イオン勾配
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/03/05 18:09 UTC 版)
イオンは電荷を持つため、単純拡散で膜を通過することはできない。イオンが膜を越えて輸送される機構には、能動輸送と受動輸送の2つの機構が存在する。イオンの能動輸送の例としては、Na+/K+-ATPアーゼ(NKA)が挙げられる。NKAはATPからADPと無機リン酸への加水分解を触媒し、ATP1分子の加水分解ごとに3個のNa+が細胞外へ輸送され、2個のK+が細胞内へ輸送される。その結果、細胞内は細胞外よりも負の電位となり、具体的には約-60 mVの膜電位Vmembraneが生じる。受動輸送の例は、Na+、K+、Ca2+、Cl−チャネルを介したイオンの流れが挙げられる。これらのイオンは濃度勾配に従って移動する。例えば、Na+は細胞外で高濃度であるため、Na+はNa+チャネルを通って細胞内へ流入する。細胞内の電位は負であるため、陽イオンの流入によって膜は脱分極し、膜電位はゼロに近くなる。しかし、化学的勾配の影響が電気的勾配の影響よりも大きい限り、Na+は濃度勾配に従って移動し続ける。双方の勾配の影響が等しくなると(Na+の場合、膜電位が約+70 mVに達すると)、駆動力(ΔG)がゼロとなるためNa+の流入は停止する。駆動力の方程式は次のように表される。 Δ G = R T ln c i n c o u t + z F V m e m b r a n e {\displaystyle \Delta G=RT\ln {\frac {c_{\rm {in}}}{c_{\rm {out}}}}+zFV_{\rm {membrane}}} Rは気体定数、Tは絶対温度、zはイオンの電荷、Fはファラデー定数を表している。 細胞内のイオン濃度を次の表に示す。X-はタンパク質の総負電荷を表している。 細胞内のイオン濃度(mM)イオン哺乳類イカ軸索出芽酵母大腸菌海水細胞血液細胞血液K+ 100 - 140 4-5 400 10 - 20 300 30 - 300 10 Na+ 5-15 145 50 440 30 10 500 Mg2+ 10 0.5 - 0.8 1 - 1.5 50 30 - 100 0.01 - 1 50 Ca2+ 10−4 2.2 - 2.6 1.3 - 1.5 10−4 - 3×10−4 10 2 3 10−4 10 Cl− 4 110 40 - 150 560 10 - 200 500 X− 138 9 300 - 400 5 - 10 HCO3− 12 29 pH 7.1 - 7.3 7.35 - 7.45 (動脈血)6.9 - 7.8 (全血液) 7.2 - 7.8 8.1 - 8.2 ^ a b c 結合 ^ a b c 遊離イオン ^ 総量 ^ イオン化 ^ 培地に依存
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