犬神持ち
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/20 09:04 UTC 版)
犬神は、犬神持ちの家の納戸の箪笥、床の下、水甕(みずがめ)の中に飼われていると説明される。他の憑き物と同じく、喜怒哀楽の激しい情緒不安定な人間に憑きやすい。これに憑かれると、胸の痛み、足や手の痛みを訴え、急に肩をゆすったり、犬のように吠えたりすると言われる。人間の耳から体内の内臓に侵入し、憑かれた者は嫉妬深い性格になるともいう。徳島県では、犬神に憑かれた者は恐ろしく大食になり、死ぬと体に犬の歯型が付いているという。人間だけでなく牛馬にも、さらには無生物にも憑き、鋸に憑くと使い物にならなくなるともいう。 犬神の憑きやすい家筋、犬神筋の由来は、これらの蠱術を扱った術者、山伏、祈祷者、巫蠱らの血筋が地域に伝承されたものである。多くの場合、漂泊の民であった民間呪術を行う者が、畏敬と信頼を得ると同時に被差別民として扱われていたことを示している。というのも、犬神は、その子孫にも世代を追って離れることがなく、一般の村人は、犬神筋といわれる家系との通婚を忌み、交際も嫌うのが普通である。四国地方では、婚姻の際に家筋が調べられ、犬神の有無を確かめるのが習しとされ、これは同和問題と結びついて問題になる場合も少なくはない。 愛媛県周桑郡小松町(現・西条市)の伝承では、犬神持ちの家では家族の人数だけ犬神がおり、家族が増えるたびに犬神の数も増えるという。これらの犬神は家族の考えを読み取って、欲しい物があるときなどにはすぐに犬神が家を出て行って憑くとされる。しかし必ずしも従順ではなく、犬神持ちの家族の者を噛み殺すこともあったという。 犬神による病気を患った場合には医者の療治で治ることはなく、呪術者に犬神を落としてもらう必要があるという。種子島では「犬神連れ(いぬがみつれ)」といって、犬神持ちとされる家の者がほかの家の者に犬神を憑かせた場合、もしくは憑かせたと疑われた場合、それが事実かどうかにかかわらず、食べ物などを持って相手の家へ犬神を引き取りに行ったり、憑いた者が治癒するまで郊外の山小屋に隠棲することがあり、その子孫が後にも山中の一軒家に住み続けているという。 犬神持ちの家は富み栄えるとされている。一方で、狐霊のように祭られることによる恩恵を家に持ち込むことをせず、祟神として忌諱される場合もある。
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