「親業」に学ぶ 子どもと心を通わせる言葉かけのヒント5選 - Z会おうち学習ナビ

「親業」に学ぶ 子どもと心を通わせる言葉かけのヒント5選

子どものためを思って言葉をかけているのに、なぜか親子ゲンカになってしまう……
とくに子どもが思春期にさしかかると、そんなすれ違いが起こりやすくなるようです。
思いが通じ合う温かい親子関係を築くためには、親がどのように言葉をかけるかがとても重要。
そこで今回は、子どもと心を通わせるコミュニケーションのヒントを「親業訓練」のエッセンスをもとにご紹介します。
(出典/大和書房『「親業」のはじめかた』   記事協力/親業訓練協会、大和書房)

 

ヒント1 子どもの行動を、主観でなく事実としてとらえる

主観と事実とでは子どものとらえ方がどのように変わるか、帰宅後に子どもがテレビを観ているというケースで考えてみましょう。

親のとらえ方「また、あの子はなまけている」

親のとらえ方「子どもがソファでテレビを観ている」

無意識のうちに、子どもの行動を主観でとらえていることはないでしょうか。もしかすると子どもは、もう宿題ややるべきことをすませているのかもしれません。Aのような決めつけで子どもをとらえ、「またなまけているのね。ゴロゴロしてテレビばっかり観て!」といったメッセージを発すると、子どもは反抗的な態度を示すことも。Bのように子どもを客観的に観察し、事実として行動をとらえることが、後に続くコミュニケーションを効果的なものにする第一歩なのです。

 

ヒント2 「その問題は誰のもの?」と考える

ヒント1のように子どもの行動を事実としてとらえた後は、「イヤだ」という感情を基準にして、「いま『イヤだ』という感情を持っている=問題を持っているのは誰か」を考えてみましょう。
Aは帰宅後なにかイライラした様子の子ども、Bは朝の登校前、身じたくに手間どって遅刻しそうな子どものケースです。


子どもの気持ち
(今日学校でイヤなことがあってイライラしている)
(何もしていないのに、いきなりケンジがぶってきた)
  ↓
イヤだと感じているのは子ども


親の思い
(間に合うように身じたくを手伝うのが大変)
(自分の子どもが周りからだらしないと思われるのはイヤだ)
※子どもの側は気にしていない様子
  ↓
イヤだと感じているのは親

上の例のような子どもの行動を目にしたとき、「子どもが悪い(問題である)」ととらえるのが一般的かもしれません。このようなとき、親は「こうしたらいい」と解決策を提示したり指示したりしがちですが、それは子どもが自分で考える機会を奪うことにもなりかねません。
親業では、問題を所有している人がその問題を解決する主体であるととらえます。そして、問題を持っているのが子どもならば、子どもが問題の解決を自分で考えるのを、親は子どもの気持ちを「聞く」ことによって手助けできる、と考えます。反対に、親が問題を持ち、「イヤだ、困った」と思う場合には、親の思いを「伝える」という方法によって子どもに働きかけ、解決を図っていくのです。
次のヒント3では「聞く」方法を、ヒント4では「伝える」方法をご紹介します。

 

ヒント3 子どもの気持ちを聞くときは「能動的な聞き方」で

子どもが問題を持っている状態のとき、子どもの気持ちを聞くにはどんな方法があるでしょうか。2つの言葉かけ例を見ていきましょう。

子ども 「今日は雨だから学校に行きたくない……」

親(例)
「えっ、どうして?」
「算数のテストでもあるんじゃないの?」
「何で行きたくないの?学校でイヤなことでもあったの?」
「昨日は塾に行くのもぐずっていたわね。どこか体調でも悪いの?」

子ども 「今日は雨だから学校に行きたくない…」

親(例)「雨だから学校に行くのがイヤなんだね」

子ども 「うん……。だって、ランドセルが濡れるんだもの」

親(例)「そうか、ランドセルが濡れるのがイヤなのか」

子ども「うん……。だって、みんな大きい傘をさしているよ。私だけだよ、小さい傘をさしているのは」

Bの「能動的な聞き方」は、カウンセリングにも用いられるActive Listeningの方法論を基本としています。この聞き方を実践すると、会話のキャッチボールができ、子どもは理解され、共感を得られたと実感できるため、親子関係がよくなったというケースが多々あります。
しかし実際には、子どもの話を聞いているうちに、親のほうが「イヤだ」と感じる、つまり問題を持つ状態になる場合もめずらしくありません。そのような場合には、ヒント4の「伝え方」を試してみることができます。

 

ヒント4 親の思いを伝えるときは「わたしメッセージ」で

親が問題を持っている状態のとき、子どもが親の思いを理解して行動を変えるにはどんな言葉が効果的でしょうか。「脱いだ服のポケットにティッシュを入れたまま洗濯かごに入れる」という子どもの行動に対して親が困っているというケースで、2つの言葉かけ例を比較しながら、見ていきましょう。

親(例)
「いつも言っているのに、どうしてできないの?」
「あなたは本当にだらしがないのだから」
「お母さんがたいへんだっていうことくらいわかるでしょ!」

親(例)
「ジャージのポケットにティッシュが入ったままだと、今日も、洗濯の前にお母さんが取り出さないといけないから、困るな」

Bのような「わたしメッセージ」で思いを伝えると、子どもにも困っていることが伝わり、心を開いた会話がしやすくなります。
実際にあった事例では、「どうせ洗濯の前に、お母さんが確認して出すんでしょ」という言葉が返ってきたので、ヒント3の「能動的な聞き方」を使って「いつもお母さんが出すから、自分ではやらなくていいと思っているんだね」と子どもの言い分に耳を傾けました。そして最後にもう一度「わたしメッセージ」で毎日ポケットを確認するのがたいへんだという思いを伝えたところ、子どもから「明日から、自分で確認するよ」という言葉を聞くことができたのだそうです。
このように「能動的な聞き方」と「わたしメッセージ」をセットにして「聞く」「伝える」を切り替えて使っていくと、おだやかに話し合うことができます。「能動的な聞き方」をしたことで、子どもは自分の考えも理解してもらえたと感じるので、親の思いも届きやすくなるのです。

 

ヒント5 「問題なし」のときにも「肯定のわたしメッセージ」を

ヒント2では、「親と子のどちらが問題を持っているか」を確認しましたが、親子ともに困ったり悩んだりしていない「問題なし」のときにも、子どもとの関係をよくするコミュニケーションがあります。
たとえば、子どものがんばる姿を見てうれしいときや感動したとき、どんな言葉のかけ方があるでしょうか。

親(例)
「えらいね」
「よくがんばったね」

親(例)
「運動会で一生懸命走る姿を見て感動したよ」
「今度の漢字のテスト、とても丁寧に書いてあるね。間違いも少なくて、ママ、感心しちゃった」
    

子どものよい部分やすばらしい部分より、至らない部分のほうが目に入るので、つい小言が多くなってしまうという方もいらっしゃるのではないでしょうか。「感情を伝えるのは照れくさい」「できるのはあたりまえ」という思いもあるかもしれません。
親も子も感情をもった人間ですから、お互いへの理解を深めるには感情を率直に表現して向き合うことが大切です。親子ともにうれしいとき、幸福を感じるときには、Bのように「わたし」を主語にして信頼や愛情を伝えることが、親子の絆を深めることにつながります。

今回は「親業訓練講座」で学ぶエッセンスのうち、基本的なものを中心にご紹介しました。
この5つのヒントを心がけ、日々の言葉かけに取り入れるだけでも、子どもとの関係が大きく変わっていく可能性があります。
しかしもちろん、上記のヒントだけでは解決しきれないこともあるでしょう。下記の書籍では、さまざまなケースにおける実践方法が詳しく紹介されています。
本記事の会話例も、この書籍から一部を抜粋してご紹介しています。興味をもたれた方はぜひご一読されることをおすすめいたします。

「親業」のはじめかた  思春期の子と心が通じあう対話の技術

近藤千恵・親業訓練協会 著
大和書房
定価 1,760円(本体1,600円+税)
大和書房『「親業」のはじめかた』

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