三井物産はこのほど、サプライチェーンを可視化する新たなプラットホーム「ファーマーズ 360°リンク(farmers 360° link)」を始動した。ザンビアの小規模零細農家の支援を目的に、アプリを通じて綿花の生産者と消費者をつなげ現地の状況を見える化することで新たなエシカル消費体験を提供する。パートナー企業としてロンハーマンが2023年春夏シーズンの一部商品において初導入した。
同社が出資するアフリカの農業商社ETGと連携して進める。ETGが持つ8万件の綿花農家とのネットワークを活かし、必要なデバイスを供給して綿花の買取り工程をデジタル化した。これにより、農家一軒一軒の生産契約や種子の農薬使用率、農法、収穫量、その後の加工経路などの情報をブロックチェーン上で管理でき、購入者の手元に最終製品が届くまでを追跡できる。
商品金額の一部は、現地の生活者やコミュニティーの発展につながるインフラ設備などに活用する。購入者は、商品のタグについているQRから支援の内容を選択でき、その後ライン(LINE)またはメールを通じて、現地から支援項目の進捗レポートを受け取ることができる。
同プロジェクトの指揮を執る池田竜一担当は、「現地に通うなかで農家に適切な資材や肥料を購入してもらうよりも、彼らが手をかけて生産したものがまず適正な価格で売られ、生活水準の底上げにつなげていくことの方が重要だと考えた。しかし、サプライチェーンの複雑なコスト構造の壁もある。そこで生産者から消費者に直接ストーリーを伝えるアプローチが有効だと考えた」と開発背景を語り、「地球に良いことをしなければならないという義務感ではなく、生産者とつながるプロセス自体を楽しめる仕組みづくりを通して、エシカル消費への参加者を増やしたい」と意気込む。ロンハーマンを皮切りに、国内外のさまざまなアパレル企業に参加を呼びかける。
昨年約1000件の農家を対象にオペレーションのデジタル化およびデータの蓄積を開始し、今年は約3000件に対象農家を広げた。ETGが取り扱うザンビア綿は、すべてCmiA(コットンメイドインアフリカ)認証を取得しているが、池田担当によると多くの農家が綿花栽培に関する体系だったトレーニングを受けていないという。渡したデバイスを活用して、綿花を効率よく生産するための教育コンテンツなどの配信も始めた。今後は、綿花以外にもETGが取り扱うカカオやコーヒーなど他の作物にも応用させていく計画だ。