自分でいれたコーヒー 忘れて妻に「ありがとう」…でも、気にしない | ヨミドクター(読売新聞)
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僕、認知症です~丹野智文44歳のノート

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自分でいれたコーヒー 忘れて妻に「ありがとう」…でも、気にしない

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濃くても薄くても「ま、いいか」

 以前のコラムで、認知症になってから、私が会社でどのように働いているかをお伝えしました。今回は、講演など仕事以外の活動のスケジュール管理や、日々の暮らしの工夫をご紹介したいと思います。

 認知症になる前からの習慣で、朝起きるとまずコーヒーをいれます。コーヒーメーカーに妻と2人分のコーヒーの粉と水を入れてセットするだけなのですが、いつも粉を何杯入れたか分からなくなってしまいます。それでも「ま、いいか」と適当にやっているので、日によってちょっと濃かったり薄かったりしますが、気にしません。

 時には、自分でコーヒーをいれたこと自体を忘れてしまいます。ふとテーブルの上を見ると、温かいコーヒーが入ったカップが置いてあるので、妻に「コーヒーいれてくれたんだ。ありがとう」なんて言ったりします。すると妻は「どういたしまして。パパが自分でいれたんだけどね」と笑うのです。

失敗から学び、工夫を重ねる

 パンをトースターに入れたのを忘れて、真っ黒に焦がしてしまったこともありました。これに懲りて、今は焼き上がるまでその場を離れず、じっと見続けることにしています。

 お風呂を入れるときは、キッチンでお湯張りのボタンを押してから、風呂場にダッシュします。お湯が出ているのを確認したら、湯船に栓をしてフタをかぶせます。先にフタをしたらお湯を出すのを忘れてしまい、いざ入ろうとすると湯船が空っぽだった……という失敗を何度も繰り返して、今はこの方法に落ち着きました。風呂場でもお湯張りの操作はできるのですが、やり方がよく分からないので、キッチンのボタンを使うようにしています。

家族は怒らず笑ってくれる

 何か失敗したら、対策を考えます。「気にしない」で済む場合も実はけっこう多く、それも対策の一つだと思っています。記憶は悪くなっても、考える力は残っているようで、自分で編み出した工夫が様々な場面で役立っています。

 それでも、何度も同じことを言ったり、いま聞いたばかりのことを忘れてしまったりと、小さな失敗を数えたらきりがありません。そんな時、妻や娘たちは怒ることもなく、「パパ、その話3回目」なんて言って笑っています。

 5年前に若年性認知症と告知された直後は、「なぜ覚えていられないんだろう」「どうしてこんな簡単なことを間違えてしまうんだろう」と落ち込んでいました。自信を失い、頭が混乱して、ますます何もできなくなる悪循環に陥っていました。

 でも実際の生活の中では、ちょっと時間や手間がかかっても、できばえが完璧でなくても、大きな問題ではないことが多いのです。「認知症なんだから、忘れたり間違えたりするのは当たり前」と考えて、失敗を気に病むのをやめたら、とても気持ちが軽くなりました。精神的に安定しているおかげか、症状の進行も緩やかになっているような気がします。

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丹野智文(たんの・ともふみ)

 おれんじドア実行委員会代表

 1974年、宮城県生まれ。東北学院大学(仙台市)を卒業後、県内のトヨタ系列の自動車販売会社に就職。トップセールスマンとして活躍していた2013年、39歳で若年性アルツハイマー型認知症と診断を受ける。同年、「認知症の人と家族の会宮城県支部」の「若年認知症のつどい『翼』」に参加。14年には、全国の認知症の仲間とともに、国内初の当事者団体「日本認知症ワーキンググループ」(現・一般社団法人「日本認知症本人ワーキンググループ」)を設立した。15年から、認知症の人が、不安を持つ当事者の相談を受ける「おれんじドア」を仙台市内で毎月、開いている。著書に、「丹野智文 笑顔で生きる -認知症とともに-」(文芸春秋)。

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