ヒューリスティックな正当化
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/19 12:57 UTC 版)
「ゴールドバッハの予想」の記事における「ヒューリスティックな正当化」の解説
素数の確率分布に焦点を当てた統計的考察から、十分大きな整数における本予想(強い予想および弱い予想)の成立が示唆される。一般に大きな数であるほど二つ三つの数の和に分解する方法も多くなるので、そのような和の中に一つは全て素数のものがあったとしても不思議ではない。 強い予想についてのヒューリスティックかつ確率論的な議論は、大まかには次のようなものである。素数定理によれば、無作為に選択した整数 m が素数である確率は 1/ln m である。故に十分大きな偶数 n に対し m が 3 ≤ m ≤ n/2 を満たすとき、m と n − m が共に素数である確率は 1/(ln m ln(n − m)) となる。このことから、十分大きな偶数 n を二つの素数の和に分解する方法の数は概ね ∑ m = 3 n / 2 1 ln m 1 ln ( n − m ) ≈ n 2 ln 2 n {\displaystyle \sum _{m=3}^{n/2}{\frac {1}{\ln m}}{1 \over \ln(n-m)}\approx {\frac {n}{2\ln ^{2}n}}} であると計算できる。この値は n の増大につれて無限大に発散するので、恐らく任意の巨大な偶数は二つの素数の和に分解できるどころか、そのような方法は幾通りも存在するであろうと予想できる。 この議論は実際にはやや不正確である。理由は m と n − m が素数であるという二つの事象に統計的独立性を仮定しているためである。例えば m が奇数ならば n − m もまた奇数、m が偶数ならば n − m もまた偶数となるが、2 を除く整数は奇数のときしか素数となりえないため、これは二つの事象の間の非自明な関係となる。同様に n が 3 の倍数、m が 3 でない素数のとき、n − m は 3 と互いに素となる可能性があり、その分素数である確率も若干高くなる。1923年、ハーディとリトルウッドはこのような解析をより注意深く行い、次のように予想した。 予想 (ハーディ・リトルウッド予想の一部) ― 任意の固定された c ≥ 2 に対し、十分大きな整数 n を c 個の素数の和 n = p1 + … + pc (p1 ≤ … ≤ pc) として表現する方法の数は、次に漸近的に等しい。 ( ∏ p p γ c , p ( n ) ( p − 1 ) c ) ∫ 2 ≤ x 1 ≤ ⋯ ≤ x c : x 1 + ⋯ + x c = n d x 1 ⋯ d x c − 1 ln x 1 ⋯ ln x c {\displaystyle \left(\prod _{p}{\frac {p\gamma _{c,p}(n)}{(p-1)^{c}}}\right)\int _{2\leq x_{1}\leq \cdots \leq x_{c}:x_{1}+\cdots +x_{c}=n}{\frac {dx_{1}\cdots dx_{c-1}}{\ln x_{1}\cdots \ln x_{c}}}} ただし式中の積は素数全体 p に渡って行い、γc,p(n) は合同式 n = q1 + … + qc mod p (q1, …,qc ≠ 0 mod p) の解の個数を表す。 この予想は c ≥ 3 において正しいことがヴィノグラードフ(英語版)により厳密に証明されているが、c = 2 の場合は未だ証明されていない。c = 2 のとき上式は、n が奇数のとき 0 、n が偶数のとき 2 Π 2 ( ∏ p ∣ n ; p ≥ 3 p − 1 p − 2 ) ∫ 2 n d x ( ln x ) 2 ≈ 2 Π 2 ( ∏ p ∣ n ; p ≥ 3 p − 1 p − 2 ) n ( ln n ) 2 {\displaystyle 2\Pi _{2}\left(\prod _{p\mid n;p\geq 3}{\frac {p-1}{p-2}}\right)\int _{2}^{n}{\frac {dx}{(\ln x)^{2}}}\approx 2\Pi _{2}\left(\prod _{p\mid n;p\geq 3}{\frac {p-1}{p-2}}\right){\frac {n}{(\ln n)^{2}}}} と単純化される。ただし Π2 はハーディ・リトルウッドの双子素数定数 Π 2 := ∏ p ≥ 3 ( 1 − 1 ( p − 1 ) 2 ) = 0.6601618158 … . {\displaystyle \Pi _{2}:=\prod _{p\geq 3}\left(1-{\frac {1}{(p-1)^{2}}}\right)=0.6601618158\ldots .} である。 この予想は「拡張ゴールドバッハ予想(英: Extended Goldbach conjecture)」と呼ばれることもある。実際、強いゴールドバッハ予想は双子素数予想にとても良く似ており、これら二つの予想の難しさは概ね同程度であると考えられている。 記事中のゴールドバッハの分配函数をヒストグラムにすることで、上述の式をより見やすく描写することもできる。ゴールドバッハ彗星も参照。
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