鶴若麻理「看護師のノートから~倫理の扉をひらく」
医療・健康・介護のコラム
出産直後に妻が死亡 重い障害が残った男児の養育に家族が前向きになるまで
当事者は悲しみにくれる一方、男児は日々成長
当初、男児の父親は2日おきにNICUを訪れていましたが、Aさんの両親は足が向かない状況でした。父親には、男児は将来、寝たきりの状態で歩行は難しい、発達の遅れもある、また脳の損傷の状況からみて長期にわたって他者のサポートが必要になる、と伝えられていました。父親は、男児の治療の説明があれば病院に来るものの、ぼーっとしているような印象で、説明が頭には入っていない感じがしたと言います。
看護師は、父親とAさんの両親、双方と何度も話し合いを重ねていきました。当然ながら、妻を亡くした、娘を亡くしたという悲しみは大きく、それをどう受けとめていくかについても時間が必要でした。一方、男児は日を追うごとに成長、発達していきます。看護師は、これからの男児の養育について、どのような形が男児にとってよいのか、と頭をめぐらしていました。自宅で生活するには経管栄養等の手技も覚えることが必要となり、父親一人で可能かどうか、Aさんの両親が支援が可能なのかどうか。
Aさんの母親には、折に触れて男児の成長や状況を伝えていきました。待望の孫の誕生という喜びの絶頂の時に娘を亡くす経験をし、男児への愛情はあるが、養育にかかわるのはどうしても前向きになれないこと。また、Aさんの母親は、自分の父親の介護も担っており、娘としての役割も全うしたい気持ちがあるという思いも語られたといいます。Aさんの姉も時折、おもちゃを買って届けにきたりしていたので、看護師はその足が遠のかないよう、いつも声をかけていきました。
子どもの反応が父親としての自覚をもたらした
妻あるいは娘の四十九日の法要があるなど、悲しみのプロセスのなかで男児の養育を考えていくことは、当事者たちにとってはなかなか困難なことでした。
話を重ねるなかで、何が前向きになる契機になったかとたずねると、「男児が、抱っこするといい顔をしたり、おなかがすいたら泣いたり、おむつを替えると泣きやんだり、子どもの子どもらしい日々の反応そのものが、父親としての自覚と変化をもたらしたのではないか」と看護師は話してくれました。父親は最終的に、自分の両親に子育てを手伝ってもらう形を考え、自宅で一緒に育てる決意をしました。経管栄養の手技について、両親にも直接伝えたいと看護師が言ったところ、「僕が教えます」という頼もしい答えが返ってきました。
2 / 3
【関連記事】
※コメントは承認制で、リアルタイムでは掲載されません。
※個人情報は書き込まないでください。