情報筋によれば、ドイツの高級ファッションEC「マイテレサ(MYTHERESA)」による、競合のラグジュアリーEC大手ユークス ネッタポルテ グループ(YOOX NET-A-PORTER GROUP以下、YNAP)の買収が進行しており、合意も近いという。
YNAPは、「カルティエ(CARTIER)」「ヴァン クリーフ&アーペル(VAN CLEEF & ARPELS)」「クロエ(CHLOE)」などを擁するコンパニー フィナンシエール リシュモン(COMPAGNIE FINANCIERE RICHEMONT以下、リシュモン)が保有しており、ウィメンズを中心とした高級EC「ネッタポルテ(NET-A-PORTER)」、メンズの「ミスターポーター(MR. PORTER)」、リーズナブルな価格の「ユークス(YOOX)」に加えて、ディスカウントECの「アウトネット(THE OUTNET)」を運営している。
リシュモンは23年8月、YNAPの株式の47.5%を高級ECのファーフェッチ(FARFETCH)に売却することに合意。しかし、取引が成立する前にファーフェッチが経営破綻の瀬戸際にあることが明らかになり、同年12月に韓国の大手EC企業クーパン(COUPANG)が買収。これを受け、リシュモンは取引を中止した。その後、24年5月に発表した24年3月期決算の説明会で、ブルクハルト・グランド(Burkhart Grund)=リシュモン最高財務責任者は、「(売却の)プロセスは進行しており、複数の当事者が関わっている」と発言。24年12月末までに取引が成立する予定だとしていた。また、5月には、「マイテレサ」が「ネッタポルテ」の買収に関心を示していると「フィナンシャル・タイムズ(THE FINANCIAL TIMES)」紙が情報筋の話として報じている。
なお、今回の件について、リシュモンおよび「マイテレサ」からのコメントは得られなかった。
「マイテレサ」の業績は?
「マイテレサ」の24年6月期決算は、流通取引総額(GMV)が前期比7.0%増の9億1360万ユーロ(約1452億円)、売上高は同9.7%増の8億4090万ユーロ(約1337億円)、営業損失は前年の870万ユーロ(約13億円)から2200万ユーロ(約34億円)に、純損失は同じく1700万ユーロ(約27億円)から2490万ユーロ(約39億円)に拡大している。なお、一部の費用を除いた調整後営業利益は同60.4%減の1060万ユーロ(約16億円)、調整後純利益は同58.1%減の770万ユーロ(約12億円)だった。
同社のマイケル・クリガー(Michael Kliger)最高経営責任者によれば、「競合が減ってきている」こともあり、24年4〜6月期(第4四半期)およびそれ以降に業績が力強く成長しているため、25年6月期の売上高は7〜13%の成長率を見込んでいるという。
なお、リシュモンはYNAPの売上高を開示していないが、ファッション業界のビジネスや法律関連のニュースを扱うウェブメディア「ザ・ファッション・ロー(THE FASHION LAW)」によれば、20億ユーロ(約3180億円)近いのではないかという。「マイテレサ」の売上高はその半分以下であることを考えると、仮に買収の合意に至ったとしても、資金調達などを含めて取引は複雑なものになりそうだ。