2024-25年秋冬パリ・ファッション・ウイークの現地リポートを担当するのは、コレクション取材20年超のベテラン向千鶴・編集統括兼サステナビリティ・ディレクターと、ドイツ在住でヨーロッパのファッション事情にも詳しい藪野淳・欧州通信員。朝から晩までパリの街を駆け巡り、新作解説からユニークな演出、セレブに沸く現場の臨場感までを総力でリポートします。最終回は、「シャネル(CHANEL)」「ミュウミュウ(MIU MIU)」「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」「キコ コスタディノフ(KIKO KOSTADINOV)」「ウジョー(UJOH)」「ゾマー(ZOMER)」、そして新生「ラコステ(LACOSTE)」のデビューに「サンローラン(SAINT LAURENT)」の親密なメンズショー、「カルティエ(CARTIER)」の展示会をお届け!
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10:30「シャネル」
ラグジュアリーメゾンにとって、その原点や歴史は貴重な財産。近年はそこにフォーカスした展覧会や映像作品も増えていますが、コレクションにおいてもそのルーツや軌跡に向き合うブランドが目立ちます。今日の朝一番に向かった「シャネル」も、その一つ。毎シーズン異なる角度からメゾンの歴史をひもとき、現代的に解釈したコレクションを披露しています。そんな「シャネル」の歩みをもっと知りたい方は、こちらの記事をどうぞ。
ヴィルジニー・ヴィアール(Virginie Viard)が今季着目したのは、フランスの高級リゾート地であるドーヴィル。ドーヴィルといえば、帽子デザイナーとしてキャリアをスタートしたガブリエル・シャネル(Gabrielle Chanel)が1912年に初のブティックを出店した、いわばメゾンの歴史において重要な場所です。そして、ショーのオープニングに巨大なスクリーンに映し出されたのは、ブラッド・ピット(Brad Pitt)とペネロペ・クルス(Penelope Cruz)出演のショートムービー。それは、ドーヴィルを舞台にした1966年公開の映画「男と女(Un homme et une femme)」に敬意を表するものだそう。
夜明けから夕暮れまで色が移り変わる空とビーチの映像を背景に、ドーヴィルの有名な海岸沿いの遊歩道を再現したランウエイを歩くモデルたちは、落ち着きがありエレガントです。ラインアップは、大きなつばの前を折り返して留めたハットを被り、縦のラインが際立つミモレ丈コートをまとったスタイルに始まり、多彩なツイードスーツ、カーディガンやセーターと同素材のボトムスを合わせたセットアップから、ロールアップしたカジュアルなウォッシュドジーンズ暖かなシアリングのアウター、映画のフィルムやチケットをモチーフにした軽やかなプリントドレスまで。セーラーカラーのブラウスやケーブルニット、ピーコートなど海のイメージにつながるデザインも見られます。
そして、「シャネル」のシグネチャーカラーである黒と白に加え、絶え間なく変化するドーヴィルの空から引用したさまざまなピンクやオレンジ、ペールブルー、パープルなどの美しいカラーパレットにうっとり。ゴールドのラメやきらめくスパンコールは、水面に反射する光の輝きを想起させます。
ショーには、アイコニックなチェーンバッグもカラーバリエーション豊富に登場。短いストラップを手首に通してラフに持つクラッチも、海辺を散歩する今季のムードにピッタリです。また前述の大きなつばのハットに加え、キャスケットなど帽子が今季のスタイルのカギになりましたが、それだけでなく、髪を細長いスカーフやカメリカモチーフ付きのリボンで束ねたヘアアレンジも印象的でした。
11:30 「カルティエ」
「カルティエ」はパリ左岸のセーヌ川沿い、ノートルダム大聖堂(4年前の大規模火災からの再建工事が進んでいます)を望むおしゃれエリアの邸宅で展示会を行いました。ビジネスが絶好調の「カルティエ」。新作が気になりますが、残念ながらその多くは撮影NG。今年もニュースが次々登場することは間違いないです。スクエアシェイプの“トリニティ”のリングや、ボールの淵で遊ぶベビーパンテールが可愛い食器などを堪能しました。
11:30「ゾマー」
公式バスに揺られながらの移動中にエッフェル塔前を通過。ドライバーが遠回りしてしまったからこのルートになったのですが、これだけパリにいてもなかなか間近でエッフェル塔を眺めることはないので、なんだかうれしくなります。そして、「ゾマー」の会場であるパレ・ド・トーキョーに無事到着。昨シーズンデビューしたばかりのブランドですが、2シーズン目にして早くも公式のショースケジュール入りを果たした注目株です。同ブランドは、ナターシャ・ラムゼイ・レヴィ(Natacha Ramsay-Levi)時代の「クロエ(CHLOE)」やリカルド・ティッシ(Riccardo Tisci)時代の「バーバリー(BURBERRY)」で経験を積んだデザイナーのダニアル・アイトゥガノフ(Danial Aitouganov)と、雑誌「デイズド(DAZED)」のファッション・ディレクターも務めるスタイリストのイムル・アシャ(Imruh Asha)が2023年に設立。デビューシーズンからドーバー ストリート マーケット パリ(DOVER STREET MARKET PARIS)が支援しています。
コレクションは、前回に続き、アートを感じさせる色使いとフォルムが特徴。今回は、画家であり彫刻家でもあったルーチョ・フォンタナ(Lucio Fontana)から着想したといい、彼の作品に見られるような切り込みのデザインを服に落とし込みました。また、ガラス製のオブジェを胸に抱えたり、カラフルなセカンドスキンウエアで全身を覆ったり。それは、アートとファッションを融合するというコンセプトを伝えているよう。ちょっと既視感のあるデザインもあるのですが、オリジナリティーを追求した今後の進化に期待します。
そして、「ゾマー」のショーの楽しみの一つはフィナーレ。というのも、前回のショーでは、ダニアルとイムルが登場する代わりに、2人の男の子がランウエイを駆け抜けたから。今回はというと、杖をついたおじいちゃん2人が笑顔で登場しました。少年、おじいちゃんと来たら、次はどんなペアが登場するんでしょう?そのうちネタ切れしないか心配です(笑)。
12:30「キコ コスタディノフ」
今季の「キコ コスタディノフ」は、アウトドアなムード。ユーティリティーウエアを同ブランドらしいひねりや素材の切り替え、カッティングでアレンジしました。足元の長靴のようなロングブーツはミュールと組み合わせたようなデザインがユニーク。コーデュロイやベルベットといった秋冬らしい素材とアースカラーを軸にしつつ、ニュアンスのある色の独特な合わせでアクセントを加えています。また、メンズでも協業した「リーバイス(LEVI'S)」とのデニムアイテムも登場しました。
14:00 「ミュウミュウ」
「ミュウミュウ」のショーを見ながら、メモを取る手が止まりました。シャッターを押す手だけは止めてはダメだと直感し、目の前を歩くモデルの笑顔を記録に残そうと必死になりました。そのモデルは見たところ70代。“「ミュウミュウ」ガール”と素直に口に出すには抵抗がある年配女性です。その後も時々、同世代の女性が若いモデルたちに混じって歩いてきます。
ノリにノッてるミウッチャ・プラダ(Miuccia Prada)のクリエイションには注目していますが、まさかこんな角度から次の一手が打たれるとは。ショーの前にTWICEのMOMOからコメントをもらったばかりだけにそのギャップに戸惑います。ミウッチャから受け取ったこのボール、どう理解しよう?
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