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キャンパスのレジリエンス
3. マスタープラン -キャンパス内部の考え方 / Waseda Campus Master Plan 2023
Mon 01 Apr 24
3. マスタープラン -キャンパス内部の考え方 / Waseda Campus Master Plan 2023
Mon 01 Apr 24
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2020 年度、新型コロナウイルス感染症が日本国内にも蔓延し、早稲田大学では行事の中止や授業のオンライン化が余儀なくされた。感染防止のためには人と人との物理的距離をとることが第一に必要であり、不特定多数の人が多く集まる空間の利用停止や教室内の定員削減などによりキャンパス空間のあり方も変容した。
また、世界規模の気候変動にも起因し、我が国は度重なる自然災害に襲われている。特に地震に関しては首都直下型大地震の可能性も指摘されており、多くの学生、職員などが集まる大学キャンパスでは建物の安全性の担保に加え、大学関係者のみならず周辺住民が避難可能な場所を提供する役割を担う必要もある。
これらの大規模災害、感染症に対しては、近い将来必ず発生するという想定の下、その被害を最小限に抑えるべく対策を行っていく必要がある。特に新型コロナウイルス感染症のような大規模感染症の蔓延は我が国にとって未曾有のものであったが、必ずまた起こるものとして、それに備えた感染症対策を今後も進めていく必要がある。
本ページでは大規模災害、感染症への対策として、早稲田キャンパスのレジリエンスを高めるための目標設定を行う。その 1 では大規模災害へのレジリエンスとして建物の耐震性、避難所の確保についての計画を示す。その 2 では大規模感染症へのレジリエンスとして、早稲田大学での感染症に関する研究から得た知見に基づき、換気設備の運用や先進技術の活用、これらを応用したキャンパス空間のレイアウト計画を提示する。
キャンパスのレジリエンス その1
大規模災害へのレジリエンス
災害時対応の拠点となるコア棟の策定
大規模災害へのレジリエンスを高める方策としては、建物の耐震性向上や避難所の確保が重要 であり、早稲田キャンパスでは積極的な耐震改修を進めてきている。ここでは、早稲田キャンパ ス内で拠点となるコア棟となる建物を提示し、それに基づく運営·管理についての方針を述べる。災害時の拠点として求められる設備·水準を考慮した結果、11 号館を災害時のコア棟として位置づけた。11 号館には、現在防災センターと災害ステーションの役割があり、耐震性能も新耐震基準の建物である。設備としては中圧ガス管、緊急遮断弁、非常用電源が設置されており、また早稲田キャンパスの中での防災盤とその機能が 11 号館に集約されている。
また、災害時の運営·管理については、設備·水準が整っている 3 号館、8 号館、14 号館、E 棟をサブのコア棟として位置づけ、管理体制を分散し、コア棟である 11 号館がそれらを一括管理する体制を整える。
E 棟には災害用自家発電設備を設置し、災害後 72 時間滞在可能な空間を構築。井水利用や備蓄倉庫も整備していくことで、緊急事態に対してより流動的かつ効果的な災害時対策を実施することが可能となる。
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図 災害時対応の管理マップ
キャンパスのレジリエンス その 2
大規模感染症へのレジリエンス
現状 新型コロナウイルス感染症に対する早稲田大学の感染対策
2020 年、新型コロナウイルス感染症により世界でパンデミックが起こった。新型コロナウイルス感染症によって大学の授業運用方法は大きく変化し、2020 年度多くの大学でオンライン授業が行われた。2020 年度後期には一部の授業で対面授業が再開した。
新型コロナウイルス感染症の主要な感染経路は未だ不明であるが、飛沫感染、接触感染およびエアロゾルによって感染が引き起こされると言われている。早稲田大学では、エアロゾルによる感染対策として教室定員を一人あたり 30m³/h の換気量を確保できるよう大規模な換気設備改修が行われた。
飛沫感染対策として食堂やラウンジではパーティションの設置が行われている。個人の対策としては、マスク着用·社会的距離(2m)の確保、食事時間の制限が推奨されている。接触感染対策として非接触型の検温スポットやアルコール消毒スポットが各教室および建物入口に設置されている。また、机やドアノブなど多くの人が触ると考えられる環境表面の洗浄も積極的にされている。オンライン授業も直接的な接触を避ける為に、活用されている。また、行動履歴の記入も推奨しており、濃厚接触者の判別にも尽力している。
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図 感染経路図
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図 パーティション設置の様子
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図 検温スポット設置の様子
感染対策としてのデジタル活用
大学教室等の入退室管理を学生証および教職員証で行いカメラなどの人感センサーを用いた混雑状況の把握を行い、教室等自体の在室人数の可視化を目指す。可視化により部屋自体の混雑状況を明らかにし、教室等の混雑緩和を促進する。混雑状況のサイネージ表示やスマートフォンへの共有を行うことで事前の利用判断や滞在場所の提示が可能となり、感染リスク低減を狙う。事前の混雑状況把握により、一人一人が安全に過ごせるキャンパス生活を創出する。
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図 デジタル活用した混雑状況可視化のイメージ
感染症に備える換気設備の運用
新型コロナウイルス感染症の感染経路の一つであるエアロゾルによる空気感染に関して、換気をはじめとした環境制御が感染リスク低減に有効であると示されている 1)2)3)。今後はパンデミックが発生することを想定した換気システムの検討が必要になると考えられる。循環系空調機には中性能以上のフィルターを設置することが望ましい。また、紫外線殺菌装置(UVGI) も効果があることがわかっている。気温が快適である中間期(春や秋)は窓やドアを開放して積極的に自然換気を併用利用することで感染リスクの低減を目指す。
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図 不適切な運用例
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図 適切な運用例
【参考文献】
1) 新型コロナウイルス感染対策としての空調·衛生設備の運用について[ 改訂三版 ], 公益社団法人 空気調和·衛生工学会, 2021
2)ASHRAE Position Document on Infectious Aerosols, ASHRAE, April 14, 2020
3)Lidia Morawska et al. , How can airborne transmission of COVID-19 indoors be minimised?, Environment International, 2020