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「ぼくは日高本線が大好きだった」。そんなタイトルの写真集が、優れた個人出版の本を選ぶ民間の表彰で最高賞に輝いた。沿線で育った伊藤未知さん(20)が小学生時代、まだ運行していた日高線の鵡川―様似間を中心に撮りためた写真で、読者から「鉄道ファン全員の財産」と評されるなど反響が広がっている。(宮下悠樹)
写真に納められているのは、2021年に廃止された日高線の鵡川―様似間(116キロ)を含む29駅。列車や駅舎のほか、海辺をどこまでも続く鉄路や、雪が積もったホームに残る足跡などのカットが掲載されている。
現在、札幌学院大3年の伊藤さんは、沿線の浦河町で生まれ、小学3年の頃から父の一眼レフカメラで鉄道を撮り始めた。地元の浦河駅をはじめ、父の車で町外にも足を延ばし、クリーム色と青のひなびた車両を追いかけた。
日高線が廃止につながる高波に見舞われたのは、15年1月。大好きな各駅に列車が来なくなり胸を痛めていたが、伊藤さんは中学進学を転機に翌16年、家族で札幌へ転居。たびたび足を運んで復旧を願ったが、鵡川―様似間はそのまま5年後に廃止を迎えた。
手元には、在りし日の日高線の姿を写した1000枚超の写真が残った。「記録として形に残したい」と23年5月、在庫を抱えずに注文に応じて個人出版できる「オンデマンド出版」大手の「パブファンセルフ」から、写真集として発売。22~23年に同社から出版された約4000作品のうち、118作品がエントリーされた「パブファンセルフアワード2024」で3月、最高賞のグランプリに輝いた。
読者からは「目線も構図もプロとは違っていて、だからこそ普段通りの日高線を見せてもらえている」「乗り越えてきた時代の重み、旅立ち、敷設の労苦と喜びまで見えてくる」といった声が寄せられた。伊藤さんは「まさかグランプリとは思わなかった。少しでも日高線を知ってもらえたらうれしい」と話している。
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