年の瀬が近づくと、あらゆる媒体で目にするベストコスメ企画。ここ数年は美容3誌だけでなく、ファッション雑誌やメンズ誌でもにぎわいを見せている。かくいう「WWDBEAUTY」も「“本当に”売れたベストコスメ」を上半期と下半期の年2回開催している。そんなベストコスメ企画がこれほどまでにぎわうようになった背景や、ビューティブランドがかける熱を村上要「WWDJAPAN」編集長と、ベスコス歴代名鑑でおなじみの美容ジャーナリスト加藤智一さんが分析する。
本当に売れたものを讃える「WWDBEAUTY」のベスコス
加藤智一美容ジャーナリスト(以下、加藤):「WWDBEAUTY」のベストコスメ企画はいつから始まったのですか?
村上要「WWDJAPAN」編集長(以下、村上):始まりは2009年です。「百貨店で売れたベストコスメ企画」としてスタートしました。もともとファッションチームは特選売り場を毎シーズン取材し続けていましたし、ビューティチームも同様。百貨店の化粧品売り場の動向を見続けてきました。コネクションを生かして、「本当に売れているものは何か」を起点にコンテンツを作りたいという思いからスタートしました。
加藤:なるほど。それで「WWDBEAUTY」では「百貨店で売れたベストコスメ」と題していたのですね。近年はドラッグストアやバラエティーショップの盛り上がりも見逃せません。
村上:ここ数年はバラエティー・ドラッグストアのカテゴリーも設けています。プライベートブランドが人気を集めたり、ハイクオリティーなプチプラコスメが続々と登場していたり、ビューティのチャネルとして外すことはできません。「本当に売れているもの」をそれぞれのチャネルからピックアップできるようになってきた手応えを感じています。
加藤:提案になってしまうのですが、「WWDBEAUTY」には未来予測をして欲しいんです。取材をしていると現在はもちろん、1年先、2年先の予測ができますよね。
村上:この年末のベストコスメ企画では、売れている理由をもっと深掘りしていきたいです。商品の解説よりも「なぜ」が際立っていた方が読者にとって気づきになりますよね。
加藤:おっしゃる通り。バイヤーの人たちのコメントをもっと知りたいです。「WWDBEAUTY」の読者は業界関係者やファッション・ビューティ業界を志す学生が多いはず。そう考えると、トレンドの一端を担うバイヤーのコメントから売れている背景や未来予測にボリュームがあると読み応えがありますよね。「トレンドキーワード5」や「トレンドキーワード7」のように、業界の今が分かるようなニュースがピックアップされていると話のネタにもできるし、良いと思いますがいかがでしょうか。
村上:ファッションではパリコレクションやミラノコレクションを取材して、半年先のトレンドを予測して解説しています。ベストコスメ企画でも同じことをやりたいですね。
媒体の色が映るベスコスは
コスメ難民の読者に納得感を与える
村上:加藤さんは美容ジャーナリストとして、さまざまな媒体とお付き合いがあると思います。そもそもベストコスメ企画とはどのような企画でしょうか。
加藤:美容好きや美容フリークから見ると、美容誌にはそれぞれ色があって、読者層が異なっています。愛らしさを大切にする「マキア(MAQUIA)」、硬派なイメージの「ヴォーチェ(VOCE)」、勉強熱心でテクノロジーへの納得感を重視する「美的」。媒体のイメージにあったアイテムがベストコスメに選ばれている印象です。ただしときに同じアイテムが各誌のベストコスメを総ナメにすることがあります。それはエポックメイキングな商品であり、一大ムーブメントを世間で巻き起こしたという証拠なんです。例えば2017年に発売した「ポーラ」の“リンクルショット メディカルセラム”などが代表的なもの。一方で美容液部門やクリーム部門では全くことなるアイテムが選ばれることがあります。色気やテクノロジー、使いやすさなど、それぞれの視点で評価されているからこそです。ファッション誌のベストコスメ企画を見てみると、差別化がさらにはっきりと見えてきます。シェアコスメに注力している媒体であれば、ジェンダーレスなパッケージも加味されるでしょう。媒体特性が反映された審査基準がありますね。
村上:その視点で各誌のベストコスメを見てみると面白いですね。さまざまな媒体がベストコスメ企画に力を入れているのは、裏返してみると各媒体の特色に応じてコスメを選べるぐらい市場が豊かになっていることでもありますよね。
加藤:世の中には化粧品があふれ、トレンドは多岐に渡ります。何を選べばよいのかが分からないスキンケア難民やメイク難民が増えてしまっています。「自分が使うべき化粧品は何?」と考えたときに、ベストコスメが参考になるわけです。自分と同じ雰囲気を持つ媒体のベストコスメを参考にコスメを購入することで納得感が得られます。
ロングセラーの背景には
明確かつ斬新な技術革新あり
村上:加藤さんが過去のベストコスメ受賞アイテムで印象に残っているものは?
加藤:ブレイクスルーを作ったコスメは、ベストコスメに選ばれ、ベストセラーになると思っています。例えば「アルビオン(ALBION)」の“薬用スキンコンディショナー エッセンシャル N”。発売当時は化粧水といえばピンクがかった透明で、香りはフローラルが主流でした。しかし“薬用スキンコンディショナー エッセンシャル N”は半透明の白濁した色みで清涼感のある香り。トレンドとは真逆と言ってもいいでしょう。けれどもベースに「アルビオン」の乳化技術があるからこそのテクスチャーなのです。目新しいがゆえに発売直後は苦戦したと聞きます。「SK-II」の“フェイシャルトリートメントエッセンス”や「コスメデコルテ(DECORTE)」の“リポソーム アドバンスト リペアセラム”も同様です。しかし徐々に商品の素晴らしさが評価されて、今ではベストセラーになっています。
村上:メイクのカテゴリーでは「ディオール(DIOR)」の“リップマキシマイザー”にも同様のストーリーを感じます。リッププランパーという新しいカテゴリーを開拓しましたよね。
加藤:ロングセラーに通じているのは、明確かつ斬新な技術革新があるということです。「WWDBEAUTY」のベストコスメでは定番品にも光を当てていますよね。ロングセラーを深掘りして過去から未来までを見通せると、新しい化粧品を産み出そうとするときに参考になるのでは。
村上:ビューティ業界の人が定番品を作ろうと試行錯誤しているのを見ているからこそ、定番品を讃える場を作りたかったんです。ファッションは定番を作るのが上手だと思っています。「シャネル(CHANEL)」ではカメリアの花やツイードのジャケットが永遠に愛されるように。「ディオール」のニュールックもしかりです。ビューティは消耗品ということもありますが、どんどん変わってしまう。それがもったいなくも感じるんです。
加藤:変わらないものもあるし、進化しているものもある。ファッションに比べて化粧品は時代に合わせてシフトしていかざるを得ないと思います。エイジングケアだって、昔はそれほど取り沙汰されていませんでした。10年前は保湿一辺倒だったのが、エイジングケアになり、最近はフューチャーエイジングというキーワードも。それぞれの時代のなりたい姿、美しさにフィットした商品へと衣替えすることで進化するんです。
高次元では何冠取るかの戦い
コスメにとってベスコスはドレス
村上:メディアにおけるベストコスメ企画は今度どのように発展するのでしょうか。ビューティブランドにとっての重要度は増していますよね。
加藤:そもそも日本人は国民性としてランキング好き。テレビを見ていると毎日のようにランキング形式で食でも旅でも紹介されていますよね。対して欧米はランク付けはしません。ベスト10は選んでも、あとは自分に合うものを選んでというのがスタンスです。だから、ベストコスメ企画はこのまま続くとみています。加えてさまざまな媒体がベストコスメ企画をやるようになった今、ビューティブランドにとって高次元では“何冠取れるか”が大事になってきました。歴代のベストコスメ受賞アイテムにもリプロモーションをかけるのは、そういった背景があるからです。
村上:各媒体の価値観のもと選ばれているからこそ、1つのアイテムが何冠も取るというのは、さまざまな価値観に対応している証拠でもあるんでしょうね。
加藤:これも国民性だと思うんです。グーグル(Google)の評価も0.1でも高い方のお店を選んでしまう。ベストコスメも10冠よりも13冠がよく見えます。今の世の中にはたくさんのコスメが溢れています。中途半端なものは淘汰され、良いものしか生き残れないからこそ、化粧品会社は当然素晴らしい商品を世に送り出しています。それに対して、アワードという称賛はありがたいですよね。ベストコスメはコスメにとってドレスのようなもの。着飾ることで、魅力が増して映えるんです。そのためにベスコスを取りたいし、何冠も狙うことにつながるわけです。