中川恵一「がんの話をしよう」
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「なぜ、私が……」「運が悪かったとしか」 がん治療医ががんになって思ったこと
膀胱がんを自己超音波検査で発見
実は、私もがん経験者です。2018年の年末に、膀胱(ぼうこう)がんの内視鏡切除を受けました。まだ、2年くらいしかたっていませんから、経験者というより「がん患者」と呼ぶべきかもしれません。
「自己超音波(エコー)検査」で見つけました。世界的にも珍しい例ですので、経緯を説明します。
外勤先の病院に超音波検査装置があり、自分自身で膀胱のエコー検査を行って、腫瘍を発見したのです。青天の霹靂(へきれき)でした。
東大医学部の先輩の病院で、がんが見つかる2年ほど前に肝臓に脂肪がたまる脂肪肝を自分で発見して以来、毎月エコー検査を自分でしてきました。
2018年の9月ごろから膀胱の左側の壁が多少厚く見えていました。そこで、12月9日、尿をためた上で入念にチェックしてみました。すると、左の尿管が膀胱に開口する「尿管口」の近くに15ミリくらいの腫瘍ができていました。
スマートフォンで検査結果の写真を撮り、後輩の泌尿器科医にメールで送信すると、「膀胱がんの可能性が大」との返事が来ました。翌日、同じ医師に内視鏡検査をお願いし、膀胱がんと確定しました。
麻酔が切れたら激しい痛み 我慢せずに薬を
日本人男性の3人に2人が、がんになる時代ですから、「がんになることを前提にした人生設計が必要」などと発言してきました。正直、まさか自分が罹患(りかん)するとは思っていませんでした。たばこは吸いませんし、運動は毎日行っていて、体重も若い頃のままです。「なぜ私が」と否認したい気持ちでした。
私がこのがんにかかった理由などありません。運が悪かったとしかいえないと思います。
治療は全身麻酔ではなく下半身の麻酔でしたから、電気メスによる切除の様子もモニターで見ることができました。幸い、40分という短時間で完全に切除できました。ただ、再発予防を目的に、膀胱内への抗がん剤注入も受けました。
麻酔が切れると下腹部に激しい痛みを感じましたが、痛み止めの処方をお願いして、楽になりました。この治療を受ける全員に痛み止めの処方が必要だと思います。痛みを我慢してよいことは全くありませんし、症状は本人しか分かりませんので、遠慮は不要です。
私は東大病院の放射線治療の責任者ですが、平成15年から26年まで、緩和ケア診療部長を兼任しておりましたので、緩和ケアのプロでもあります。しかし、実際に自分が患者にならないと分からないこともあります。今回のことで、早期がんでも緩和ケアが大切だと身にしみました。
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