DCTのメカニズム
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/01/13 01:13 UTC 版)
ギアセットを2系統持ち、片方のギアセットが奇数段を、もう片方のギアセットが偶数段を担当する。例えば変速段数が6段の場合は、「1-3-5-R」段と、「2-4-6」段の2つの系統に別れている(メーカーにより多少異なるが、基本的に奇数段と偶数段を分けていることは変わらない)。 各ギアセットがそれぞれのクラッチを持ち、基本的にはどちらかのクラッチしか締結しない。例えば、停止状態から1速で走り出す場合はあらかじめ1速がコンピュータによってセレクトされ、1速のギアセットすなわち奇数ギアセット側がシンクロ動作を終え噛み合って待機している。ドライバーが発進のためアクセルを開けると、半クラッチ状態を経て奇数ギアセット側のクラッチを締結し車軸に動力が伝わり前進する。その間、一方の2速ギアセットすなわち偶数ギアセットはあらかじめシンクロ動作を終え噛合っている。車が2速で走行する領域に入った場合、即座にクラッチを奇数ギア用から偶数ギア用に切り替えることで、瞬時に2速への変速が完了する。また2速への変速が完了すると同時に、奇数ギアセット側はあらかじめ次の変速に備えて3速へのシンクロを行い噛み合わせを終えて待機状態に入る。以後の変速も同様に行われる。つまり、2つの異なるマニュアルトランスミッションを交互に切り替えていくような機構である。 次の変速段を準備する際は、アクセルの踏み込み量や車速などから運転状況を自動的に判断し、シフトアップ側かシフトダウン側かを判断している(例えば3速に入っていた場合、次に2速に切り替えるのか4速に切り替えるのかを自動的に判断している)。ごくまれに変速の予測をコンピューターが誤ることもあるが、即座に訂正され、変速の際にごくわずかな間をおきつつすぐに適切なギアが選択される。一気にシフトアップやシフトダウンを行う際はギアを飛ばして変速するものもある。また、シフトダウン時はクラッチの回転数とエンジンの回転数を合わせる動作(ブリッピング)が自動的に行われることが多い。なお、これら動作を滑らかに行うには動力(エンジントルク)をバイワイヤで制御できる必要がある。 DCTではクラッチを切り替える時間そのものが変速時間となり、その時間はミリセカンドという速さで、特に速いモデルではわずか0.05秒以下程度である(モデルによって多少異なるが、旧来のセミAT等と比べるとほとんどのケースで極めて短い)。そのため、MTとは異なりクラッチを完全に切って加速を断絶する時間がほとんどないため、加速中にトルクが抜けず、乗り心地と加速を向上できるというメリットが生まれる。また、過給機を装着したエンジンの場合、MTやトルコン式ATに比べ、変速時にスロットルを絞る必要もないので、過給圧が落ちず、ターボラグを抑制できるというメリットもある。これは環境規制から産まれた「エンジンのダウンサイジング」(=エンジンを小排気量化し環境性能を上げつつ、出力不足分を過給機で補う)の潮流にマッチしていることを意味する。 また、純粋なMTと比較すると、シフトパターンが増えることによる誤操作を完全に無視することができる。またセミATと比較しても軸方向の寸法を短縮できるため、市販の小・中型乗用車では前進6段がほぼ限界であるのに対し、DCTでは前進7段以上にすることができる。多段化により、エンジンの効率の高い範囲を有効に使うことができるので、燃費や環境面で有意であり、さらにスポーツ性も向上することから、実際に多くのモデルで7速DCTが採用されている。 なお、停止状態からブレーキペダルを離しアクセルペダルに足を移行する間、旧来のトルコンATのクリープ現象と同様の擬似的なクリープ現象を起こすように設計されているので、旧来のトルコン式ATの利用者が乗り換えた際にも違和感が出ないように配慮されており、同時に微低速度域での車両の動きがぎこちなくならないように工夫されている(ただし初期のDCTには擬似クリープ現象は設定されておらず、旧来のセミATと同様、ブレーキを離すと車体はニュートラル状態となっていた)。 クラッチディスクは、乾式のものと湿式のものがあるが、何れも長寿命であり基本的には交換する必要がなく、メンテナンス・コスト面でも有利である。摩耗によるクリアランスも自動調整される(ただし日産・GT-Rは定期調整を指定している)。クラッチディスクは基本的に2つのギアセット用の独立動作するクラッチ板が同心円状に配置されるが、その機構に関しては特許が取得されているため、その特許を持つメーカーがDCTの生産を行うメーカーにクラッチを納入してトランスミッションを組み立てるなどの方法をとっている。ギア部分は従来のMTとほとんど同じ構成のシンクロメッシュ機構を持つ常時噛合式で、シフトフォークをアクチュエーターで作動させて変速する。シンクロメッシュは短時間で変速を行うために容量の大きなものが使用される。
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