分布容積
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/12/25 04:25 UTC 版)
分布容積(ぶんぷようせき、英: volume of distribution、Vd)とは薬物が瞬時に血漿中と等しい濃度で各組織に分布すると仮定したときに求められる容積 (L/kgあるいはmL/g)。体内において薬物の分布する実体積を示すパラメータではない。1-コンパートメントモデルに従う薬物の場合、ある時間における体内薬物量 (X) を血漿中濃度 (Cp) で割った値が分布容積である。
分布容積から薬物の組織への移行のしやすさを推定することができる。例えば、分布が血漿中だけに限られる場合は分布容積は血液量と一致する (0.05 - 0.06 L/kg)。例えば、エバンスブルーはほとんど組織に移行せず血漿中に分布する性質を持つ。一方、臓器に高濃度に蓄積する薬物の場合には血漿中濃度が小さくなり、分布容積が1 L/kgを超える場合もある。分布容積が大きな薬物の例としてチオペンタールやジゴキシン、イミプラミン、クロロキン、アジスロマイシン、アミオダロンなどが挙げられる。
分布平衡
血漿中タンパク質や組織内タンパク質との結合は、薬物の分布に大きく関わる。血漿中タンパク質との結合が起こりやすい場合、組織内へ移行しにくくなるため、分布容積は小さい。反対に組織内タンパク質との結合率が高いと、組織内に溜まりやすいため、分布容積は大きくなる[1]。
血漿中、組織中のタンパク非結合率をそれぞれ、、とすると、以下の式が成り立つことが知られている。
このことからも、血漿タンパク結合率が小さい (が大きい) ほど分布容積は大きくなることが分かる。特に、が0に近づくにつれて分布容積は極端に増加する。これは、組織に移行した後に、組織内タンパク質と結合しやすい薬物は非常に大きい分布容積を示すことを意味している。(例えば、ジゴキシンの分布容積は成人でおよそ400 Lである[1])
出典
- ^ a b 山本昌、岡本浩一、尾関哲也 『製剤学 改訂第7版』南江堂、2021年11月17日、297-298頁。ISBN 978-4-524-40347-9。
参考文献
- 伊藤勝昭ほか編集 『新獣医薬理学 第二版』 近代出版 2004年 ISBN 4874021018
- 中島恵美 編集 『薬の生体内運命』ネオメディカル 2004年 ISBN 4990197003
- David E. Golan, Armen H. Tashjian, Jr., Ehrin J. Armstrong, April W. Armstrong, "Principle of Pharmacology", 3rd ed., Lippincott Williams & Wilkins, 2011. ISBN 1451118058
分布容積
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/01 06:43 UTC 版)
投与された薬物は全身循環によって各組織に運ばれて組織内に移行する。ここで体内にどれだけの薬物が存在するかを知りたい場合、体内薬物量を実測することは難しいので通常は血漿中の薬物濃度を指標に推定することになる。そこで体内の薬物量と血漿中薬物濃度を関係づける定数として分布容積(volume of distribution)を考える。分布容積は容量(L)の単位を持ち、薬物が血漿中濃度と同じ濃度で均等に溶解していると仮定した時に薬物が分布できる体液の容量とみなすことができる。したがって分布容積は物理的な容積ではなく、血漿中濃度から想定された定数であり生理的容積と必ずしも一致しない。健康な成人(体重60-70kg)の血漿量はおよそ3L(0.05L/kg体重)、総細胞外液量は12L(0.2L/kg体重)、全体液量は約36L(0.6L/kg体重)である。血管外にほとんど分布しない薬物では薬理物は血管内にのみ分布し、その分布容積は血漿の容積にほとんど等しくなる。一方、分布した組織内の高分子に高い割合で結合するような薬物の場合、薬物が分布している体液量は同じであっても、組織内の薬物濃度は高くなりその反対に血漿中濃度は低下するため、分布容積は全体液容量よりも大きな値をとる。 分布容積が血漿容量(約3L)になるとき 血漿蛋白結合の高い低分子化合物か分子量の大きな水溶性薬物などで血管壁を通過できない薬物と考えられる。エバンスブルー、インドシアニングリーン、ヘパリン(0.058L/kg)、デノスマブ(0.042L/kg)が該当する。 分布容積が総細胞外液量(約12L)になるとき 親水性が高く血管から容易に組織に移行するが組織の細胞内へは移行しない薬物や血漿蛋白の結合が強く組織中の結合がわずかである薬物と考えられる。ゲンタマイシン(0.25L/kg)、アミカシン(0.3L/kg)、バルプロ酸(0.13L/kg)、ワルファリン(0.11L/kg)が該当する。 分布容積が全体液量(約36L)になるとき 血液中でも組織中でもほとんど高分子と結合しない薬物や血漿蛋白への結合は強く、組織中の結合がわずかの薬物であると考えられる。アルコール(0.54L/kg)、イソプロピルアンチピリン(0.57L/kg)、クリンダマイシン(0.67L/kg)が該当する。 分布容積が全体液量を超えるとき 組織内での結合率が血漿中の結合率よりも高く、組織中に蓄積される薬物と考えられる。モルヒネ(3.3L/kg)、プロプラノロール(3.9L/kg)、ジゴキシン(8.4L/kg)、アジスロマイシン(30L/kg)、アミオダロン(66L/kg)が該当する。
※この「分布容積」の解説は、「薬物動態学」の解説の一部です。
「分布容積」を含む「薬物動態学」の記事については、「薬物動態学」の概要を参照ください。
- 分布容積のページへのリンク