防御抗原
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/05 16:50 UTC 版)
防御抗原 (PA) は、標的になる細胞の細胞膜に存在する受容体タンパク質(炭疽毒素受容体、anthrax toxin receptor, ATR)と結合する性質を持つ。PA自身も神経などの機能を阻害する毒素としての働きを持つが、それ以上に、浮腫因子 (EF) と致死因子 (LF) を標的細胞内に送り込む役割が大きい。 PAは細胞膜上の受容体に結合した後、細胞膜表面にあるフリン (furin) と呼ばれるプロテアーゼによって切断を受けて活性型になる。活性型になったPAは、互いに相互作用して集まり、細胞膜上でPAが7つ集まった7量体を形成する。PAの7量体は、細胞膜上の脂質ラフト(細胞膜を構成する脂質分子のうち、ある種のものが集まった部分)に移動し、そこからエンドサイトーシスの機構によって、細胞の内部にエンドソーム小胞として取り込まれる。さらに7量体になったPAは、EFまたはLFと結合する活性を持っているため、PAが細胞内に取り込まれると同時にEFやLFが細胞内に取り込まれる。細胞内に取り込まれたエンドソームは、異物を分解する酵素などを含んだリソソームと融合するが、このとき小胞内のpHが酸性に変わる。この刺激によって、PA 7量体はエンドソーム膜に入り込み、イオンチャネル分子として働くようになり、細胞質にEFやLFが放出される。 すなわち、PAは炭疽菌によって毒性が現れる際、もっとも重要な役割を担う分子だと言える。このことは、逆に言えば、PAの働きを阻害することで炭疽菌による発病を治療、あるいは予防することが可能であるとも言える。そもそもPAは「防御抗原」の名が示すとおり、このPAに対する抗体が炭疽から宿主を防御することから名づけられたもので、唯一ヒトに対して用いることが可能な炭疽ワクチン(成分ワクチン)として利用されている。ただしPA自体にも弱い毒性があり、一過性に神経や心臓血管の機能障害が現れる。この理由はよく判っていないが、7量体PAがチャンネル型の分子として細胞膜の透過性を高めるためだという説がある。この毒性による副作用が現れること、また十分な免疫を獲得するには複数の接種が必要なこと、免疫の持続時間が比較的短いことなどから、より優れた代替ワクチンの開発が続けられている。
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