出産直後に妻が死亡 重い障害が残った男児の養育に家族が前向きになるまで | ヨミドクター(読売新聞)
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鶴若麻理「看護師のノートから~倫理の扉をひらく」

医療・健康・介護のコラム

出産直後に妻が死亡 重い障害が残った男児の養育に家族が前向きになるまで

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 30代女性の妊婦Aさん。妊娠中毒症(高血圧やむくみなど)により、自宅で倒れて救急搬送され、妊娠35週での緊急帝王切開となった。Aさんが搬送された病院から電話連絡を受け、高度な専門的周産期医療を担う本院の医師と看護師が向かった。本院へ搬送・治療をする前に、生まれた男児の後遺症をできる限り軽減できるよう、搬送された病院に医者が出向いて初期治療を行う必要があるためだ。

 男児は新生児仮死で重篤な状態だった。看護師は、医師とともに男児の蘇生をサポートし、隣の治療室ではAさんが心臓マッサージを受けていた。夫とAさんの父親は悲痛な声で、「起きてよ。赤ちゃん生まれたじゃない。あんなに楽しみにしていたじゃない。がんばらなきゃだめだよ」と叫んでいる。医師は「がんばってくれてはいますが、状況は大変厳しいです」と伝えている。

 男児を本院に搬送するには保護者の同意が必要であったが、誰にお願いすればよいものか、ためらう状況だったが、病院に駆けつけていたAさんの義兄に状況を話して、同意を得て病院へ同行してもらうことになった。

 Aさんは最大限の救命措置を受けたものの、事態は好転しなかった。看護師は「私たちの病院にお子さんを連れていって治療を開始したいと思います。お母さんにお子さんを抱っこさせてあげたいんです」と医師に伝え、お母さんの胸にカンガルー抱っこさせて、「お母さん、赤ちゃんがんばっていますよ。これから私たちの病院に連れていって治療を続けますね。お預かりしますね」と声をかけた。男児を搬送用の保育器に移そうとした時、Aさんの死亡宣告がなされた。

 看護師は、Aさんの死亡宣告が男児に聞こえないようにしたいと保育器の扉を急いで閉めたと言います。家族支援専門看護師となった初めのころに遭遇したケースで、あの時の光景が今もよみがえってくると語ってくれました。妊婦が救急搬送された病院の入り口に到着したとき、泣き崩れている初老の女性が目に入りました。後にAさんの母親であるとわかったそうです。

 男児は、NICU(新生児集中治療室)で人工呼吸器を装着、点滴で水分栄養補給を受けた。また脳の活動性を抑え、脳へのダメージを食い止めるために低体温療法が行われ、様子を見ながらMRIで脳の状態を評価し、徐々に体温を元に戻していった。男児は途中、けいれん発作を何度か起こしたが、その都度の対応で回復した。3か月ほどNICUで過ごした。

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鶴若麻理(つるわか・まり)

 聖路加国際大学教授(生命倫理学・看護倫理学)、同公衆衛生大学院兼任教授。
 早稲田大人間科学部卒業、同大学院博士課程修了後、同大人間総合研究センター助手、聖路加国際大助教を経て、現職。生命倫理の分野から本人の意向を尊重した保健、医療の選択や決定を実現するための支援や仕組みについて、臨床の人々と協働しながら研究・教育に携わっている。2020年度、聖路加国際大学大学院生命倫理学・看護倫理学コース(修士・博士課程)を開講。編著書に「看護師の倫理調整力 専門看護師の実践に学ぶ」(日本看護協会出版会)、「臨床のジレンマ30事例を解決に導く 看護管理と倫理の考えかた」(学研メディカル秀潤社)、「ナラティヴでみる看護倫理」(南江堂)。映像教材「終わりのない生命の物語3:5つの物語で考える生命倫理」(丸善出版,2023)を監修。鶴若麻理・那須真弓編著「認知症ケアと日常倫理:実践事例と当事者の声に学ぶ」(日本看護協会出版会,2023年)

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