ファッション業界の御意見番であるコンサルタントの小島健輔氏が、日々のニュースの裏側を解説する。今回は夏休み特別企画のサマーセミナーとして「VMD」をテーマに論考する。VMDは店頭を美しく見せるためだけの技術にあらず。販売消化と人時効率に直結し、ファッションビジネスの成否を握ると言っても過言ではない。豊富な事例とともに説明しよう。
アパレル業界でVMDと言うと「陳列演出」という受け止め方が大勢だが、作業量の実勢から見れば「在庫運用マテハン方式」と捉えるべきで、方式次第で店舗の運営人時量も販売消化も大きく左右される。高単価のブランドショップやセレクトショップから低単価のファストファッションや量販チェーンまで、MDとサプライによってどの方式が適しているか考察してみたい。
VMDの基本は陳列演出とマテハン効率の両立
言うまでもなく「VMD」はVisual Merchandisngの略で、商品展開計画の店頭演出表現であると同時に、商品展開計画どおりに在庫を投入・陳列・販売消化していく店内在庫運用のマテハン(Material Handling)作業でもある。ECサイトでもVMDは重要だが顧客別検索最適かつロングテールで、何より店頭のようなマテハン作業を伴わないからCRMの一環と位置付けられよう。店頭のVMDとは異質だから、本稿では対象としない。
VMDは商品展開とサプライの特性に適した陳列演出表現とマテハン効率の両立を図るもので、陳列演出が稚拙では売り場の魅力を削いで販売効率の足を引っ張り、マテハン効率が低いと作業に時間を取られて接客販売を阻害し人時効率も落ちる。陳列演出とマテハン効率を両立しないと利益が稼げず、店舗スタッフの報酬も低位にとどまらざるを得ない。
言葉通りマーチャンダイジングを「視覚化」運用するものだから、マーチャンダイジング(商品編成が時系列に売り場を流れていくストーリー)の特性と一致する必要がある。視覚のみならず五感に訴求するエンバイロメンタルなVMD手法も否定しないが、マテハン効率とは絡まないので本稿では言及しない、マーチャンダイジングが各社さまざまであればVMDもさまざまだが、半世紀にわたって国内外有力アパレルのVMDを研究してきた筆者から見れば、いくつかのパターンに類型化できる。
コモディティ作業を集約効率化してバリュー作業に集中
店内作業でも接客販売や陳列演出は売り上げに直結するバリュー作業だが、品出しや陳列整理、在庫管理は売り上げとの相関が弱いルーチンのコモディティ作業(店内物流・管理業務)だから、後者を抑制して前者に注力できるようVMD方式や在庫管理方式を仕組む必要がある。
在庫管理の人時量を抑制するには一括読み取りも絶対単品認識も可能なRFIDタグが不可欠であり、導入すればレジ精算のセルフ化も未精算品持ち出しの防止も迷子品の回収(RFIDレーダー使用)も容易になる。食品などに比べれば単価の高いアパレルでは格段に手頃になったRFIDタグは十分にコストに見合い、防犯機能と一体化すれば費用対効果はさらに高まる。
マテハン作業人時量の抑制には品出しと陳列整理の定時集約が最も効果的で、品出し時間の定時集約に加え、閉店後の陳列整理・迷子品戻しを翌朝の品出し時に移行するだけで人時量は確実に削減できる。さすれば、欧米の一部アパレルチェーンのように専門チームに品出し陳列作業を任せ、販売職を開店前後や閉店前後のコモディティ作業から解放して、接客が集中する時間帯にシフトを集中させることもできる。
マテハン作業の組み替えや職能分業は店舗規模が大きくないと効果が限られるからMD編成の大型化やブランド統合が求められるが、高販売効率なら小型店舗でもストッカーなどマテハン作業の切り分け(バイトや物流業者活用)は可能だ。
同じ作業を行うにしても、誰がいつ、どの順序、頻度で行うかで人時効率は倍ほども変わってくる。店舗スタッフを一律に「販売員兼マテハン作業員兼キャッシャー」と扱うのは、貴重な大型トラック運転手に荷待ちや荷積み荷下ろしを強いるのと大差ない愚行ではないか。24年問題(運転手の残業時間規制)に直面する運送業界に匹敵するほど店舗人材が逼迫するまで、経営陣の認識は変わらないのだろうか。
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