血液の粘弾性
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2016/08/23 03:46 UTC 版)
粘弾性は、心臓が血液を全身に拍出する際に、赤血球の変形により蓄えられる弾性エネルギーに由来する血液の特性である。心臓から血液に伝達されたエネルギーは、一部は弾性体としての細胞に蓄えられ、また別の一部は粘性として散逸し、残ったエネルギーが血液の運動エネルギーとなる。心拍動を考慮に入れることにより弾性の寄与が明瞭になり、血液を純粋な粘性流体として捉える考え方は不適切であることが分かる。血液は通常の流体とは異なり、より正確に言うと弾性体としての細胞の懸濁液(もしくはゾル)として記述することが出来る。 赤血球は血液の体積の約半分を占め、弾性を有する。この弾性が血液の粘弾性に対して最も大きく寄与している。正常範囲のヘマトクリットでも赤血球の占める割合が大きいため、血球は他の近傍の血球との相互作用無しには移動もしくは変形することが出来ない。計算によると(A. Burton)、通常の状態で赤血球の(変形を考慮しない場合の)最大の体積の割合は58%である。赤血球同士の間のスペースが限られているため、血液が流れるためには細胞間の相互作用が重要な役割を果たす。この相互作用と血球の凝集能は血液の粘弾性に対する大きな寄与因子となっている。また赤血球の変形・凝集はその配置や方向が血流の影響を受けており、血液の粘弾性に寄与する第三の主要な因子として関連している。 血液の粘弾性に寄与するその他の因子として、血漿の粘度と組成、温度、流速や剪断速度がある。これらの要素が相まって、人間の血液の粘弾性、非ニュートン流体、そしてチキソトロピーといった特性を構成している。 赤血球は静止しているか剪断速度が非常に小さい時にエネルギー的に起こりやすい反応として、凝集して積み重なる傾向がある(連銭形成)。凝集する誘引となるのは細胞表面の荷電基とフィブリノゲン・グロブリンである。この赤血球の凝集の構造は、細胞の変形が最も小さくなるような配列で構成されている。非常に小さい剪断速度のもとでは、血液の粘弾性に与える影響は赤血球の凝集が最も支配的であり、対して変形能の寄与は少ない。剪断速度が増加するにつれて凝集体のサイズは小さくなり、さらに増加すると赤血球は、血漿が間を流れることが出来るような間隙を作り、また他の血球が滑って通過出来るように再配列する。この低値~中間程度の剪断速度の範囲では、血球は近傍の血球が通過できるように小刻みに動く。そして凝集が粘弾性に与える影響は消失し、赤血球の変形能の寄与が増加し始める。剪断速度が大きくなると、赤血球は伸展・変形し、血流の方向に従って並ぶようになる。この時血漿により分離された血球の層が形成され、血球の層が血漿の層の上を滑走し、血液はより流れやすくなる。粘性・弾性は減少し、血液の粘弾性に与える影響は赤血球の変形能が支配的となる。
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