甲状腺クリーゼ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/01 06:47 UTC 版)
甲状腺クリーゼ(英語版)(英語: thyrotoxic stormまたはthyrotoxic crisis)は、甲状腺中毒症の原因となる未治療ないしコントロール不良の甲状腺基礎疾患が存在し、これに何らかのストレスが加わった時に、甲状腺ホルモン作用過剰に対する生体の代謝機構の破綻により複数臓器が機能不全に陥った結果、生命の危機に直面した緊急治療を要する病態をいう。甲状腺クリーゼでは誘引を伴うことが多い。甲状腺疾患に直接関連した誘引としては抗甲状腺薬の服用不規則や中断、甲状腺手術、甲状腺アイソトープ治療、過度の甲状腺触診や細胞診、甲状腺ホルモン剤の大量服用などがある。甲状腺に直接関連しない誘因としては感染症、甲状腺以外の臓器手術、外傷、妊娠・分娩、副腎皮質機能不全、糖尿病ケトアシドーシス、ヨード造影剤投与、脳血管障害、肺血栓塞栓症、虚血性心疾患、抜歯、強い情動ストレスや激しい運動などがある。しかし明らかな誘因が不明な例も存在する。日本における甲状腺クリーゼの発生頻度は約0.2人/10万人/年と推定され死亡率は10.7%である。 従来はBurch and Wartofskyによる基準で診断された。この基準では全身症状、3つの臓器症状(循環、中枢神経、消化器)をそれぞれスコア化しその総計が61以上を確診例、45 - 60を強く疑う例、25 - 44を切迫状態としている。この診断基準では甲状腺機能検査が必須になっていないこと、甲状腺クリーゼ以外の重症例でも陽性になる場合があること、スコアの設定根拠が不明でエビデンスにかけること、煩雑であること、治療法の選択や生命予後などの関連が不明であることなどがあげられる。日本甲状腺学会から診断基準が示されている。この診断基準では甲状腺中毒症が必須項目である。中枢神経症状、発熱(38度以上)、頻脈(130/分以上)、重篤な鬱血性心不全、消化器症状の5項目のうち、中枢神経症状および他の1項目または中枢神経症状以外の3項目を認める場合はクリーゼ確実例と診断される。甲状腺中毒症に加えて中枢神経症状以外の2項目を認める場合、あるいは確実例項目を満たすが甲状腺中毒症が検査上未確定の場合にはクリーゼ疑い例となる。甲状腺クリーゼの中枢神経症状は不穏、せん妄、精神異常、傾眠、痙攣、昏睡、JCS1以上またはGCS14以下の意識障害である。 甲状腺クリーゼの治療に関してエビデンスレベルの高い治療ガイドラインは存在しない。しかし以下の3項目が重要と考えられている。それは激しい甲状腺中毒症状に対する全身管理、甲状腺ホルモンの産出・分泌・作用を低下させる治療、誘引となった疾患に対する治療である。
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