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全身で楽しめる国際文学館

国際文学館・安西水丸展特集【後編】国際文学館館長インタビュー

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  • #施設と風景

Fri 08 Mar 24

国際文学館・安西水丸展特集【後編】国際文学館館長インタビュー

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Fri 08 Mar 24

現在「安西水丸展 村上春樹との仕事から」を開催中の国際文学館(村上春樹ライブラリー)は、早稲田キャンパス4号館を改修するかたちで2021年10月に開館しました。コロナ禍のもとにあっては入場制限を余儀なくされることもありましたが、開館から2年余りを経て今、自由に人が訪れ、行き交う空間として活気づいています。これまで何気なく訪れてくださった方も、安西水丸展をきっかけに興味を持たれた方も、より深く楽しめる国際文学館の見どころを十重田裕一国際文学館館長に聞きました。

【前編】安西水丸展キュレーターインタビューはこちら

はじめに
国際文学館開館に至るまで

隣り合う演劇博物館と国際文学館

隣り合う演劇博物館と国際文学館

国際文学館の構想は、2018年に小説家の村上春樹氏のご厚意による資料寄託・寄贈が決定したことから始まりました。国際文学館のもととなる建物は村上氏が学生時代に通いつめたという坪内博士記念演劇博物館に隣接する4号館で、そのリノベーションにあたっては早稲田大学特命教授の建築家、隈研吾氏が設計を担当、そして株式会社ファーストリテイリング代表取締役会長兼社長の柳井正氏から費用の全額寄付をいただき、実現に至りました。

十重田裕一国際文学館館長(文学学術院教授)

十重田裕一国際文学館館長(文学学術院教授)

十重田館長
「寄託・寄贈いただいた資料は村上さんの刊行書の初版本や執筆関係資料のほか、蒐集したレコードなど大変貴重なものばかりです。そして、資金を寄付していただいた柳井さん、設計を担当していただいた隈さんと、人と人とのつながりで、大変幸運なプロセスがあって実現したと思います」

見どころ① 建物
村上文学の世界をイメージ

木がうねるように配されたエントランス

木がうねるように配されたエントランス

国際文学館として生まれ変わる前の4号館は、政治経済学部の研究室や会議室、教室やラウンジもあり、主に同学部の教員や学生が集う建物で老朽化も進んでいました。演劇博物館に隣接するということもあり、ここ一帯が文化の拠点となるような、早稲田の持つ文化の魅力を発信する場所としてリノベーションが実施されました。

十重田館長
「設計を担当された隈さんは、村上さんの文学をよくお読みになっていて、村上文学の世界からイメージされた空間を自由に創造してくださいました。木がうねるように配されたエントランスの庇をくぐり建物内部へと入っていくと、国際文学館の象徴ともいえる階段本棚が現れます。村上さんの作品にたびたび登場する井戸やトンネルのような無意識へと潜っていく世界観を想起させ、木を印象的に用いた、これはもう隈さんしかありえない、誰が見ても『隈研吾』と思ってくれるような大変魅力的なリノベーションをしてくださったのではないかと思います」

見どころ② 蔵書
さまざまな世界にアクセス

エントランスをくぐるとますはじめに現れる階段本棚。テーマごとに配された日本国内外のさまざまな作品と出会える

エントランスをくぐるとますはじめに現れる階段本棚。テーマごとに配された日本国内外のさまざまな作品と出会える

国際文学館の蔵書は、村上さんから寄託・寄贈された書籍を中心に、一般に閲覧できるものだけで約3000冊あります。階段本棚には、村上さんの作品に連なる作品と世界の文学作品を配し、ギャラリーラウンジには、村上作品の初版本と世界50言語以上で発行された書籍が置かれています。また、研究書庫には村上作品を研究する研究者向けの資料をそろえています。

十重田館長
「村上さんの文学を起点としながら日本国内外のさまざまな世界にアクセスできるような工夫をいたしました。ですから、村上さんの作品だけでなくて、建築や都市といったテーマの書籍や写真集もあり、工夫をしながら自由に並べてあるので、『これ読んだことある』『自分の国の言語に翻訳された村上さんの作品だ』といったように、海外の方が来られてもアクセスできるような、ここを訪れることによって違う世界に行けるような楽しみがあるようです。この場所がたまたま早稲田大学にあるだけで、世界のどこにあってもいいような、開放的な空間にしようというのが当初からのコンセプトでした」

1階のギャラリーラウンジには村上作品の初版本と世界50言語以上で発行された書籍が並ぶ

1階のギャラリーラウンジには村上作品の初版本と世界50言語以上で発行された書籍が並ぶ

見どころ③ 展示
文学から広がりがある展示を

現在開催中の「安西水丸展 村上春樹との仕事から」の様子

現在開催中の「安西水丸展 村上春樹との仕事から」の様子

国際文学館では春と秋に企画展を開催しています。これまでに、「建築のなかの文学、文学のなかの建築」(2021年秋)、「音/言葉を刻む、ジャズと文学」(2022年春)などを開催しました。現在は「安西水丸展 村上春樹との仕事から」を4月9日まで開催中ですが、4月26日からはフランツ・カフカに関する企画展を開催予定です。

十重田館長
「建築と文学に関する展示や翻訳など、文学だけでなく、いろんな広がりがあるような展示をしていきたいなと思います。展示の仕方などもだんだんブラッシュアップされていって、非常に洗練されたいいものになってきていると感じます。国際文学館のスタッフのみなさんも慣れてきて、もっといい展示にしようという雰囲気が醸成されてきているので、もっともっとよくなるんじゃないかと期待しています」

見どころ④ イベント
作家を身近に感じて

1月18日に開催された国際フォーラム「ウクライナの避難者の声から言葉の『今』を考える」の様子<br />

1月18日に開催された国際フォーラム「ウクライナの避難者の声から言葉の『今』を考える」の様子

国際文学館では、「村上春樹presents」「Authors Alive!」「キャンパス・ライブ」など各種イベントの企画・開催もしています。なかでも「村上春樹presents」では、村上氏が自ら企画・出演するイベントとして、これまでに、「山下洋輔トリオ 再乱入ライブ」、「白石加代子の怖い話『雨月物語』」などを実施、幅広い層の方々が観覧に訪れています。

また、先日1月18日にはウクライナの詩人、オスタップ・スリヴィンスキー氏を招き、国際フォーラム「ウクライナの避難者の声から言葉の『今』を考える」を開催。ウクライナから早稲田大学に留学中の学生4人も登壇し、証言集『戦争語彙集』を通じて紛争と「平和」の現在地を見つめ直しました。

十重田館長
「イベントは大隈記念講堂や井深大記念ホールなど大きな会場で開催することもあり、満席になるほど盛り上がります。国際文学館などで行う『Authors Alive!』は著名な作家が出演する朗読イベントで、これまで多和田葉子さん、小川洋子さん、平野啓一郎さん、又吉直樹さんなどにご登場いただきました。村上さんが聞き手役をやってくださったり、作品を朗読したりと、ずっと遠くにいるような作家が身近で話している雰囲気が生まれます。『キャンパス・ライブ』では、スガシカオさん、真心ブラザーズ、ゴスペラーズ、ピアニストの大西順子さんなど著名なミュージシャンが出演し、いずれも村上さんや村上さんの作品とのつながりを大事にしており、館内のスペースなどを活用して、少人数ながら観覧者と出演者の距離が近い、満足度の高いイベントとなっています」

見どころ⑤多様な設備
自由で風通しのいい空間を全身で楽しんで

文学とともに音楽を楽しめる1階のオーディオルーム

文学とともに音楽を楽しめる1階のオーディオルーム

国際文学館の建物内には、書架だけでなく、オーディオルーム、音声収録ができるスタジオ、村上春樹氏の書斎を再現したエリア、在学生が運営・経営するカフェ「橙子猫(Orange Cat)」などがあり、さまざまな楽しみ方ができる空間です。

十重田館長
「国際文学館は非常に多様で、自由で風通しのいいところだと思います。たとえば、村上さんのファンの方であれば、村上さんの貴重なご著書がそろっていますし、それから、50カ国語以上に翻訳された村上さんの単行本もここでみることができます。そして研究資料も充実させるべく、資料の収集と公開に努めていますので、村上さんについて研究する上でもとてもいい環境になっているかと思います。また、カフェが好きで来られる方もいて、リラックスして音楽を聴いたり、みなさんとおしゃべりをしたり、本を読まれたりする方もいらっしゃいます。村上さんはジャズを含め音楽にとても造詣が深く、寄託・寄贈していただいたレコードを1階のオーディルームで聴くこともできます。全身を使って楽しんでいただけるような、これまでにない文学館になったんじゃないかと思っています」

地下1階のラウンジでは読書を楽しむほか飲食も可能です

地下1階のラウンジでは読書を楽しむほか飲食も可能です

終わりに
皆様のご支援ありがとうございます

国際文学館の入館料やイベントの参加費用はすべて無料で、「村上春樹ライブラリー募金」への寄付金によって運営されています。通常の募金のほか、イベントの際に募金を募ることによって、次のイベント開催につなげるだけでなく、国際文学研究、翻訳文学研究、村上春樹文学研究の推進などのためにも活用されています。寄付は常時受け付けており、2024年3月31日までに10万円以上寄付された方には、国際文学館内に設置した銘板での顕彰をしています。3月1日には、寄付者の方を対象とした特別イベント「Authors Alive!特別編:村上春樹×川上未映子 春のみみずく朗読会」も開催されました。4月以降も募金は継続し、寄付者の方への特典などを今後も企画していく予定です。

十重田館長
「寄付金によって運営されていますが、寄付金がいつもふんだんに集まってくるというわけではありませんので、ご寄付は大変ありがたいことです。そもそもの国際文学館の設置も人とのつながりから始まっており、そして、イベントや展示の開催も、皆様のご支援のおかげて成り立ってきました。ここまで本当に人と人とのつながりで、この空間が良くなっていくのを感じています。これからも皆様のご支援をどうぞよろしくお願いいたします」

3月1日に行われた「Authors Alive!特別編:村上春樹×川上未映子 春のみみずく朗読会」の様子(左から小澤征悦さん、川上未映子さん、村治佳織さん、村上春樹さん)

3月1日に行われた「Authors Alive!特別編:村上春樹×川上未映子 春のみみずく朗読会」の様子(左から小澤征悦さん、川上未映子さん、村治佳織さん、村上春樹さん)

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