「キコ コスタディノフ(KIKO KOSTADINOV)」は、2024年春夏メンズ・コレクションをパリで現地時間6月24日に発表した。デザイナーのキコ・コスタディノフは、デンマークの老舗タンナー「エコー(ECCO)」のプロジェクト「アット コレクティブ(AT.KOLLEKTIVE)」にゲストデザイナーの一人として招致され、9月には「アシックス(ASICS)」との新ライン「ノヴァリス (NOVALIS)」の発表を控えるなど、コラボレーションの話題に事欠かない。自身のブランドでの16回目となるメンズコレクションでは、どのような進化を見せたのだろうか。
ショーを読み解く仕掛け
会場となったのは、現フランス大統領のエマニュエル・マクロン(Emmanuel Macron)が在籍した、パリ随一のエリート校「アンリ4世校」の図書室だ。同ブランドは、檻のついた本棚や頭上のフレスコ画が荘厳な雰囲気を醸し出すこのロケーションを、23年春夏から3シーズン連続で使用している。コレクションノートには、二つの大きなインスピレーション源を記しており、一つはイタリア人映画監督ピエル・パオロ・パゾリーニ(Pier Paolo Pasolini)の『ラ リコッタ(La Ricotta)』(1962年)。その影響は、差し込んだイエローやピンクのカラーパレットや貴族のモチーフに及んでいるものの、コレクション全体を支配するテーマではない。
もう一つの着想源である、アメリカのコンセプチュアル・アーティストであるトム・バー(Tom Burr)の空間作品は、鋲やプリーツといった服のディテールに直接引用しつつ、会場演出にも影響を与えている。ショーのゲストは、席が並ぶ図書室にたどり着く前に、過去15回のコレクションをラックに吊るした、ショーのバックステージを模したセットを通り抜けた。ブランドの歴史を示唆するこのプレゼンテーションは、今回のコレクションを解き明かす一つの鍵となりそうだ。そしてラックのそばには、椅子や机をひっくり返して、スカルプチャーのように無造作に積み上げており、キコのカオティックなデザインの方法論を体現しているように見える。
雄弁に語る“服”
ショーは、クリーンな黒のセットアップで幕を開けた。直線的なカッティング、エポーレットから派生したような肩周りのディテール、首元のラッフルなどは、どれも舞台衣装を思わせるものだ。蒼白にメイクアップし、感情をはぎ取られたモデルは、ランウエイというステージを演じながら黙々とかっ歩する。ミリタリーやワークウエアの、元々は機能のためにあったディテールやタック、切り替えは、その目的を取り去り、装飾として落とし込んでいる。春夏シーズンにしては珍しいニットスカーフは首に巻いたほか、コートのベルトにすることでガウンのようにスタイリングした。ふくらはぎ丈のチュニックやプリミティブなパターンなど、あらゆる時代やジャンルの要素をミックスし、「キコ コスタディノフ」の服として昇華している。
同ブランドにしかできないこの独特なタッチは、過去15回のコレクションで培った独自の言語である。すべてのアイテムにそのエッセンスを注入し、ロゴを用いずとも、それだけで「キコ コスタディノフ」だとすぐに分かる。そのようなデザイン言語を確立しているデザイナーは、世の中に数あるブランドの中でも稀有な存在だと言えるだろう。
コレクションノートにある「キャラクターについての服、そして服についての服(Clothes about characters, and clothes about clothes)」という一文が、頭の中でリフレインする。業界随一の服オタクとしても知られるキコ・コスタディノフが、ついに「服についての服」を作り上げ、ファッションにおけるメタフィクションにまでたどり着いた。16シーズン分の知の蓄積を携え、この先どこへと向かうのだろうか。