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気づかない「隠れ心房細動」 AIで発見する心電計が新登場…心不全や脳梗塞の発症予防に有効か
不整脈の一種の心房細動は心不全や、血の塊(血栓)により脳 梗塞 を起こす恐れがあります。症状に気づかず、通常の検査で見つかりにくいケースも少なくありません。この秋にはAI(人工知能)で発症リスクを予測する心電計が実用化されるなど、心房細動を速やかに見つけて治療につなげる研究が進んでいます。(小山内裕貴)
心不全や脳梗塞に
心房細動は、心房の上部で作られる電気信号の異常により心房が不規則に震えることで起こり、 動悸 やめまいなどの症状が表れる場合もあります。太ももの付け根などからカテーテル(管)を通し、異常な信号が流れる部位を高周波電流などで焼くカテーテル治療や、抗凝固薬の服用による治療を行います。
悪化すれば、心臓から血液を十分に送り出せず心不全になったり、心臓内で血液がよどみ血栓ができて脳梗塞を起こしたりします。脳梗塞により認知症のリスクが高まるとされ、寝たきり患者の5人に1人は心房細動による脳梗塞が原因との報告もあります。
岩手医科大などの調査で、2020年の推計患者数は約105万人。さらに、未診断の「隠れ心房細動」の人が同程度とするデータもあります。無症状で気づかれない場合や、症状があっても心房の不規則な震えがまれで心電図で異常が確認できないためです。しかし、隠れ心房細動も心不全や脳梗塞のリスクはあります。
心房細動の早期発見を目指す取り組みは広がりつつあります。スマートウォッチで心拍数を調べリスクを判定するアプリが登場し、心電図機能付き家庭用血圧計などを活用したサービスも始まっています。
8月にはAIで心房細動のリスクを予想する心電計に公的医療保険が初めて認められました。心房細動の患者と未診断の人の計約2300人分の心電図データをAIに深層学習(ディープラーニング)させ、隠れ心房細動の兆候を察知します。約10秒間の波形からリスクを4段階で判定し、国内の臨床試験では7割の精度で隠れ心房細動を見つけました。東京科学大学(旧東京医科歯科大学)とフクダ電子(東京)が共同開発し、10月には医療現場に登場する予定です。
東京都で活用開始
東京都は8月、旧東京医科歯科大学病院と共同でこの心電計を活用した検診を始めました。対象は診断されていない40歳以上。AI心電計の使用後は心臓の波形を24時間記録する心電計で1週間計測し、医師が最終的に診断します。検診を主導する東京科学大学教授(循環器内科)の笹野哲郎さんは「リスクが高い人を絞り込み効率的に診断し、速やかに治療につなげられる」と強調します。
静岡市の会社員の山島貞幸さん(80)は22年、同市と地元医師会の共同事業で臨床研究としてAI心電計の検査を受けました。その結果、リスクが高く、精密検査で心房細動と診断されカテーテル治療を受けました。山島さんは「ゴルフで息切れすることがあったが、病気が隠れていたとは……。今は心おきなく趣味に没頭できる」と喜びます。
東邦大学教授(循環器内科)の池田隆徳さんは「早期の診断、治療につなげる利点を生かすには9割以上の精度が必要。AIが学習すれば、さらに精度が高まる」と話しています。
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