家事調停と情報技術(総論)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/08 04:00 UTC 版)
「家事調停」の記事における「家事調停と情報技術(総論)」の解説
当事者双方と調停人とが一堂に会して調停期日に臨もうとすると、出席者が調停場所へ移動するための時間及び費用が生じるために、調停期日の調整に手間がかかるし、調停期日への出席負担に偏りが生じ易くなるし、身体や精神に障碍を抱える者にとっては調停期日への参加自体が困難になることもある。また、調停期日を設定できたとしても、当事者が対面するとその間で緊張や興奮が高まることが多いために、当事者相互間や調停人に対する加害行為の危険が生じるし、その危険を回避するために同席調停や家事調停そのものを諦めざるを得ない事案、危険回避のための物的、人的負担が大きい事案も現れる。こうした課題に対応するために情報技術ないしはインターネットを家事調停で活用しようという発想(つまり通信調停)は、古くからある。 1980年代末頃には、電話による家事調停の実証的研究が既に始まっていた。電話回線を通した対話では、他の参加者の表情や視線、身振り手振りを読み取ることが難しいため、非言語コミュニケーションを活用した真意の把握や説得が十分に行えないことがある。また、調停人は、服装や態度などで少し改まった雰囲気を作り出して解決への意欲を高めるとか、機を見て決定権者に話を振り決断を促すといった技法を対面調停と同じようには使えなくなる。他方で、電話は通信品質が安定しており、かつ、機器や回線への投資も比較的安価で済むという利点がある。電話では非言語コミュニケーションが制約されるからこそ、当事者が相手当事者の威圧的な態度を意識せずにすみ、相手当事者への悪感情ではなく解決すべき問題に専念することができるという主張や、参加者に冗長な説明を自制させる効果があるという主張もある。 なお、非言語コミュニケーションを排除することの利点をさらに追求すると、文字媒体(書面の電送や電子メール、IRCなど)を主な情報交換の手段として用いる調停という発想(テキストベースの調停)に行き着くことになる。eBayの解決センター Resolution Centre は、ICANNが行う統一ドメイン名紛争処理方針と並ぶODRの代表格であり、年間約6000万件もの売買当事者間紛争を90%も解決している。こうした非言語的要素の排除が家事調停でも有効に機能するのかは、賛否両論がある。 2000年代に入ると広帯域通信やユーザインタフェースが急速に発達し、隔地者間でも動画をリアルタイムで配信することによって対面に近いコミュニケーションをとることができるようになった。2010年代には、カナダ、中華人民共和国、オランダ、イングランド、アメリカ合衆国などで通信調停が行われるようになった。2020年にはCOVID-19の世界的大流行があり、家事調停に限らず、社会生活の様々な場面で動画配信の活用が試みられるようになった。 日本は、家事紛争に対する情報技術の応用が遅れている法域であるが、仙台弁護士会紛争解決支援センターが「リモートADR」と称する通信調停を開始したり、民間の紛争解決支援機関が後述のハーグ子奪取条約に関わる紛争について通信調停を実施したり、通信調停の普及・促進を掲げる団体が発足するなど、変化の兆しも見られる。
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