こんにちは、らくからちゃです。
10月から始まった消費税増税も気づけば一ヶ月が過ぎました。大炎上が危惧された初回の会計処理も、現場の血と汗と涙と時間外労働と深夜残業のおかげで乗り切ることができました。
ところで皆さん、いち消費者の実感としてはいかがですか?生活が苦しくなった感覚はありますか?
なんやかんや普段目にする機会の多い食料品は軽減税率対象ですし、お値段据え置きを掲げる会社もありますし、キャッシュレス還元(早速財源に赤信号がつきましたが)の効果もあるため、個人的にはまだ「生活への影響」は感じずに済んでいます。
しかしこんな分かりづらい状況のほうが疑心暗鬼になるのか、イートイン脱税だの免税事業者の扱いだの、ズルして儲けているヤツが居ないか目をギラつかせている人が増えたような気がします。
そんな人達に見つかってしまったのが、「輸出戻し税」という制度です
庶民が増税でヒイヒイ言っている裏で、トヨタを中心とする大手輸出製造業は、総額で消費税の『戻し税』で1兆円もゲットしている!しかもその金額は税率が上がったことで増えているって話なんですよね。
「輸出には消費税が掛からない」ってルールに基づいた処理ですが、税金が掛からないのはとにかく、国からお金を貰えるってどういうこと?おかしくない??と納得できない人は多いでしょう。
どうしてそんなことが許されるのか。まずその「理屈」から考えてみましょう。
消費税の仕組みの復習
消費税の仕組みは、本ブログでも何度も取り上げてきました。既にミニにタコ状態のひとも多いかもしれませんが、話の整理のためにもう一度おさらいしましょう。
(出典:消費税を適正に転嫁するために | 特集-社会保障と税の一体改革 | 政府広報オンライン)
消費税というのは、少なくとも建前上は、消費者が負担する税です。
サンプルは、ちょっと古い時代のものなのでやや違和感がありますが、一旦消費税8%で考えてみましょう。
10,000円の商品を買うと、800円の消費税を含めて小売業者に払いますね。この800円は消費者から預かっただけのお金です。預かった消費税は税務署に納めなければなりません。
しかし、このお店も卸売業者から7000円で商品を仕入れており、仕入時に560円の消費税を払っています。その場合、預かった消費税のうち560円分は、卸売業者が税務署に納めるので、小売業者は差分の240円だけ納税します。
こうした風に「受け取った分 - 支払った分」の合計を積み上げることで、消費者から預かった消費税を全て税務署に納める仕組みです。
何故こんな面倒なことしているのでしょうか? 「素直に消費者だけから消費税を取って企業間の取引では消費税をかけないようにすれば手っ取り早いじゃん」と思いませんか?
でもそれをやるなら、商品を売った相手が「消費者」なのか「事業者」なのかをハッキリと分ける必要がありますよね。もし消費者なのに事業者だと間違えたら、その分がまるっと脱税になります。逆に間違えないように常に消費税をとり、取った金額を全額納めるルールにすると、取引の都度税金が係るので取引段数が多いビジネスモデルほど税金が大きくなり不利になります。
これを解決するため
- 一旦全員から消費税を受け取る
- 自身が払った消費税は受け取った分と相殺する
- 残った金額を納税する
方法が取られています。
ちなみに「消費者だけから税金を取る」方式は、アメリカで売上税として採用されています。ご興味があれば是非調べてみてください。
輸出戻し税と仕向地課税主義
ここまでは大丈夫しょうか?ココでもう一回重要なポイントを復習しましょう。
消費税は消費者が支払い、事業者は受け取った消費税 - 支払った消費税を納税する。
細かい話はさておき、まずはコレを頭に叩き込んでおいてください。次に「じゃあ輸出したときはどうなるの?」というテーマについて考えてましょう。
消費税というのは、基本的に全ての取引が課税対象になります。ですが、一部例外として消費税が掛からないものもあります。
- 不課税:給料、お祝い金、損害賠償金
- 非課税:教育費、医療費
- 免税 :輸出、外国人が持ち帰る商品
まずは不課税と分類されるものですが、これは「そもそも消費税のスコープに含まれない取引」のことです。お給料の支払いや、祝い金、損害賠償金などが該当します。
次に非課税と分類されるものですが、これは「消費税のスコープに入ってはいるけど、諸々の配慮で消費税を取らないことに決めたもの」のことです。代表例は、教育費や医療費などですね。
最後に「本来消費税は係るけど、特別に消費税を取らないことに決めたもの」のことです。これは輸出品や、外国人が持ち帰る商品ですね。秋葉原や銀座などの、外国人の多い街を歩いていると、デカデカと「TAX FREE」と掲げられているお店をみるかと思います。外国から来た人が、自国に持ち帰って使うものには税金が掛からず、その手続に対応しますよー、という意味になります。
でもどうしてそんなことが許されるのでしょうか。なんでみんな高い消費税に苦しんでいるのに、外国人だけ優遇するの?そう思いませんか。
改めて振り返ってみましょう。消費税に、日本人も外国人も関係ありません。「日本国内で行われる全ての消費活動」が課税の対象です。逆に「日本国外で行われる消費活動」に対しては課税しないんです。
消費税(VAT)は、国際的に「最終的に消費を行った国で課税する」という「仕向地主義」が取られています。
「最終的に消費をした国のひとが、消費税を払いましょうね」という国際的な取り決めです。
「モノを売った段階で掛かる」のか「モノを使った段階で掛かる」のかが、きちんと決められていないと、輸出入を伴う取引だけ、2回分税金がかかったり、逆に税金が一切掛からず、輸出入だけ特別有利・不利になってしまうことを避けるための取り決めです。
では「仕向地主義」に従い、輸出をする場合の消費税はどうなるでしょうか。
卸売業者は、B国の小売業者に輸出する際には、消費税を受け取ることが出来ません。そのため受け取った消費税 - 支払った消費税 は、マイナスになります。そのマイナスとなった分は、税務署に申告すると返してもらえます。
これが「輸出戻し税」と呼ばれているものの正体です。
整理すると、輸出したA国全体では相殺されて消費税はゼロ円になります。一方、輸入したB国では輸入時に消費税を払っていないぶん控除が無く、全額がB国の課税対象になります。いやあ、よく出来てますね。*1
一見すると「製造業者(下請け企業)が収めた消費税が卸売業者(元請け企業)に付け替えられる極悪なしくみ」に見えなくもないんですけど、でもそれって、もともと元請け企業が払って下請け企業が預かっていただけのお金を返して貰っただけでしょ。といだけの話です。
で、済むのならそこまで簡単な話じゃないんですけどねえ┐(´д`)┌
なぜ輸出戻し税に不公平感があるのか
実際、輸出戻し税に対して批判的なひとの声を見ると、こうした仕組みを知らずに「輸出戻し税は大企業優遇だ!廃止せよ!」と鼻息荒く主張している人も稀に良くみます。
国際的な取り決めの中で行われているものですので、いきなり日本だけ離脱するのはムリでしょう。共産党だって、そのへんは理解しています。(失礼?)
しかしですね。「モヤモヤする」ひとが出てくるのは、消費税がどういう税なのかの認識に相違があるからだと思うんですね。
大企業や消費者などの買い手は「消費税は自分たちが払っている」と考えています。自分たちが払っていて、あなたがたは預かってるだけなんだから、ちゃんと適切に納税して欲しいと考えています。
一方、中小企業や小売店などの売り手も「消費税は自分たちが払っている」と考えているんですよね。自分たちの売上をの中から消費税を負担し、実際に税務署におさめているのは自分たちであって、それが輸出で儲かっている大企業に支払われるのは許せないと感じているひとも多い。
一見すると、この中小企業や小売店の言い分はスジが通っていません。しかし消費税の実態を考えると、そう言いたくなる気持ちも分からんでもないんですよね。
今回の消費増税でも、無印良品など「増税後も税込み価格は据え置きにします!」と宣言した企業は少なくありません。消費税が上がったからといって、いきなり消費者の支払余力は増えますか?増えませんよね。そこで消費税分値上げしても、売上が下がるだけです。その分、量や質を調整出来るものであれば良いですけど、そうもいかないものも多いでしょう。だいたい「実質値上げだ!」とキレられるじゃん。
そのへんについては、過去に何度か書きましたので、よければ是非。
それだけでなく、消費税の影響を直接受けない輸出企業にとって、 消費増税はぶっちゃけどうでも良い話です。消費税を財源として、法人税が減税されるならば万々歳でしょう。経団連会長も大歓迎。
「輸出戻し税」に関する議論を考えるのであれば、こうした背景も頭の中に入れた上でも考えても良いのかなー、なんて思う次第でもあります。
ではでは、今日はこのへんで。
*1:厳密に言うと、輸入時に業者間での税支払は有りませんが、税関で輸入分の消費税を支払い、販売時に受けとった消費税との差分を税務当局に支払います。ご指摘ありがとうございます!