宗教学ゼミナール | 正木 晃 | [公開講座] 早稲田大学エクステンションセンター

ジャンル 人間の探求

早稲田校

宗教学ゼミナール なぜ宗教は暴力を否定できないのか

  • 秋講座

正木 晃(宗教学者)

曜日 木曜日
時間 15:05~16:35
日程 全18回 ・09月26日 ~ 02月27日
(日程詳細)
09/26, 10/03, 10/10, 10/17, 10/24, 10/31, 11/07, 11/14, 11/21, 11/28, 01/09, 01/16, 01/23, 01/30, 02/06, 02/13, 02/20, 02/27
コード 130590
定員 20名
単位数 2
会員価格 受講料 ¥ 71,280
ビジター価格 受講料 ¥ 81,972

目標

・宗教が暴力を行使してきた事実を確認します
・宗教はなぜ暴力を完全に否定できないのか、考察します
・暴力を生み出す思想や組織に焦点を当て、宗教の本質を再考します

講義概要

どの宗教も何より平和を求めると主張する。ところが歴史を振り返ると洋の東西を問わず宗教は暴力を行使してきた。時には平和を求めて暴力を行使するという思想にも出会う。では宗教が暴力と縁が切れない原因はどこにあるのか。宗教は宗教以外の要素、例えば政治的な圧力や強制をうけてやむなくそうしてきたのか。いやもともと宗教の中に暴力を正当化する思想があったのか。宗教の本質を考えるとき、この問いは避けて通れない。宗教にすればふれられたくない領域かもしれないが宗教に由来する暴力が後を絶たないどころか増えている現状を見ると、この問いを提起するときが来ていると私は思う。

各回の講義予定

日程 講座内容
1 09/26 講座の進め方について説明 全体の構想・テキストの説明・資料について詳しく説明する。全体の構想では、ゼミ生の「仕事」を説明したうえで、可能であれば、どの回を担当するか選んでもらう。テキスト以外に必要な資料は、講師があらかじめ用意し、ゼミ生に配信する。
2 10/03 宗教とは何か 宗教の定義はきわめて難しい。この事実から、宗教の多様性を理解する。日本人の大半が抱いている「宗教観」が、世界水準からするとかなり特殊なことを学ぶ。その原因が、日本の宗教が、他の地域の宗教とかなり異なる価値観を育み、その主な原因が対社会的な関係を優先さえるか、それとも個人の内面を優先させるか、という違いにあることを理解する。
3 10/10 平和とは何か+暴力とは何か 平和とは何か、暴力とは何か、を考える。喧嘩と戦争は何がどう異なるのか。暴力の起源や由来をどこにあるのか。戦争は人間だけがするのか。動物もするのか。暴力の行使において、DNAは98-99%同じという類人猿(チンパンジー・ボノボ・ゴリラ)と人間の違いはあるのか。
4 10/17 旧約聖書「モーセ五書」に見る暴力肯定 ユダヤ教・キリスト教・イスラム教が共有する旧約聖書「モーセ五書」には、人間は神による創造の直後から熾烈な暴力を行使してきたと書かれている。また宗教指導者が同時に政治/軍事指導者でもあったことを学び、セム型一神教における暴力の由来を考える。
5 10/24 イエス・キリストの暴力否定 新約聖書によれば、イエスは暴力を徹底的に否定している。第4回で学んだとおり、旧約聖書では暴力の行使が正当化されている。では、なぜ、イエスは暴力を徹底的に否定したのか、その理由と後世への影響を考察する。
6 10/31 イスラム教の開祖ムハンマドの暴力論 イスラム教の聖典コーランや開祖の言行録ハディースを読むと、ムハンマドは暴力を条件付きで肯定している。事実、暴力なしにイスラム教は成立しなかった。では、なぜ、ムハンマドは暴力を条件付きながら肯定したのか。
7 11/07 十字軍の真相 イエス・キリストが徹底的に否定してはずの暴力を、中世のカトリック教会は肯定し、ローマ教皇や神学者たちは異教徒との戦いに人々を駆り立てた。この裏切りとも言える行為は、なぜ、実現したのか。
8 11/14 キリスト教圏の宗教戦争 ヨーロッパの近世はカトリック(旧教)とプロテスタント(新教)の激烈な戦いに明け暮れた。ドイツでは人口が3分の1にまで減少したという。しかし、以後、ヨーロッパは宗教を理由に戦うことがなくなり、近代化への道を歩み出した。この大きな変化は、なぜ、起こったのか。
9 11/21 ゴータマ・ブッダの暴力否定 仏教の開祖ゴータマ・ブッダは、出身氏族が虐殺され、最重要の弟子が殺害されているにもかかわらず、暴力を徹底的に否定した。その理由は、同じように暴力を徹底的に否定したイエスと同じなのか、それとも異なるのか。
10 11/28 仏教の暴力肯定論 開祖が暴力を徹底的に否定したにもかかわらず、仏教もまた暴力を条件付きながら肯定する思想を生み出した。そこには「正しい教え」を守るためであれば、暴力も肯定されるという思想がかかわっている。そしてこの思想はキリスト教やイスラム教とも通じる。
11 01/09 中国:革命思想としての仏教暴力論 中国や朝鮮半島では、仏教が革命思想として機能してきた歴史がある。特に弥勒が現れて世直しをするという信仰は、過酷な政治に対する暴力的な反乱の旗印になってきた。その逆に、統治を正当化するために仏教が利用された事例も見出せる。それに対し、日本ではこの種の運動はほとんど起こらなかった。それはなぜか。
12 01/16 チベット仏教とモンゴル軍団 チベット仏教は極めて高度の理論と修行を開発してきた。しかしその発展にはモンゴル族の経済と軍事の両面にわたる支援が不可欠だった。そして宗派間の対立と抗争はしばしば血みどろの軍事介入をまねいた。背景には、チベット独特の政教一致という社会構造があった。
13 01/23 テーラワーダ仏教と暴力 南アジアから東南アジアに広がるテーラワーダ仏教は、自分たちだけがゴータマ・ブッダ直伝の仏教を継承していると自負し、他の宗派や思想を否定する。しかしテーラワーダ仏教には、権力と密着し、他の宗派や思想の異なる人々を暴力的に排除してきた歴史がある。
14 01/30 日本仏教と暴力 中世期の日本仏教は暴力を行使した。大寺院は僧兵を組織して敵対する勢力と戦った。浄土真宗は一向一揆、日蓮宗は法華一揆を発動した。これらの暴力は、諸般の事情から仕方なくなされたのか、それとも教義にもとづき自ら積極的になされたのか。
15 02/06 キリシタンと暴力 戦国後期から江戸初期のキリシタン(キリスト教信仰者)にはかなり暴力的な面があった。各地で在来の仏教や神道を弾圧し、島原の乱ではキリシタンではない人々を強制的に動員していた。その背景には、キリスト教が秘める暴力性、および宣教師たちの極めて独善的な価値観や方向性があった。
16 02/13 近代日本の宗教と戦争 明治維新から第二次世界大戦(太平洋戦争)の終結に至る間、日本の宗教界は、僅かな例外を除き、ほぼ一貫して戦争に協力してきた。特に昭和期の仏教界はみなそろって戦争を賛美し、協力した。その典型例として、杉本五郎『大義』という著作に注目する。
17 02/20 オウム真理教と暴力 オウム真理教は地下鉄サリン事件などを引き起こし、日本社会に大きな衝撃を与えた。実はその前から、内部では坂本弁護士一家殺害事件や信者殺害事件などが起こっていた。しかもこれらの暴力は教祖の構築した教義によって正当化されていた。そしてその背景には仏教、とりわけ仏教の最終形態となった密教の教義があった。
18 02/27 総集編 これまでの講座を総括して、「宗教と暴力」という課題に、受講生ひとりひとりがどこまで迫れたか、みずからに問う。性急な結論は必要ない。むしろ重要な課題を解明するには、時間がかかること、単純化してはならないこと、既存の説が必ずしも正しいとは限らず、疑ってみることも大切、などを認識できれば、それで十分と言える。

ご受講に際して(持物、注意事項)

◆秋・冬学期を通して学びます。日程にご注意ください。
◆休講が発生した場合の補講は、3/6(木)、3/13(木)を予定しております。
◆質問は随時受け付けますが、講座に関係が認められるものに限ります。
◆ゼミナール講座には、学びをより良いものにするための「グランドルール」があります。相互に円滑に学びあうコミュニティづくりにご協力ください。
・議論の際には、他者の意見を否定するのではなく、建設的な意見を述べて議論を深めるようにする
・対等な立場で参加し、他者の意見や背景を理解する努力をする
・ゼミというコミュニティの中で、自分のできることを見出し、コミュニティへの貢献を意識して活動する
・ゼミに参加する全員で、ゼミ全体の「思考の質」、「成果の質」をあげることをめざす

テキスト

テキスト
正木 晃『宗教はなぜ人を殺すのか』(さくら舎)(ISBN:978-4865811759)

講師紹介

正木 晃
宗教学者
1953年、神奈川県小田原市生まれ。筑波大学大学院博士課程修了。専門は宗教学(日本仏教・チベット仏教)。文献研究に留まらず、現地調査を実施しチベット・ヒマラヤ地域の調査は20回に及ぶ。高度でありながら誰でも理解できる仏教学を志向。著作は『「ほとけ」論』『現代日本語訳 法華経』など多数。

  • 外国語 コースレベル選択の目安
  • 広報誌「早稲田の杜」
  • オープンカレッジ友の店