機械設備
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与圧装置・空調装置 気圧が低い高空を飛行する機体では、乗員乗客に快適で安全な環境を提供するために人員が乗る機内の空気の圧力を外気より高めに維持する必要がある。このため、機体全体が圧力に耐えられる構造となっており、搭乗口にはシールが、機体の継ぎ目にはシーリングコンパウンドが塗られている。この与圧は高度12,000mで周囲が0.19気圧でも機内は高度2,400m程度や1,500m程度に相当する気圧に保たれる。与圧と同時に内部の空気は少しずつ入れ替えられ、操縦室は2-3分で、客室は3-4分ですべてが入れ替わる量が機外から取り込まれて排出される。機外の空気は高度10,000mではマイナス40-50℃と冷たいため、ジェットエンジンの圧縮機からの抽気を流量調節弁で加減しながら空気調和装置とも呼ばれるエアサイクル空調装置に導き、内部のタービンを回すことや低圧段からの抽気や外気と混合することで温度を下げてから除湿を行い、ダクトで機内各部の天井部から送風している。排気は床の左右からダクトで集められ、与圧調整のために流量調節弁(アウトフローバルブ)で加減しながら機外に放出されるが、1980年代からはエアフィルタを通した機内の再循環空気を送風量の1/3-1/2程度混ぜることでエンジン抽気で失われるエネルギー量を減らしている。また、内圧より外圧が高くなると機体の強度が低下するので、与圧装置の故障時でも安全のためにセーフティバルブとダンプバルブで常に内外の圧力差が逆転しないようになっている。21世紀現在では、空気圧供給、与圧空気系統、防除氷系統をまとめてECS(環境制御系統)と呼ばれる。バイパス比の高いジェットエンジンでは抽気による損失が大きくなるため、新型旅客機では抽気を用いずに与圧用の電動の空気圧縮機を持つものもある。また、搭載している電子装置類の冷却も空調装置の重要な仕事である。 発電機と電気系統 エンジン補機の交流式発電機によって作られた115V、または200Vで400Hzの三相交流の電力は、電力コントロールセンターに集められ、一部が直流28Vに変換されて配電される。21世紀の旅客機では発電電力の半分近くがギャレーでの加熱調理や食品冷蔵に消費される。大型機では交流の主電力から直流28Vへ変換し、瞬停を避けるために無停電電源装置 (UPS) を経由して航法装置類に給電している。小型のプロペラ機では主電源を直流28Vとしており、ジェットエンジンを積んだリージョナル機でも同様のものがある。高圧空気によるスターターを持つエンジンでも、発電機を始動用モーターとして使用できるものがある電気系統は多重化されている。危険防止や燃料節約や装置の劣化防止といった経済的理由に加えて騒音を避けるの意味からも、機体が地上で停止している間はできるだけ推進エンジンを停止するようになっている。機内で必要な電力は主たるエンジンが停止してもAPUによって必要最小限の電力が供給可能であるが、APUもまた主エンジンと同様の理由によって停止される傾向があり、空港施設から太いケーブルを接続されて電力供給を受けるGPUと呼ばれる方法が用いられる。GPUのケーブル接続部には短い端子が1本あり、GPU電力線の端子が奥まで進んで接続が安定した後でこの端子により機体内のグランド・パワー・リレーが電力系統を切り替えることで、端子部でのスパークを避けるようになっている。多重化された電気系統には、それぞれにサーキット・ブレーカー、逆流防止器、フューズが付いており、故障に備えて主エンジンとAPUの発電機とGPUという電源からの入力を、それぞれ任意の電力系統に切り替えられるようになっている。 オイルポンプと油圧系統 主にエンジン補機のオイルポンプ (Hydraulic Pump) により3,000psi(200kg/cm2) ほどに加圧された駆動油はアキュムレータ(Accumulator、蓄圧器)を持つ油圧配管 (Pressure line) を通じて機内の各部の油圧駆動を必要とする装置へと送られ、切り替え弁 (Selector valve) や供給開閉弁(Supply shut-off valve) の操作によってアクチュエータ(Actuator、作動筒)を押し動かす。圧力の下がった油はフィルタを経由してリザーバタンク(作動油タンク、Hydraulic oil reservoir)へと戻されて、オイルポンプへ供給される。リザーバタンクはオイルポンプへの供給がスムースになるように2-3気圧ほどの空気圧が掛けられている。油圧配管の要所にチェックバルブ(Check valve、逆流防止弁)と呼ばれる片方向だけ流す弁が備えられ、通常は油圧配管内の圧力は調圧器 (Pressure regulator) によって一定の圧力に維持されるが、不具合によって配管内の圧力が規定圧を越えると、逃がし弁 (Relief valve) から作動油を逃がす仕組みになっている。油圧の配管は複数の系統に分かれていて、複数のエンジンごとに備わる油圧ポンプの他に、交流モーター駆動や高圧空気系統によって駆動される油圧ポンプなどの多数のポンプによって加圧されるなど、冗長性を得るために多重化されている。作動油は一般に燐酸エステル系の合成油が使用され、薄い紫色に着色されている。 圧縮空気系統 圧縮空気系統はニューマチック・システム (Pneumatic system) とも呼ばれ、エンジン圧縮機から抽気した高圧高温の空気やAPUから生み出された圧縮空気は、複数のマニホールドに集められ、配管によって与圧空調装置や空気圧駆動式の油圧ポンプといった機体各部の装置へ分配される。エンジンからの抽気は推進力を減らして燃費の悪化を招くため、21世紀現在では従来よりも抽気量を減らすように務めており、機内空調与圧系や防除氷系では発電機による電力の使用によって賄われる傾向がある。 燃料供給系統 燃料タンク内では上空を飛行中は機外温度がマイナス30-50℃にもなるため、何も対策を講じなければ燃料内にわずかに含まれる水が析出して氷となり、燃料供給系統内の狭部を詰まらせる恐れがある。これを防ぐために燃料タンク内にはエンジン圧縮機の高圧段からの抽気による温風等を通すパイプがあり、概ね10℃程度より冷えないように保温されている。 燃料タンク内には気化した燃料ガスが含まれるため、小さな火花も生じないように配慮される。落雷を受けた場合でも、翼の構造全体に良好な導電性を持たせて等電位とすることでアーク放電の発生を避けるように設計されている。内部点検用のマンホールも周辺部と導電され、内面に出るボルト類の先端にも金属製のドームが取り付けられる。 タンク内には隅の4箇所ほどに静電容量型の油量計が備えられることが多い。 各燃料タンクからは燃料ポンプによって圧力が加えられ、燃料供給管やフィルタ、多数のバルブを経由して主エンジンとAPUに供給される。翼内タンクの燃料はそれぞれ近くの主エンジンの燃料ポンプや翼内底部付近のブーストポンプによってエンジンへ供給することが標準的である。中央翼内や尾翼内の燃料や、不均等に消費された翼内燃料などは、各タンクのブーストポンプによってクロスフィード・マニホールドを経由して必要なエンジンに供給され、必要ならば、タンク間での移送や、空中投棄のためのベントサージ・タンクへの移動に使用される。各タンクへの入口には遮断弁が備わり、手動操作に加えて所定のレベルに達すると閉鎖されるようになっている。空港における地上施設からの給油方式では、地下の送油管を経由して主翼下面の給油口に丈夫なホースを幾本か接続し、50psi(約3.5気圧)の圧で数十分という短時間の内に大量に加圧給油されるため、急激な給油停止はウォーターハンマー現象を起こして危険となる。このため燃料の流れの変更は緩やかに行われる様に、給油車両側でコントロールされている。 APU APU(Auxiliary Power Unit、補助動力装置)は主に機が地上に駐機している間の動力源として使用される。ジェット旅客機のAPUは小型のガスタービン・エンジンであり、大型旅客機では尾部のテールコーン(テイル・ブームとも呼ばれる)内に防火壁と共に備えられることが多いが、主脚格納部に持つ機体もある。また火災に備えて消火システムが備わっている。小型旅客機ではピストン・エンジン式(=レシプロ式)のAPUを持つものもあるが、ジェット式と同様に機上のバッテリーで起動させて主たるエンジンの燃料を共用することで運転される。レシプロ機のAPUは電力を供給し、ジェット機では電力と圧縮空気動力を供給する。旅客機は空港のエプロンで駐機している間は、推進力となるエンジンを停止して無駄な燃料消費や疲労を抑え、付近の人や物を捲き込んだり吹き飛ばしたりする事故を避けることが一般的である。乗客の乗降時や機内清掃などでは機内照明や空調が必要であり、燃料給油作業や装置類の点検整備、次の飛行経路設定などでも電力は必要である。以後はガスタービン式のAPUについて説明する。推進用エンジンが停止している間は、空港からのGPUと呼ばれる電源線で電力供給を受ける他にも、APUを動かして発電機を回すことで電力を得ることが可能になっており、また、乗客の搭乗が済んでエプロンから離れる時点ではAPUから圧縮空気が作られるので、GPUの接続を切ってから推進用のジェットエンジンの始動にも活用されている。地上のGPUから電力を受ける事でAPUを全く使わず済ますことも可能であり、その場合の停止した推進用ジェットエンジンの始動は地上の専用車からの高圧空気によって始動されることも行われる。APUは緊急時には飛行中でも使用が可能である。非常用電源としてバッテリーも搭載されている。ジェット式のAPUは、同軸軸流式(シングルスプール軸流式)、同軸遠心式(シングルスプール遠心式)、2軸式(ダブルスプール式)、フリータービン式(バリアブルロード・インレットベーン型)の3形式が用いられており、このうち2軸式では低圧圧縮機が軸流式で高圧圧縮機が遠心式となっており、機内供給用の空気圧縮機はガス・ジェネレータ側とは別にフリータービンによって駆動され、空気取り入れ口も別に備える。APUの起動と定常運転、停止に関わるすべての制御は自動化されており、異常燃焼や回転異常、滑油の異常、空気取り入れ口の異常、APUの火災、空気動力源配管の破損、蓄電池の異常、コントロール信号の喪失などを検知すると、設定に応じて自動停止や警告灯の点灯による手動停止が行われる。起動はAPU制御装置へのDC電流の供給によって始まり、APUへの燃料供給系を開き空気取り入れ口・排出口を開く。次にスタータ・モーターによって駆動され回転を始める。定常回転数の10%程に達したところで滑油圧力が正常ならばイグニッションを作動させ燃料噴射を開始する。燃料への点火と回転数の上昇を確認する。回転数が50%に達すればスタータ・モータを切り離す。回転数が95%になれば電力の発電と圧縮空気の供給が可能となり、イグニッションは切られて、やがて定常運転に移行する。APUが定常運転に移行すると自動的に主燃料供給系の特定の燃料ポンプが作動して、主翼付近のAPU用のDCモータ式燃料供給ポンプは停止される。APUの停止は燃料供給を遮断して回転数が50%になれば空気取り入れ口・排出口が閉じられる。APUから供給される圧縮空気用のダクトは機体を貫き、これが破損すると与圧装置や機体構造に影響するため、ダクトに沿って多数の温度検知器が配され、漏洩を検知する。APUの燃料はジェットエンジンと共用しており、APU用燃料配管系は胴体部後半を貫いていて、万一の燃料漏れに備えて、この配管はシュラウドと呼ばれる管内に収められシュラウド・ドレインによって機外へ投棄される。APUは空港などに駐機している間など、操縦席で監視されない状態でも運転されるため、異常事態に備えて機体下部の車輪格納室壁面などに地上用操作パネルが備わり、非常停止と消火剤の噴射操作が行える。 機内通話システム 機内での音声通話や客席への案内放送用に機内通話システムが備わっている。乗務員同士でのインタホンでの通話や機外との無線交信のためのヘッドセットは差込口が共通化されている。フライト・インタホンは操縦士と客室乗務員との会話回線や無線機との接続に用いられ、各配線はオーディオ・セレクト・パネルで接続が切り替えられる。サービス・インタホンは客室乗務員同士や操縦室と客室乗務員、操縦室と地上整備員との会話に用いられる。メンテナンス・インタホンは機体各所に差込口だけが設けられており、主に地上での整備の時に作業者などがヘッドセットのプラグを差し込むことで使用される。メンテナンス・インタホンは地上ではサービス・インタホンと接続可能になっている機種が多い。拡声放送システムは客室へ機内放送を行うシステムである。乗降時などでは音楽が放送され、客室乗務員からの安全説明や案内にも使用される。操縦士からの放送が優先され、次に客室乗務員からの放送となり、音楽放送はこれらの信号がない時に放送可能となる。
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機械設備
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/07/19 10:26 UTC 版)
高度な仕組みをもつ機器にあっては、設置や調整の際に一定水準以上の専門知識が求められるものがあり、有資格者が施工・調整を行わないと機器の機能を発揮できないものがある。指定工事店もしくは指定工事業者はこのような機器を対象に独占して施工・調整する。
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