人である。彼の残したビジョンや価値観、それにリーダーシップは、彼をアメリカ史上最も影響力のある大統領の1人にした」と投稿したうえで、バイデン大統領のこれまでの功績などに謝意と敬意を表しました。
民主党 議会上院トップ “バイデン氏の選挙戦撤退決断を支持”
民主党の議会上院トップのシューマー院内総務はSNSに「ジョー・バイデン氏は偉大な大統領で偉大な立法の指導者であるだけでなく、本当に素晴らしい人間だ。彼の決断は容易なものではなかったが、彼は再び国や民主党、そしてわれわれの未来を第一に考えた。ジョー、きょう、あなたは真の愛国者で偉大なアメリカ人であることを示した」と投稿し、バイデン氏が選挙戦から撤退するという決断を支持しました。
民主党 議会下院トップ バイデン大統領の功績たたえる
民主党の議会下院トップのジェフリーズ院内総務は21日声明を発表し「バイデン大統領は、アメリカ史上、最も実績のある指導者の1人だ。バイデン大統領が知性と気品と威厳をもって導いてくれたおかげで、アメリカはよりよい場所になった。私たちはいつまでも感謝している」とバイデン大統領の功績をたたえました。
クリントン夫妻もハリス氏を支持
クリントン元大統領と、妻のヒラリー・クリントン元国務長官はSNSに声明を発表し「アメリカ国民とともにバイデン大統領の功績に感謝する」と述べるとともに「ハリス副大統領を推薦し、彼女のためにできるかぎりの支援をする」として大統領候補としてハリス氏を支持する考えを示しました。
民主党全国委 ハリソン委員長「まもなく次のステップ知らせる」
民主党全国委員会のハリソン委員長は21日声明を出し「われわれは、バイデン大統領が本日行った決断に敬意を表す」としています。
その上で「民主党は、近日中に、11月にトランプ氏を打ち負かすことができる大統領候補とともに、団結した党として前進するための透明かつ秩序ある手続きに着手する。まもなく、アメリカ国民に対し、次のステップと、指名プロセスの道筋を知らせる」としています。
カリフォルニア州知事「驚くべき成果をもたらした指導者」
民主党のニューサム・カリフォルニア州知事はSNSに投稿し「バイデン大統領は、歴史をつくる大統領であり、労働者のために懸命に闘い、すべてのアメリカ国民にとって驚くべき成果をもたらした指導者だ。影響力のある、かつ、無私無欲の大統領の1人として、歴史に名を残すだろう」としてバイデン氏の功績をたたえました。
民主党支持者は
東部コネティカット州から家族でニューヨークに訪れていた民主党支持の男性は「バイデン氏が選挙戦にとどまり続けることについては多くの論争があり、多くの人が懸念していました。トランプ氏を打ち負かすためには民主党は団結しなければなりません。バイデン氏は国のために最善を尽くそうとして、最終的な決断に至ったのだと思います」と受け止めていました。
その上で、ハリス副大統領がかわりの大統領候補となる可能性について「多くの人が想定していることなので、私は彼女でかまいません」と話していました。
またスマートフォンでニュースを見ていた民主党支持者の女性は「ハリス氏はバイデン氏にとってすばらしい代役ですし、彼女自身もすばらしい大統領になるでしょう」と期待を示していました。
一方、今後の展開を見極めたいという声も聞かれ、19歳の男性は「何が起きるかわかりませんし、心配しています。ハリス氏が大統領候補になる計画なら、彼女がどう考えるのか見てみなければいけないと思います」と話していました。
また一緒にいた18歳の女性は「民主党がどこに向かおうとしているのかわかりません。ハリス氏が大統領候補になるのか分かりませんが、完全に同意するわけでも反対というわけでもありません」と話していました。
市民の反応は
西部アイダホ州からワシントンを訪れていた男性はバイデン氏の撤退表明について「なんとなく予想していたことで驚きはしなかった。撤退は正しい判断だったと思う。バイデン氏は一定のよい仕事を成し遂げたが後継者にバトンを渡すときだ」と話していました。
そのうえでバイデン氏がハリス副大統領を後継の候補者として支持したことについては「バイデン氏が誰を支持しようと自由だが、民主党はちゃんと予備選挙などの候補者選びを行って最もすぐれた人物に勝ち取らせるべきだ」と述べました。
一方、東部メリーランド州に住む女性はバイデン氏がハリス氏を支持したことについて「最も混乱が少なく、理にかなった選択だと思う。候補者が若くなることはわくわくする。ただ、バイデン氏のことを思うと複雑な気持ちだ」と話していました。
===アメリカ国外反応===
岸田首相「『政治的に最善の判断』の思いと認識」
岸田総理大臣は22日午前、総理大臣官邸に入る際、記者団に対し「アメリカの国内政治に関わることなので、直接コメントすることは控えるが、バイデン大統領として『政治的に最善の判断をする』という思いでの判断だと認識する」と述べました。
その上で「日米同盟は言うまでもなくわが国の外交・安全保障の基軸であり、今後の動きを注視していきたい」と述べました。
林官房長官「今後も意思疎通を緊密に」
林官房長官は22日午前の記者会見で「バイデン大統領は就任以来、アメリカ内外のさまざまな課題に精力的に取り組み、日米関係のいっそうの強化を導いた」と述べました。
その上で「同盟国であるアメリカ政府がいかなる政策をとるかはわが国にとって重要な関心事項であり、情勢を注視している。重要なことは大統領選挙の結果に関わらず、今後、生じるさまざまな事態に対応し、アメリカ政府との間で必要な政策上の調整を行うことであり、今後とも意思疎通を緊密に行っていく考えだ」と述べました。
自民 茂木幹事長「誰を候補に選ぶのか注目したい」
自民党の茂木幹事長は、東京都内で講演し「数々の政治経歴を持ち、実績を重ねてきたバイデン大統領が大きな決断をされたと受け止めている。先週までアメリカの雰囲気は『ほぼトラ』だったが、バイデン大統領の撤退表明を受けて、民主党が誰を大統領候補に選ぶのか、それによって結束力が強くなるのかも含め注目したい」と述べました。
ウクライナ ゼレンスキー大統領「揺るぎない支援に感謝」
バイデン大統領が大統領選挙からの撤退を表明したことを受けて、ウクライナのゼレンスキー大統領はこれまでのアメリカからの支援に謝意を示すとともに支援の継続を求めたのに対して、ロシア側は情勢を注視する姿勢を示していて、双方とも大統領選挙の行方に強い関心を寄せていくものとみられます。
アメリカのバイデン大統領が選挙戦から撤退すると表明したことについて、ウクライナのゼレンスキー大統領は22日、SNSで「ウクライナの自由のための戦いへのバイデン大統領の揺るぎない支援に感謝している」と投稿し、これまでの支援に謝意を示しさらなる支援の継続を求めました。
ゼレンスキー大統領は今月19日には、アメリカの大統領選挙で共和党の候補となったトランプ前大統領とも電話で会談しましたが、ロシア寄りとされるトランプ氏の姿勢に警戒を強めています。
ロシア 大統領府の報道官 軍事侵攻を継続する考えを強調
一方、ロシア大統領府のペスコフ報道官は、バイデン大統領の選挙戦からの撤退について、ロシアメディアに対し「選挙まで4か月もの期間が残されており、多くの変化が起こりうるので、情勢を注視したい」と述べました。
そのうえで「われわれの優先事項はアメリカの選挙の結果ではなく、特別軍事作戦の目標を達成することだ」と述べ、ウクライナへの軍事侵攻を継続する考えを強調しました。
ウクライナ、ロシアともに、今後のウクライナ情勢に大きな影響を及ぼすアメリカの大統領選挙の行方に、強い関心を寄せていくものとみられます。
英 スターマー首相「バイデン大統領の決断を尊重する」
バイデン大統領が秋の大統領選挙での再選を断念し、選挙戦から撤退すると表明したことについて、イギリスのスターマー首相はSNSに「バイデン大統領の決断を尊重するとともに、大統領としての残りの任期中、ともに仕事ができることを楽しみにしている。彼はそのすばらしいキャリアを通じてそうしてきたように、アメリカ国民にとってこれが最善だと信じることに基づき決断を下したのだ」と書き込みました。
また、スナク前首相は「バイデン大統領とともに仕事をして、彼のアメリカに対する愛情と奉仕への献身を私は目の当たりにした。われわれのパートナーシップはオーストラリアを含む安全保障の枠組みAUKUS、イスラエルへの断固たる支援、中東イエメンの反政府勢力フーシ派の脅威から国民を守るための共同での取り組みなど、重要な成果をもたらした」と書き込みました。
カナダ トルドー首相 SNSに謝意を投稿
カナダのトルドー首相はXに「バイデン大統領は偉大な人物で、彼のすべての行動は祖国への愛によって導かれている。大統領として、彼はカナダ人のパートナーであり、真の友人だ」と投稿しました。
また投稿には、バイデン大統領と夫人への感謝のことばのほか、カナダの議会下院を訪れたバイデン大統領が、トルドー首相の腕に手を置き、笑顔を見せる写真も添えられています。
また、オーストラリアのアルバニージ-首相も、Xに「民主主義的な価値観や国際安全保障、経済的な繁栄、それに気候変動対策について共通のコミットメントにより、オーストラリアとアメリカの同盟はかつてないほど強固なものになった」と投稿し、バイデン大統領への謝意を表しました。
中国 外務省報道官「アメリカの内政 コメントしない」
中国外務省の毛寧報道官は22日の記者会見でアメリカのバイデン大統領が選挙戦から撤退する考えを表明したことについて問われましたが「アメリカ大統領選挙はアメリカの内政であり、コメントしない」と述べるにとどめました。
===世界各地のメディアも速報===
英 BBC “大統領選挙は未知の世界に突入する”
バイデン大統領が選挙戦から撤退することを表明したことについて、世界各地のメディアは速報で伝えています。
このうち、アメリカのCNNテレビは、「現職の大統領が再選を辞退するのは、数十年ぶりだ」などと伝えています。
また、有力紙ニューヨーク・タイムズは「2024年の大統領選を大混乱に陥れた」と伝えています。
イギリスの公共放送BBCは、トランプ前大統領が銃撃された事件などもあげ、「すでに歴史的な事態が起きている大統領選挙は未知の世界に突入する」などと伝えています。
さらに、中東の衛星テレビのアルジャジーラもワシントンからの中継を交えて伝えています。
東京駅前では号外が配られる
東京駅前ではアメリカのバイデン大統領が秋の大統領選挙での再選を断念し、選挙戦から撤退する考えを表明したことを伝える号外が配られました。号外は午前9時から東京駅前で配られ、通勤などで通りかかった人たちが受け取っていました。
号外を受け取った40代の会社員の男性は「びっくりしましたが、民主党の次の候補がどういう政策を出すのか注目したいです」と話していました。
60代の会社員の男性は「あれだけ報道されていたので撤退に驚きはないです。このままいくとトランプ氏が強いと思いますが、短期間で民主党がどこまで盛り返すか興味があります。日本のビジネスにも影響があるので今後も注目します」と話していました。
また、50代の自営業の女性は「個人的にはバイデンさんのほうがよかったけど年齢も年齢なので次の候補に期待したいです」と話していました。
===外国為替市場・日経平均株価への影響は===
外国為替市場の反応は今のところ限定的
バイデン大統領が選挙戦からの撤退を表明したことを受けた外国為替市場の反応は今のところ限定的です。
市場関係者は「トランプ氏が有利な情勢がこれで変わるか投資家はまだ様子見だ。ハリス副大統領が大統領候補として指名された際に誰が副大統領候補になるのかに関心がある」と話していました。
日経平均株価 一時500円以上値下がり
週明けの22日の東京株式市場、日経平均株価は一時、500円以上値下がりし、終値として3週間ぶりに4万円を割り込みました。
日経平均株価、22日の終値は先週末より464円79銭、安い3万9599円ちょうど。東証株価指数、トピックスは33.30、下がって2827.53。1日の出来高は13億4919万株でした。
市場関係者は「先週のニューヨーク市場での株安を受けて、東京市場でも半導体関連の銘柄を中心に売り注文が広がった。アメリカのバイデン大統領が大統領選からの撤退を表明したことは、想定内という受け止めが多い一方で、トランプ前大統領が返り咲けば日本の防衛費が増えるという観測からこのところ上昇していた防衛関連の銘柄は、選挙の先行きの不透明感もあって、きょうは値下がりした」と話しています。