注目の技術・製品
スポンジャー工場
今回の『注目の技術・製品』は大阪紳士服近代化協同組合のスポンジャー工場をクローズアップいたします。工場長の渡部真二氏にお話を伺いました。
高級スーツに使われる生地には、たいていスポンジング(縮絨・しゅくじゅう)という加工がなされます。服に仕立てる前の生地に、特殊な機械を使って十分な蒸気や熱を与えると、その後は生地が伸び縮みする心配がなくなり、縫製がやりやすくなります。つまりスポンジング加工とは 『生地を良い状態にする』 大切な工程なのです。
そのスポンジングを行う最新のスポンジャー機が、枚方の大阪紳士服近代化協同組合にあります。どのような機械なのでしょうか。
高級紳士服に欠かせない工程、スポンジングとは
大阪紳士服近代化協同組合様の工場は、何を行っているのかを教えてください。
簡単にいえば、工場に届いた生地を最適な状態にして、メーカーへ納品するまでの作業を行っています。
ロールで届いた長い生地のことを原反(げんたん)、あらかじめ服1着分ずつ裁断された生地を着分(ちゃくぶん)と言います。それらが日本国内やヨーロッパなどの海外から、ここに届きます。
各地から届いた生地に、キズや汚れがないか検反(けんたん)し、スポンジング(縮絨)をしてから巻き取り、畳んで、指定された各メーカーや工場へ納品します。
スポンジング加工というのは、高級スーツには欠かせない工程なのでしょうか。
欠かせません。あらかじめ、生地のストレスを取り除くことで『生地の状態を整え、良い状態にする』と考えてください。
スポンジングをした生地で作った服は、型崩れしにくく、長くご愛用いただけます。スポンジングされていないと、その後の縫製や裁断、プレスの段階で縮み、服になる前にサイズにばらつきが出る恐れがあります。また製品になりお客様が洗濯したあとに寸法が変わって、「どないもならん」といったことになりかねません。
スポンジングは必要不可欠な作業なのです。
やはり「高級」とされる服の生地には、ひと手間かかっているのですね。
今はスポンジングされていないような安価な服が、大量生産される時代になりました。
しかしその中でも、自分にピッタリ合う自分だけのスーツを持ちたい、という人は一定数おられます。そうした方々のための高級スーツには、スポンジング加工が施されています。
日本で唯一、1台で多機能、最新のスポンジャー機の導入
旧3台のスポンジャー機を1台にまとめたと、お聞きしました。
2020年1月に最新のスポンジャー機を導入しました。
実はそれまで、役割の異なるスポンジャー機を3台置いていました。生地ごとにウール用のマシーン、綿やポリエステル用(非ウール)のマシーン、そしてオーダースーツ用のマシーンです。
以前は灯油を使っており環境の問題も気になっていました。また、データを取ることで必要以上の蒸気を使用してエネルギーをロスしていることがわかってきました。
そこで、新たに1台で3つの機能を持たせたマシーンを、大阪の直本工業様と共に開発しました。
結果、環境にやさしい、かつ長年にわたり蓄積してきたノウハウを集約したマシーンを稼働させることができました。
最新のスポンジャー機の特徴を教えてください。
投入口を工夫して、原反でも着分でもすぐに投入でき、多品種少量生産に対応できるようになっております。
機能面では、生地ごとのスポンジング仕様を予め登録しておき、1台で全ての生地の種類が加工でき、また少ない量の蒸気を生地全体に十分浸透させ、さらに最新ミスト機能により高度な水分吸湿コントロールができるようになりました。
機械そのものが少しコンパクトになったので、操作する人間も少ない動作で済んでいます。
最新スポンジャー機の動画
ずいぶん便利になりましたね!
大阪紳士服近代化協同組合に所属の近隣企業様から頼まれた着分は、その日のうちに加工を完了させて納品するようにしています。最新のスポンジャー機になってからは、従業員の負担も減り助かっています。
稼働にかかる燃料はガスなのでCO2の排出量の削減になりますし、機械を導入したのと同じタイミングで、工場の冷暖房設備を最新のものにし、また照明をLEDに替え、省エネにも取り組みました。
コロナを経て、社員の意識と働き方が変わった
現在工場では何人が働いていますか?
工場長の私を入れて、11名です。
どうやってコロナを乗り越えてこられましたか?
コロナ禍では国からの助成金をいただき、従業員を2班に分けて、それぞれに隔日出勤してもらいました。
また、少ない従業員たちには、役割を増やすことにチャレンジしてもらいました。それまで1人1工程だけ担当していたのですが、その前後の工程までやれるように指導したのです。
コロナ禍で仕事が少なくなったとはいえ、オーダースーツの需要は伸びていましたので、おかげで着分の仕事は、予想より落ち込みませんでした。とは言うものの、少ない人数でスピーディに全工程をこなさねばならず、より一層の段取りとチームワークが要求されました。
従業員に、何か変化はありましたか?
協調性が芽生えました。また、自分の仕事が次の工程でこういう風に役立つなど少しずつ全体像をつかむことで、仕事をより自分事としてとらえるようになったのでしょう。積極的に取り組んでもらえるようになったと感じています。
現在はコロナもおさまり、コロナ前の入荷数に近づいてきて全員出勤しておりますが、今では病気などで欠員が出ても、仕事が滞りなく回るようになりました。従業員のマインドに、良いように影響したと喜んでいます。
毎日の目標も設定するようになったそうですね。
日々の目標をきちんと意識すると同時に、その日その日で急ぎものの投入もありますので、フレキシブルに対応するように心がけております。
ITシステムを導入、作業の「効率化」「見える化」にも成功
北大阪商工会議所様が、作業の効率化をお手伝いしたシステムがあるそうですね。
2022年11月から、当工場に反物を入れていただく得意先様との間で、反物の入出荷状況をクラウド上で共有できるようにしました。
すると例えば、今日は着分50枚入れる予定だというのが予めパソコン上で分かるので、早めに段取りができます。また反物が工場に着いた時には、得意先様が入力した反物の詳細データをパソコン上で確認できるため、スピーディに仕分けができます。
今までは伝票ごとの管理で、伝票の反物が揃うまで次の工程に進めなかったのですが、システムで1反ずつの管理をできるようにしたので、次の工程に進む時間を大幅に短縮できています。
作業効率もアップし、得意先様にも良い効果が出ていると。
得意先様に反物の情報を登録していただくことにより、反物が入荷したら、すぐに作業にかかれるようになりました。
また得意先様からも、自分たちが預けた反物がどうなっているか、自社のパソコンで工程を確認できます。それまでは、わざわざ当工場に連絡し、確認しておられましたから、その手間がなくなり、得意先様でもメリットを感じていただいてます。
お互い、作業の見える化ですね。
導入に当たっては、得意先様にデータ入力をお願いすることになりましたが、それだけの価値はあったと思っています。
日本に1台しかないスポンジャー機が、ここ枚方に
今後の展開を、どう考えておられますか。
当工場は大手アパレルメーカー様からの検反スポンジングを引き受けるにあたって、確かな長年培ってきた技術とノウハウを持っていると自負しています。
ただし服は季節ものなので、どうしても繁忙期と閑散期があります。春と秋の閑散期を何で埋めるかは、これからも引き続き課題です。
その課題解決の1つとして、スポンジャー機の魅力をより広く知っていただき、得意先様を増やしたいと思っています。
これまで難しいとされていた素材や、さまざまな素材の生地に対応できますし、最新のミスト技術を備えているので「生地を最大限、縮めたい」といったご要望にもお応えできます。
主にスポンジング(縮絨)のことを申しましたが、検反の能力も充分に兼ね備えておりますので、検反の業務にも力を入れたいと思います。
どうしても企業名に紳士服と付いているため紳士服だけを取り扱っているようにイメージされますが、レディースメーカー様との取引もありますので、レディースの得意先様の開拓にも力を入れていきたいと思います。
国内のスポンジャー工場は減り続けているそうですから、貴重ですね。
国内の縫製工場が減少するのに合わせるように国内のスポンジャー工場は減ってきました。今、大きなスポンジャー設備を備えた工場は全国に私どものところを含めて4カ所ぐらいではないかと思います。
長年培ってきたノウハウを集積した最新スポンジングマシーンを是非ともご覧になってください。
ご相談にも応じますので、ぜひ当工場のスポンジング加工を試してみてください。
そしてここ枚方に、日本に1台しかない特別な機械があるのだということを、ぜひ知っていただきたいと思います。